なぜ自分が存在しているのかも知らない。
なぜなら、彼にとって彼女と過ごす時間は、何よりも大切なものだったからだ。
だからこそ、彼女はいつものように彼と過ごしている間もずっと考えていた。
このまま自分は、彼と共に生きていきたいと思っている。
だがその一方で、もしも自分が死んだ時に、彼はまた独りぼっちになってしまうのではないかと心配になることもあった。
ならばいっそ、今のうちに真実を打ち明けてしまおうか。
だけどそれで、彼を余計に苦しめてしまうかもしれないと思うと、どうしても躊躇してしまう。
そこで彼女は考えた末に、一つの決断を下した。
――――彼はこれから先、二度と自分を裏切らないよう、自分に呪いをかけようと。
その方法とは、彼自身が自分の正体を明かすことだった。
だが、当然のことながら、そんなことは出来るわけがない。
そもそも自分には心臓がなかったはずだ。
仮に今あるのが仮初であったとしても、やはり無理なのだ。
ならば、どうして自分はこうなっているのか? 答えは簡単だ。彼女がやったことが、自分にも出来ただけに過ぎない。
彼女と同じように、自分を生贄にして、彼女に願っただけだ。
自分の魂を捧げる代わりに、彼女を救って欲しいと。
だが、そんな願いなど叶うはずもない。
なぜならば、あの子はもう既に、いないからだ。
それでも、もう一度会える可能性を信じて、 私は再び眠りについた。
私の願いが通じたか、奇跡的に彼女と再会できた。
しかし、私の姿を見た途端、彼女からは強い拒絶を受けた。
やはり無理なのかと思った時、彼女が言った言葉を思い出す。
「君とは一緒に行けません」と。
ならばいっそ、彼女に殺されよう。
それで、全てが終わるはずだ。
これでようやく、楽になれる……。
そう思った瞬間、意識が急速に薄れていく……。
そして目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。
一体何が起こったのか理解できずにいると、部屋の扉が開き、そこから一人の女性が姿を現した。
女性は、私が目を開けたことに驚き、すぐに医者を呼んだ。
しばらくしてやってきた医者は、検査のためと言って体中を調べ始めた。
その結果、どうやら私は長い間眠っていたらしく、 しかもその間の記憶を失っていることが発覚した。
それからしばらく経っても記憶は全く戻らなかったが、ある日を境に少しずつ思い出していった。
あの日、私の前に現れたのは、紛れもなく死んだはずの妻だった。
だが、妻の話によると、私は記憶喪失になっていたらしい。
その後、私たちは夫婦揃って病院を出た後、自宅に戻った。
そこで妻は、ある話を聞かせてくれた。
私はかつて、ある男に殺されたのだという。私はそのことを全く覚えていなかったのだが、確かにあの日以来、私の身体からは魂のようなものが抜け出てしまったらしい。私自身は何も感じないし見えないが、他の人々にとってはそれは確かなことだったそうだ。
それからしばらくして、私が生きているという噂が流れた。
それも、とても美しい姿で復活したという話だ。
私も最初は信じていなかったが、どうやら本当らしい。