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ドールズ☆ナイト

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10 - 第10話 閉じ込められた生徒たち

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2024年09月26日

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2階にあるのは西から順に、西階段、特別室、放送室、校長室、職員室、職員更衣室、東階段を挟んで視聴覚室だ。


「どこだ……!!」

渡慶次は立ち止った。


廊下には誰もいない。


もし復活したピエロが東側の階段を下りてきたとしたら、廊下で鉢合わせると思っていたのだが。

いや、今までの回復スピードからするとピエロが到達しているのには早すぎる。


しかもその方向には比嘉たち3人がいた。

あの3人を簡単に一瞬で殺したとも思えない。


じゃあ、他にもいるのか?

ピエロのようなおぞましい怪物が。

それとももっと別の何かが。


悩んでいても仕方がない。

渡慶次は一部屋ずつ開けていくことにした。


放送室を開ける。


暗い部屋に並べられた機械がウィーンと起動音を立てているだけで、人の気配はなかった。


次は校長室だ。


こんな機会でもなければおそらく一生近づくことのなかったであろう扉に手をかける。


重いそれを開けると、


「……!!」


窓から差し込む月明かりに照らされたシルエットが見えた。


長いポニーテール。

彼女だ。

両手を引きつらせながら硬直している。


「上間!」


その正面には、黒い影が彼女の口を押えながら立っていた。


「お前……!!」


渡慶次はその影に近づくと、上間の口を押えていた手を掴んだ。


そしてそれを捻るようにして引き上げた。



「……いてててて」


緊迫感にそぐわない棒読みのような低い声が響く。



「――お前は」


渡慶次は目を見開いた。


それはクラスでも1位2位を争うほど影の薄い男子、


知念繁(ちねんしげる)だった。


「お前、この非常事態に乗じて何をしようとしてんだよ!」


内気な彼がまさかそんなことをするわけがないという思いと、万が一そんなことをしようとしたら許さないという思いが交錯し、渡慶次は知念を睨み落とした。


「ええ……」


知念は捻り上げられた腕が痛いのか、渡慶次に心底呆れているのか、片目を細めながら言った。


「違うの、渡慶次くん。勘違いしないで」


上間が間に入って渡慶次の腕を払った。


「私が急に現れた知念くんにびっくりしちゃっただけなの」


「―――あそ」


渡慶次は上間を見下ろした。

だいぶ態度は卑屈だが、久しぶりに目があった気がする彼女は、すぐに視線を知念に戻してしまった。


「ホント、お化けみたいにヌッて現れるんだもん……!」

笑いながら言う上間に、


「ごめんね」

知念が相変わらず感情を交えず返事をしたそのとき、


カタン。


廊下の方から音がした気がした。

ほぼ同時に校長のデスクの裏側にしゃがみ込んだ。


「…………」


「――――」


「…………?」


目を見合わせる。

何も聞こえない。


3人は誰からともなくため息をついた。


「……こんなとこにいるより、1階から外に逃げた方がいいんじゃないの」


渡慶次が上間と知念を交互に見ながら言うと、上間が首を振った。


「ダメだったの。窓も昇降口も全部施錠されてて――」


「?鍵なんて開ければいいじゃん」


「最後まで聞きなさいよ!開けようとしたの!」


もっと上間と会話をしていたかったのに、ぷいと向こうを見てしまった彼女の代わりに知念が話し出した。


「鍵はびくとも動かないし、椅子で窓を破ろうにも防弾ガラスのごとく割れないんだ」


「……つまりはこの学校に閉じ込められたってことかよ」


渡慶次が言うと、知念は首を傾げた。


「って言うより―――このゲームに、かな」



知念は感情のこもらない声で淡々と続けた。


「ゲームってさ、必要なければ外の世界とか細かいところとか作らないじゃん。学校以外の世界はもともとないんだよ。ここでは」


「…………」


渡慶次は立ち上がった。


窓の外にあるはずのグラウンドを見下ろす。


「…………」


確かにグラウンドはあった。

その奥に並ぶ住宅地も、空に浮かぶ月も星も見える。


しかし―――。


「マジかよ……」


その景色は張りぼて同然で、凹凸がない。

上空を飛んでいく飛行機もなければ、道路を通る車もない。


時間が存在しない町には、何一つ動きがなかった。


「じゃあ、本当にここは……ホラーゲーム『ドールズナイト』の中だっていうのかよ」



そのとき、


――――ガタン。


廊下から大きな音がした。


慌てて3人は再びデスクの下に潜り込む。


――ガタッ。ドンドン。


何だろう。

何かが近づいてくる。


――ドカッ。


扉が開いたのが、窓脇に置いてある水槽に反射した光の動きでわかる。


ピエロか?


それとももっと他の何か恐ろしいものだろうか。


「………」


黙ったまま目の前の上間を見つめる。


「……ッ」


彼女は両耳を抑えて、白い膝の間に頭を隠すようにして蹲っている。


彼女を、佐藤や山崎のように、体の中から破裂させるわけにはいかない。

田中や小松、そして高橋のように、潰されるのだって嫌だ。


―――俺が守る。必ず……!



渡慶次はフウッと息を吐きながら、勢いをつけて立ち上がった。



「――――」


渡慶次はソレを睨むと、大きく息を吐いた。



「―――お前。マジふざけんなよ」


渡慶次の声と表情に、知念と上間もゆっくりと首を伸ばした。


「あはは。……やあ!」


そこに顔を引きつらせて立っていたのは、吉瀬達と一緒に逃げたはずの新垣だった。


「驚かせないでよ、新垣君……!」


上間も大袈裟にため息をつき、感情の読めない知念も呆れたように息を吐いた。


「ごめんごめん。だってこっちだって、中にいるのが人間か化け物かわからないんだから、警戒するの当たり前じゃん?」


月明かりに照らされた新垣の後ろの壁に大きな影ができる。

それにさえ一瞬ビビってしまう自分が嫌になる。


「他の奴らは?」

渡慶次が首を回しながら言うと、


「わかんない。みんなそれぞれ教室とか特別室とかトイレに隠れてるんじゃね?……しかしなんなんだよ、ここ。全然電気つかねえの。怖いよな」


新垣はそう言いながらこちらに近づいてくる。


そうだ。

まるで通電していないかのように照明はつかない。

学校内を照らしているのは、不自然なほど明るい月明かりだ。



―――ん?


おかしい。


電気が通っていない……?


じゃあなんで、アレは動いてたんだろう……?



「どうやら学校に閉じ込められてるみたいだし」


新垣が近づいてくる。


「これってもしかしてクリアしないと出れないってやつぅ?」


影も、近づいてくる。


「でもあのピエロを倒すなんてさぁ……」



「――あ」


「……嘘」


「おい……!」




――影じゃない。


そう気づいたのは3人同時だった。



新垣が連れて来たのは、


彼の本物の影に紛れた、



ピエロだった。



「え?……んぐッ!」


「新垣!」


3人の異常に気が付いた新垣は、ピエロが持っていたバトンで殴られ、校長のデスクに突っ込んできた。


「……くそっ!」


渡慶次は校長室に目を走らせた。


左右にある本棚は埋め込み式で倒せない。

中にある本も薄い物ばかりで、例え投げたとしてもダメージはない。

デスクの上を見ても、ペン立て、固定電話。だめだ。どれも鉄球のような致命傷は与えられない。


――いや、違う。


鉄球でもダメだったのだ。

現役当時、130㎞を超えると言われていた渡慶次の速球をもってしても、倒せなかったのだ。


それなのに、こんな狭い校長室で逃げ場もなく投げる物もなく、いるのは百戦錬磨のヤンキーたちではなく、女子と、地味男子と、腰巾着。


勝てるわけない。

それどころか、

逃げられるわけがない。


『バトンは、好きカイ?』


ピエロが首を直角に曲げながら、誰とも焦点の合わない目で見つめた。


「……いやあああっ!!」


上間がわなわなと震えながら出窓の棚に手をつく。


――ダメだ。

ここでやられるわけにはいかない……!


渡慶次は奥歯を噛み締めた。


何かないか?

何か……。


「!」


肘にソレがぶつかった。


――これだ……!


渡慶次はそれの淵を両手でつかむと、


「おらあああああ!!」


渾身の力を込めてピエロに向かって振り投げた。



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