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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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赤組さんのソロワンからクリスマスまでのお話
以前「喧嘩する青桃」というリクエストをいただいていたので、クリスマス前にケンカしてしまう2人の話を書いてみました
あにきの紹介で他の活動者との食事の場を設けてもらった帰り道、夜はすっかり更けて終電も逃しそうな時間になっていた。
「あれ、まろそっち帰るん?」
自宅方向へ向かう終電はもうすぐ発車する。
ホームへの階段を上がろうとすると、あにきが俺の後ろで首を傾げた。
「え? うん。家帰るけど」
ここからならあにきと方向が一緒だ。
同じようにホームへ上がろうとしただけだったのだけど、その問いの意味が分からず俺は肩越しに振り返った。
「…ないこん家に帰るんかと思とった」
続いたあにきの声は少しだけ遠慮がちで、らしくないと思わされるような響きを含んでいた。
あにきは漢らしくて回りくどい言い方をしない人だけど、こういうところは割と配慮しようとしてくれる。
俺が、自分の置かれている状況やその時抱えている感情を簡単に口にするタイプではないと知っているからだろう。
それが分かっていて、尚もはぐらかすほど無神経でもない。
俺はホームへの階段に一段足をかけたところで止まった。
「…明日、ないこソロワンマンライブやん? 今日は明日に備えてはよ寝るって、さっきポストしとったし」
本当はそうなることが分かっていたから、今回の食事会の日程の希望をあにきに聞かれたときも、第一候補に今日を挙げておいた。
大きなイベントがある前日は、きっとないこは一人で落ち着いて過ごしたいだろうから。
「……でもなぁ…まろやったらソロワンマンライブみたいに気合入れたい前日こそ、好きな相手と一緒におりたいって思いそうやけど」
階段にまだ足もかけていないあにきは、俺より下段でこちらを見上げてくる。
レザージャケットのポケットに両手を突っ込んでのその視線は、ごまかしの効かない真剣さを帯びていた。
「……そうやね、『俺』はね」
俺なら多分、ライブ前日こそないこを抱きしめて眠りたい。
だけどないこはそうじゃないと知っている。
あいつは効率厨で、やる事成すことに無駄がない。
だからこそ、前日は誰かと過ごすよりも自分一人の時間を持った方が、その後の展開をスムーズにさせるという経験則も得ているのだろう。
俺の意図するところを読み取ったのか、あにきは小さく吐息を漏らした。
特段俺の思考を責めるつもりも、ないこに対してどうこう思うわけでもないようで、ただただ本当にため息をつくだけ。
「…まぁソロワン終わったらないこの仕事量も落ち着くやろうし、2人でゆっくりする時間もちょっとは取れるやろ」
「……ん」
そんな時間ほんまにできるんかな。
そう思った俺に対して、あにきは慰めのような言葉を継いだ。
「クリスマスももうすぐやし、どっか行ったりなんかうまいもん食えたらいいな」
「……そうやね。ありがとうあにき」
心配してくれていることに素直に礼を言って、俺は踵を翻す。
上りかけていた階段を、今度は踏みしめるように一段一段上がっていった。
赤組のソロワンマンライブは言わずもがな大成功で終えた。
リスナーさんのポストを見かけ、りうらの歌が褒められていたりないこのおもしろさが絶賛されていたりするたびに自分のことのように嬉しくなる。
そんな大成功だったライブを終えたばかりだというのに、ないこは翌日の日曜からいつも通り働き始めていた。
朝早くから忙しく動き回っているないこを横目に、クリスマスの予定をいつ切り出そうかと考える。
…完全にあにきにけしかけられた形だけど、不思議と悔しい気持ちはなかった。
何せここのところろくにゆっくり2人で時間を過ごすなんてことも皆無だったから、それだけ自分にも余裕がなくなっているのかもしれない。
「あ、そうだまろ」
隣で同じようにパソコンのキーボードを叩いていた俺に、ないこが思い出したように横を向いて声をかけてくる。
「これあげる」
差し出されたものを、条件反射のようにして受け取った。
手のひらに乗せられたそれに視線を落とす。
「…なにこれ…? パス?」
どこからどう見てもライブの関係者用招待パス。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。その目に映った、そこに書かれている日付は「12月25日」だった。
「あにき、クリスマスに大阪で他の活動者さんのライブに参加することになってるじゃん。この前の福岡もまろ応援に行ってくれたし、今回も行ってきなよ」
確かにそれは、この前福岡でも使用させてもらったパスとそっくりだった。
ないこが先方にわざわざ話して手に入れてくれた貴重なものだとは分かる。
…分かる、けど……福岡の時とは違う、複雑な感情が沸く。
だってその日は…。
「それとさ、往復の新幹線と結構いいホテルの部屋も予約しといたから、その日はゆっくりして来な」
後でその予約詳細もスマホに送っとくわ、なんて言うないこは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑っている。
「こっちの仕事のことは気にしなくていいからさ」なんて付け足してまで。
「……なんで…?」
ぽつりと、言うつもりもなかった言葉が漏れた。
パスに視線を落としたまま伏せ目がちな俺に、ないこが「…え?」と声を零す。
「何で、勝手に決めるん?」
「何でって…まろいっつも頑張ってくれてるし、クリスマスプレゼントのつもりで…」
分かってるよ。俺は昔からあにきを尊敬してるし、あにきの歌が好きだ。
ライブでのパフォーマンスには毎回泣くほど感動させられるし、それを知っているから、ないこが善意でこんな贈り物をしようとしてくれたことも。
だけど…だけど今は、それがちっとも嬉しく思えない自分がいる。
本当は、多分もっと必要としてほしかった。
ソロライブ前日には、心を落ち着けるために抱き着いて眠ってくれるほど。
普段どれほど忙しくても、年に一度のクリスマスくらいは自分といることを望んでもらえるほど。
「ないこの気持ちはありがたいよ。いっつも休み少なく働いとる俺にご褒美のつもりやんな。やけど…」
きっと俺が手放しで喜ぶと思っていたんだろう。
淀みなく言葉を継ぐ俺の声を、ないこは驚いたように大きな目を更に見開いて聞いている。
「やけど、何でそこにないこがおらんの? 何で俺の欲しいものを全部お前が勝手に決めるん?」
「!? …は…!?」
思いもしないことを言われたと思ったのか、ないこの表情が瞬時に変わった。
目を剥いて眉を寄せる。
「そんな大げさなこと? プレゼントってそもそも相手が本当に欲しいものかどうか分かんなくても、相手を思って喜びそうなもの渡すものなんじゃないの? お前誰かに何かもらうたびに『それ俺の欲しいものじゃないけど。何でお前が決めるの?』っていちいち突っかかんの?」
「そういうことじゃないやん」
「じゃあどういうことだよ。全然分かんないわ、お前の言ってること」
「俺が喜びそうって選んでくれたプレゼントに、ないことの時間が含まれんのは何でなん?」
多分これが、ないこも一緒にあにきのライブに行くのなら大喜びしたと思う。
…そうだよ、俺は別に何かが欲しいわけじゃない。
ただないこと一緒にいたいだけだ。
俺の言葉を受けて、ないこは一瞬黙りこんだ。
クールダウンするかのように少し視線を外す。
多分そうでもしないと俺に怒鳴り返していたんだろう。
「…めんどくさ」
舌打ちまじりの呟きを残して、ないこは席を立つ。
ぽつりと一人残された部屋に、痛いほどの静寂が降りた。
結局あの後すぐ、ないこはライブの疲れもあったのか体調を崩して高熱を出してしまい、2人きりで話をすることも叶わないまま25日を迎えた。
予約された新幹線やホテル、先方にもらったパスを無駄にすることもできず、結局当日自分は大阪の地を踏んだ。
ライブ中は他のことを考える隙もないくらい圧倒された。
それくらい素晴らしい内容と歌声だった。
来てよかったと、純粋にそう思う気持ちもある。
なのに、あの時変なところで珍しく妙に突っかかってしまった自分に対して、後悔の念が押し寄せていた。
「まろ、打ち上げ一緒に行こ」
主催者側の方たちとの打ち上げに俺も参加させてくれようと、あにきが手招きした。
そうして楽しい時間を過ごしたけれど、一次会だけ参加してその後は遠慮した。
あにきはまだ積る話もあるだろう。一足先にと俺は一人でホテルへ戻る。
ないこが予約してくれていた部屋は、確かに普段より豪華だった。
いつも活動関係で宿泊するときはシングルルームばかりだから、それに比べると一人では広すぎるくらいだ。
過分な贅沢に身を竦めながら、カードキーで部屋のドアを解錠する。
いつもなら入ってすぐのカードホルダーにルームキーを差して明かりを点けるところだけど、その時はもう中の照明が煌々と灯っていた。
「おっそ!」
広い部屋の一番奥。
これまた通常より大きくて豪華な木製のテーブルチェアに、腰を据えたないこがいた。
思わず目を瞠って息を飲む。
「…え、何で…」
「何でじゃないよ。打ち上げまであると思わなかったわ。おかげで日付変わるんじゃないかってひやひやしたじゃん」
俺の帰りを待っていたらしいないこは、その間も仕事をしていたのか、そう言いながら尚もキーボードを鳴らし続けている。
「いや、鍵とか…」
「予約したの俺だし、この部屋元々2人以上で泊まれる部屋だし、フロントで変更してもらって鍵ももらった」
「……ごめん」
「『ごめん』?」
俺の呟きを繰り返し、ないこはようやくそこで顔を上げた。
PCの画面から視線を外し、ピンク色の瞳がこちらを見上げてくる。
「俺があんなこと言うたからやんな。…ごめん、ないこも忙しいのに大阪まで来させて」
「はぁ? 別にそんなんじゃないし」
笑みも浮かべず眉根を寄せて、ないこは唇を歪めてみせた。
「まぁ確かに、あにきのライブとか一泊のクリスマス休暇とか絶対喜ぶと思ったのに、キレられてびっくりしたわこっちは」
「……ごめん」
「でも別にそれで来たわけじゃないから」
ついと再び視線を逸らし、ないこのその目はまたPCに向けられる。
キーボードに手を乗せ、何らかの作業の続きに戻っていく。
「まろにキレられたくらいでわざわざ大阪まで来るわけないじゃん」
一度言葉を切って、ないこはかたかたとキーボードを鳴らしたまま言葉を継いだ。
「俺が来たいから、来たんだよ」
こちらを見ないようにしているのか、PCを注視したままのないこの横顔。
その耳がほんのり赤くなっているのは気のせいじゃないだろう。
「…ないこ」
静かに呼びかけた俺の声で察したのか、しっとりとした雰囲気になりかけるのを阻止するべく、どこまでも照れ屋なないこは「あー」とわざとらしいくらいの大きな声を漏らした。
「その代わり、帰ったら本気で仕事手伝えよ。今日明日、こっち来たせいで俺大して何もできないんだから」
「それは、今すぐそのPC閉じて明日までは俺の相手だけしてくれるってこと?」
「は?」
「うれしい、ないこ」
「ばかか!勝手にいい風に解釈すんな…!」
だって、わざわざ大阪まで来てくれるっていうのはそういうことに他ならないだろ。
座ったままのないこに手を伸ばし、こちらへと引き寄せる。
往生際悪くまだPCを触ろうとするものだから、ぱたんと大きめの音を立ててそれを閉じてやった。
そしてそのまま抱きしめて、その香りを空気ごと吸い込むように息を吸う。
ソロワン前には、本当は抱きしめてあげたかった。
終わった後は労いの意味を込めて一緒に眠りたかった。
その分を穴埋めするように、今ないこの全てを吸い尽くしたい。
そんな俺の感情が読みとれたのか、ぎちりとホールドした腕の中で、ないこが「…勝手にしろ」と呆れたような…だけど少しだけ嬉しそうな、そんな苦笑いを漏らした。
コメント
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クリスマスにこんな神作が投稿されるなんて……この時代に生きていて良かったです😭😭💕 桃さんの善意が青さんにとって1番求めていたものじゃないというのが深くてそれぞれの人物の細かい感情も書けるあおば様が大尊敬です…👉🏻👈🏻,,, 桃さんと居たい青さんの可愛さと余裕のある雰囲気のギャップにやられました😖💘 最高のプレゼントありがとうございます!!