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【とても素敵な6月でした】
を参考に書いています。
自殺を仄めかす表現がありますが死ネタ、それを促す作品ではありません。
とても素敵な楽曲なので、もし良ければ聞いてみてください。
未完ですが、続きが思いつかず断念しました。
knhb
nmmn
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体が重い。まるでコンクリートに思い切りぶつかって体が粉々に壊れたみたいな痛み。
意識が飛びそうな痛みに、歯を食いしばって我慢する。
辺り一面はただの空き教室で、普通の学校の風景なのに、今の自分の惨状があまりにこの風景と似合わなくて、ここが現実なのか疑うほどだ。
こんなことがあってもなお学校のチャイムはなり騒がしかった外は静かになる。
黒板にチョークを叩く音、先生の喋り声、生徒の笑い声。全てが忌々しくて、拳をにぎりしめる。
すると扉が開く。足音もなかったそれにびっくりして顔を上げれば憎たらしいほど見知った顔があった。
「あちゃ、酷くやられたね」
「うっせ…」
「立てる?」
「無理やね」
「それもそっか」
こいつは風楽奏斗。生徒会長であり、俺の幼なじみ。
奏斗は俺の身体を持ち上げ座らせると、保健室から持ってきたのか救急箱を取り出してあちこちにある傷にひとつずつ消毒をしてガーゼを巻いていく。
「それ、どしたん」
いつもはない奏斗の右目を指さしてやれば気まずいように目を背け、笑う
「んー、ものもらい。」
「…そ、」
絶対嘘や、とつっこもうとしたが、奏斗が嫌そうな顔をするから。
沈黙。
6月、梅雨はすぎたのだろうか、もう空は青く雲ひとつない晴天と言っても違いないほどに
クーラーのないこの空き教室は少し蒸し暑いようにも感じる。
外を見ていると、鳥が空高く飛んで行ったのが見えた。
奏斗は手を止めこちらに目を向ける。
「ひばさ、いい加減教えてよ、誰にやられてんの」
「知らね」
「…もー…」
奏斗はその答えがわかっていたように分かりやすく落胆した。
手当が終わったのか素早く救急箱を片付けている。
お礼をいれば「なら早く相手教えろよ」と言われたので撤回する。
奏斗は俺の手を取って歩き出す。
行先は屋上らしい。
生徒会長が立ち入り禁止の屋上にいいのかとも思ったが、それを読まれたのか「生徒会長だからいいんだよ」と煽られ、「生徒会長サマサマじゃん」と煽り返しておいた。
屋上に行くと、澄み渡った青い空があったが、どうしてか魅力的に思えなくて、全てが灰色に見えた。
比喩表現ではあるが、本当にそう見えるような気もしていた。
「雲雀は屋上来ないよね。意外。昔から空好きだったじゃん」
「……そうだったっけか」
「僕、雲雀の昔のこと、ずっと覚えてるよ」
奏斗は空を見つめている。奏斗の蒼い目に空の青が反射され、キラキラと輝く。
その青だけは、ずっと嫌いになれなかった。
きゅ、と手を繋がれて、奏斗は寂しそうにこちらを見る。
すると夏風がびゅうと吹き出して、奏斗は目を瞑る。
何かが壊れたような音がした。
夏風が吹き、目を瞑れば、雲雀の笑い声が聞こえる。
ハッとして目を開けば雲雀は口を大きく開けて笑っていた。
何が面白いのか、何がそんなに嬉しかったのかわからなかった。
「雲雀?」
――ちがう、雲雀は、泣いている
「―かなと、お前の好きな俺はもう居ないよ」
雲雀はそれだけ言って、あんだけ固く握っていた手は簡単に解かれ、僕が唖然としている間に雲雀は屋上から出ていった。
夢の中の雲雀は、ずっと笑顔で、幸せそう。
僕の手を引いて、公園で遊ぶ。
雲雀は笑って、わらって、泣き出した。
その、チグハグさに違和感を覚えた後、目が覚める。
現実と夢の差は、これほどまでに残酷なのだろうか。
雲雀の親が、母親が、雲雀を置いて踏切に飛び出して他界して。
雲雀は多額の借金を背負わされ、挙句にはその噂で雲雀がいじめにあっている。
どうしてこんなことになったんだろう。
僕の人生も父親のせいでめちゃくちゃだし、雲雀には僕の言葉が届かない。
夢の雲雀と、現実の雲雀が交差して無茶苦茶になる。
夢の雲雀が恋しくて、まだ目を瞑る。どうか泣かないで、雲雀はずっと笑っていて。
――欺瞞の産物で出来た、仕組まれた雲雀の不幸は、僕の足元で踏み台となっている。
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夢の中の奏斗は、俺よりずっと賢くて、真面目で、外なんか知らないって顔してた。
だから、連れてってあげた。海に行って、山に行って、珍しいネモフィラが咲き誇る丘で、二人で走り回った。
奏斗はわらって、ずっと笑っていた。
奏斗に似合う青い花は灰色の背景に違和感すら与えない程、綺麗に輝いていた。
奏斗の違和感に気付いた時、ネモフィラは枯れ果て、荒野と化す。
そこで目が覚める。
学校の時の同じように体が重く、だるい、クーラーもないこの家の夏は生死をさまようのが日常だ。奏斗に貰った水を飲み、奏斗に貰った小型扇風機を付け、涼む。
今思えば俺は、奏斗が居ないと生きていけないほどに生活が苦しくなっている。
「…かなと」
奏斗が今、家の事で大変なのは知ってる。
詳しくないけど、奏斗が嫌がってるのは分かるから。
俺にはどうすることも出来ない。奏斗を救ってやれない。
――羽の折れた鳥は、どう生きるのだろうか。
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外を歩いて散歩をしていると、海が見えた。海が見える場所には踏切があって、そのところには花が飾ってある。
道端で採ったたんぽぽをお供えして、お参りをする。すると電車が来たみたいで。
いっその事母親のところに行ってみたいなぁ。そうしたら、もう苦しまなくて済むんかな。
踏切の声がうるさくなって、踏み出す足と、警鐘を鳴らす脳。
「っひば!!!!」
「っあ」
けたたましい聞き覚えのある声に肩を震わせて、強い力で腕を引っばられる。
耳がキーンとなったところで目の前に電車が通り過ぎる。
「な、にやってんの」
「……何もやってないよ、お供えしに来ただけ。」
「……そう、僕も」
「…俺帰るから」
「待って」
奏斗に腕を捕まれ、奏斗のお参りが終わるのを待つ。
「奏斗、ここによく来るの」
「…うん、ここは、一瞬でも自分の罪の重みを楽にしてくれるから。」
奏斗は苦しそうに眉を下げた。
「…でも、暫くは来れそうにないんだよね。だからこれは夏最後のお供え。次来るのは冬かなぁ」
「次は一緒に来よ」
そう言うと奏斗は嬉しさを噛み締めたような顔で俺の手を握った。それが答えなんだろう。
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