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しゃかしゃかと泡だて器でクリームがもこもこしていく。
「そこのお姉さん、ちょっと味見してもらえますか?」
キッチンの入り口で覗き見ていたのがバレていたようだ。
そっと側に近づいて、小指で一口すくって食べる。
逃げるように背中に隠れる。
「ちょっとお姉さん?僕の背中に隠れても、僕が振り向いたら意味ないんですよー?」
頭の上からそんな声が聞こえた。
困ったのでとりあえず抱きついてみる。
「んもー、かわいいんだから。お味はどーですか?」
咄嗟に声が出なくて、大きく頷いた。
「なんだか僕の背中がいつもより暖かいような…?もしかしてだれかくっついて…。」
続きを聞く前にぶんぶん横に首を振った。
「かわいいなぁ。」
反射的にさっきより強く抱きしめた。
ソファーに座っていると、色とりどりのマカロンが運ばれた。
「さあ、召し上がれ。」
黄色がレモン、桃色がベリー、黄緑色がマスカット、緑が抹茶、白がバニラらしい。
「久しぶりに作ったから、成功してるか怪しいけど。」
苦笑いでそう言って、黄色のマカロンを口元まで近づけられる。
一口かじる。
「どう?おいしい?」
私が小さく頷くと、ぱぁっと笑顔になって、もう一口、もう一口、と勧められる。
「あ、そうだ。余ったマスカットも持ってくるね。」
せかせかとキッチンに戻っては、また食べさせに来る。
そのどれもを、抵抗せずに口に運ぶ。
「少し優雅なおやつタイムだね。」
そう微笑んでいた。
窓の外が暗くなった頃。
手をつながれた。
そろそろ夕食にしようと提案されるのかと思ったが、手をつながれた。
それから急に抱き上げられる。
「……?……?」
「大丈夫大丈夫。」
ぎゅっと首に腕をかけて、顔を胸あたりに押し当てた。
目を閉じていても、どんどん運ばれていく。
空気が変わって、聞き慣れない扉の音がした。
「一回腕離してー。」
言われるがままにすると、車の助手席に降ろされた。
あっという間にシートベルトを装着され、気づけば車は発進していた。
「???」
わけも分からず外の景色を凝視した。
住宅街を抜け、大きな道に入り、どんどん道路の車の数が減り、やがて海が見えた。
「もうすぐ着くよー。そろそろ収納スペースに帽子とサングラスあるから、つけといてね。」
言われるがままに、手前の収納スペースを空ける。
薄いピンクの帽子をかぶって、色の濃いサングラスをかける。
「あ、やば、小さめのマスク買っておくの忘れた。普通サイズじゃ大きいよね。」
よくわからず頷いた。
「今日は少し大きいけど、普通サイズので我慢してもらえますか?」
また、よくわからず頷いた。
「多分貰い物の普通サイズのがあったんだよね…。」
浜辺の駐車場に車を止めると、マスク探しが始まった。
「あった。」
運転席側のドアポケットに、個包装のマスクが2枚。
取り出して紐を耳にかけてくれる。
「つけようねー…やっぱ普通サイズ合わないね、僕もだけど。 」
ミラーをのぞいて、二人でくすくす笑った。
色違いの帽子に、同じサングラスとマスク。
不思議な格好で外へ出る。
エスコートされて着いたのは、ベンチ式のブランコ。後ろは海だった。
辺りはほんのりライトアップされている。
いっしょにブランコに乗って揺れる。
潮風で髪が少しなびいた。
「ご機嫌いかがですか。」
「………。」
答えに悩んだ。
ぐるぐる悩んでいると、抱きしめられた。
頭をぽんぽんされて、耳元で囁かれる。
「まだ難しかったかな。大丈夫だよ。これからも一緒にいようね。」
腕を回して、大きく頷いた。