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高校には施設に移ってから行ける目処がたった。だから弟にもそうして欲しかった。父から逃げる事も出来るから。けれど弟はあの野郎を哀れに思って、 俺と一緒に施設で生活するという選択肢をけった。正直腹立たしかった。せっかく根回しをして助けてやろうと言うのに俺の手はあのクソ親父の為にと振り払われる程度のものであると言われたのだ。そんなヤツじゃないとはわかっていながらも今までの鬱憤を弟に向けてしまいそうになる。
俺一人では弟を助けられないのだといい加減理解した。だから高校で仲良くなった元生徒会長に頼んで見かけたら声をかけてもらった。それでも弟は逃げようとも抗おうとも思わなかった。
俺にとってはたった1人だけになってしまった家族で、俺が一生守るべき人間なんだ。弟が生まれた時の俺の気持ちをあいつは知りはしないが、それでも大切なんだ。
俺にはこれしか無かった。アイツは暴力に屈しなかった。だから同じように稼ぎに行って策を立てても無駄だ。となれば父よりも酷いことをしなければならない。大丈夫、アイツは優しい子だから神は歓迎してくれるはずだ。人間としての未来を拝む道を選ばせてはやれないが、幸せになれる。
俺たちは子供だから拳銃を持たせては貰えない。それは子供がお金を持つことと同じだからだ。お金の使い方によっては身を滅ぼしてしまう。それよりも強い影響を与えるものが武器。身を守るために見せることも出来るが、簡単に他人を殺せてしまう恐ろしいもの。大人は子供が金に溺れることのないように、暴力に溺れることがないようにそれらを与えないんだ。
だから探した。
施設の2階、階段を上がってすぐ右が職員のひとりが寝泊まりしている部屋だ。部屋の奥にテレビ台が配置されており、引き出しの中には小さな鍵が入っていた。デスクワゴンの上段に鍵穴があったから、差し込んでみればピッタリはまった。開けると、やはり拳銃がしまわれていた。用心深いが無意味だろう。いざと言う時に鍵を開けていては殺されてもおかしくは無い。
普段と同じ振る舞いで遊びに行くと伝えて、見つかる前に出ていこう。見つかる前に済ませよう。
しばらく使っていなかった玄関の鍵を使用して家に入った。鍵で開ける音を父と思ったのか階段から降りてくる弟。俺を見ると珍しいと驚いていたような表情をしてから笑った。弟は部屋に案内してくれる。前と何ら変わりのない様子が俺を最早呆れさせた。
部屋に入ると、飲み物を取ってくる、そう言ってドアノブに伸びた手首を掴んで弟をベッドに投げた。突然の事で理解が追いつかなかったのか茫然とするばかり。馬乗りになって身動きを取れなくした。胸ポケットから拳銃を取りだして額に当てる。どうしたら良いのか分からないと困惑していた。
申し訳ないとは思っている。エゴイストだと分かっている。けれどこれ以外の、これ以上の術が俺には分からなかった。大丈夫、お前は神に好いて貰える。だから安心して殺せる筈なんだ。その筈なんだが。
「*Dies ist der einzige Weg, um Ihnen zu helfen.*」
(これしかお前を助ける道は無いんだ。)
俺は2度引き金を引いた。2発目が妙に軽かったように思ったが血は正常に溢れている。
思えば生きていてやりたいことは無かったように思う。強いて言えば、誰にも怒られず、邪魔されず、友人と、弟と、平穏な1日を過ごしてみたかったというくらいだ。アンドレアス、2人目の弟は元気だろうか。母を困らせてはいないだろうか。病気がちだったから、清潔な空気を吸っていてくれるのいいんだがな。
弟の額を貫通し、床には赤い大きな円を描いた。それを拳銃のフロントサイトとリアサイトで斜め下から支えるように倒れ込む。死に際に、弟の死に顔を拝むとはどういう因果か。弟の顔、それも額に初めてキスをしたのは俺だったのに。
どうかお前が神に正しく愛されることを願う。