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触れるだけのキスで二人の唇は熱を帯び、徐々に息づかいが荒くなる。
「……っはあ、……ん……」
何度も角度を変え、互いに求め合うキスへと変わっていく。
初めこそぎこちなかった詩歌も、徐々に慣れてきたのか郁斗に応えようと彼のペースについていく。
そして、互いの身体が疼き、キス以上に進みたいと思ってしまう。
けれどここは病室で、郁斗はまだまだ安静が必要だ。
それをお互いに感じ取ったのか激しいキスから軽いキスへと戻っていき、名残惜しげに互いの唇を離した。
「……はぁ……、っ」
「これ以上しちゃうと、止められなくなっちゃうね」
郁斗と同じ気持ちだけど、それを言葉にするのは少し恥ずかしい詩歌はこくりと首を縦に振って頷いた。
「……詩歌ちゃん、ちょっと順序が逆になっちゃったけどさ……」
「……はい?」
「俺、詩歌ちゃんの事、好きなんだ」
「郁斗……さん」
「俺の、彼女になってくれるかな?」
「……私……」
「余計な事は何も考えなくていい。詩歌ちゃんの素直な気持ちを教えて欲しい。俺の彼女になって、傍に、居てくれるかな?」
そんな郁斗の問い掛けに詩歌は、
「……私も、郁斗さんが……好きです。 離れたくない……ずっと、傍に置いてください……もう、離さないで……」
再び涙を零しながら、郁斗の腕の中へ飛び込んだ。
二人がお互いの想いを伝え合い、恋人同士になってから暫く、安静を強いられていた郁斗が無事に退院出来る事になった。
そしてその頃にはあの救出劇からひと月半程が経っていた。
退院してすぐ、市来組の事務所へ呼び出された郁斗と詩歌は恭輔と向かい合わせで座っていた。
「あれから黛の回復を待って、アイツのこれまでの行いから警察に引き渡された。その流れで奴に関わっていた連中も次々と捕まったが、花房や四条に関しては、注意勧告と罰金で済む事になった。奴らは黛や苑流の駒として使われていたようなものだからな。ただ、会社の方には色々と調べが入ったようで、今後の事はどうなるか分からねぇがな。」
「……そう、なんですね」
恭輔から義父や婚約者の話を聞いた詩歌の表情はどこか浮かないものだった。
「それと詩歌、花房たちがお前と会って話がしたいと言っている。アイツらの身柄はまだ神咲会が預かっているからお前に話す意思があるなら、こちらの方で日時や場所を決めておくが……どうする? 勿論、会う気がないなら断っても構わない」
「…………」
「詩歌ちゃん、無理に会う必要はないよ。けど、思う事があるなら会ってきちんと話をつけた方が、後のためにはいいかもしれない」
「……そう、ですよね。あの、私、会います。会ってきちんと話をします」
「そうか、分かった。ではそれについては詳しい事が決まったら追って連絡をする」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そもそも事の発端となったのは自分の家出だった事、いくら義理とは言えど、戸籍上家族の義父とはいつか話をしなくてはならない事もあって今回会う決意を固めた詩歌だったけれど、やはりどこか乗り気にはなれないでいた。
そんな彼女の気持ちをよそに会う日取りが決まり、気乗りしないまま当日を迎えてしまう。
「詩歌ちゃん、大丈夫?」
「……はい。先延ばしにしたところで、いつかは話をしないといけませんから」
指定された場所はとあるホテルの一室で、立会人もいる。
部屋の前に来るまでは詩歌一人で義父や婚約者と会うつもりでいたのだけど、入る直前になって郁斗に、
「郁斗さん、一緒に話を聞いて貰えないでしょうか? 一人だと、やっぱり不安で……義父たちと上手く話せるかどうか、分からなくて……」
共に付いて来て欲しいと願い出た。
「分かった。それで詩歌ちゃんがきちんと話を出来るなら、一緒に行くよ」
「ありがとうございます」
こうして詩歌は郁斗と共に、数ヶ月ぶりに義父や婚約者と顔を合わせた。