カツン、カツン、と歩く音が聞こえる。 それは初め遠くから響く音だったが徐々にこの部屋の前まで近づき、音を止めた。
ギィィ…と軋ませながら古く重い扉が開く。
「どうです?ここの生活ももう慣れたでしょう?」
「…慣れるもんなのこれ?…あ、フェージャ、ここ寒い。暖炉つけて?後お菓子も追加でお願い。」
「…全く、貴方は閉じ込められている割に自由ですね。良いですよ。全て手配しましょう。」
そう言い、また重い扉を閉め、ガチャリと鍵をかけ何処かに行ってしまう。
今回はすぐに帰ったなぁ。あ、暇つぶしも頼めば良かったかな?次来た時でもいっか。
今私がいる場所はヨコハマの中心部にある骸砦という場所。
数日前街を歩いていたところをフェージャに上手いこと連れてこられほぼ監禁状態にある。
このぐらいの建物なら秒で抜け出せるがいかんせんある目的がフェージャにあるらしい。
その1、私の異能のエネルギーを利用する。
その2、治に見せつけて吠え面をかかせる。
その3、最近会えなかったから一緒にいたい。
…実質私の異能のエネルギーさえ渡せば別に着いていかなくても良くね?
でもそのほかの目的は私にとって少なくとも不利益はない。それに暇だったから着いて行ってしまったのだ。
まあ、反省はしているよ?急に消息を絶ったし。でも後悔はして無い。だってお菓子もあるしベットでかいし!
まあでも暇なのだ。フェージャ来る時少ないし。
そう思った矢先また扉が開く。
「お待たせしました。お菓子です。羅紫さんはどう言ったものが好きなのか分からなかったので取り敢えず沢山持ってきました。」
「おおお!ありがとう!」
フェージャの持っている籠には洋菓子、和菓子など色々なお菓子が入っていた。
「あ、すみません、暖炉は今日中には用意できないとの事です。」
「まじかや…どーやって寝よう?寝る時に広いベットだと割と寒いんだよね…」
布団はあるがやっぱり寒い。暖炉欲しい。
そう言うと何か思いついたかのようにフェージャの赤い瞳がこちらを見る。
「そうですね、では一緒に寝ましょう。二人だと暖かいと思います。」
「え?フェ、フェージャと?!」
思っても見なかった発言に吃驚する。まあベットは広いし出来なくもないが、私が恥ずかしい。
「…嫌ですか?ぼくは羅紫さんと一緒に寝たいです。」
しゅん、と項垂れて悲しそうに此方を上目遣いで見つめる。
そんなんされたら、…ダメじゃんか!!
「え”!いや全然ちっとも嫌じゃないです!」
「そうですか。ではもう夜も更けています。寝ましょう。」
いつの間にか扉を閉め、内側から鍵を掛けて此方へ近づく。
流れる動作に固まっていると謎の浮遊感が私を襲う。
「ちょ、!フェージャ!重いです!」
「そうですか?虚弱体質の僕でも持てるんですからもっと食べてください。」
いつの間にか姫抱きされベットに寝かせられる。
ベットで横になりながら見ると帽子や装飾品を取っていくフェージャ。
「羅紫さん、首のところの留め具、外してもらえますか?」
「あ、はい…」
ベットから身を起こす。フェージャが正面を向いているので前から手を回し首に触れる。しかしそこには何もなくそれを伝えようと口を開く前にそのまま押し倒された。
「ひゃっ…えっと、フェージャ?」
今までに無い程顔が近い。私を見つめているその瞳は私の心まで見透かされていそうでゾクゾクとした快感が襲う。
「羅紫さん、此の儘ぼくと一緒にいきませんか?」
甘く蠱惑的な声で囁く。度数の高い酒を飲んだ時よりもフワフワとした気分だ。
彼に従えばもっと快楽を得ることができる。根拠も何も無いが体がそう言っている気がする。
肯定の言葉を紡ごうと言葉を発する前に別の人物が言葉を発する。
「抜け駆けかい?魔人くん。」
「…ああ、太宰くん。出し抜かれた君が悪いのでは?」
いつの間にこの部屋に入っていたのだろう。声で治だと分かるが薄暗く顔がよく見えない。
その心を読んだかのように近づき、ベットの淵に腰掛ける。
「おや?羅紫、薬を盛られてるね?それも遅効性。…魔人くん、薬を使わないといけないくらい自信が無いのかい?」
「太宰くんこそ何重にも隠されているこの部屋を見つけ、最新式の鍵を解く程ぼくに取られると思ったのでしょう?」
くすり?かくされている?さいしんしき?
ぼーっとしている頭に二人の会話は内容はどうであれ良い睡眠薬となった。
太宰side
羅紫がいない。
探偵社にも来ていないしマフィアにも目撃情報はない。拐かされたかと思ったが羅紫は強いしその可能性はない。然し暇つぶしとか言って攫われていきそうだ…
まあ大丈夫だろうと思った矢先に異能力者連続自殺事件の犯人、澁澤龍彦のいる骸砦に向かう事となった。
そこには謎の多い魔人フョードルもこの砦に居た。然し様子がおかしい。
この砦内で姿が不定期に消えているのだ。”何かを隠している”そういう結論に達するのは然程時間は掛からなかった。
「魔人くん。君は何を隠している?」
「おや、唐突ですね。 …嗚呼、一つ伝えることがありました。…宝石は貴方のものでは有りません。ぼくのものです。…では。」
随分と意味深な言葉だ。内容をさらに聞き出そうにも去って行ったし。
宝石…?澁澤が集めた異能は宝石のように結晶化する事なんてとっくに知っている。
それは彼も同じだろう。しかし彼の目的は異能結晶そのものでは無いはず。
では宝石とは何か。私と彼に共通する、奪い合うような何か…真逆!
「へえ、羅紫がこの砦にいるとはねえ?」
なかなか良い趣味をしているじゃ無いか?魔人。
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