神崎さんとこうやって話していたことは、ただ気にしすぎであればいいと願っていた。
だけど皮肉なモノで、こういう時の悪い予感はやっぱり当たるみたいだ。
会議の後、会議室を出ると、すぐ近くで神崎さんが待っていた。
「どしたの? 神崎さん」
「ちょっといい?」
「あっ、うん」
そう返事して会議室から少し離れた場所まで二人で移動する。
「会食に行く前に、ちょっと樹の耳に入れておこうと思って」
「何? 改まって。そんな急な用事?」
「さっきさ。たまたま望月さんに下のロビーで会った」
「透子帰る時?」
「いや・・・会社に戻って来た時に」
「外出てたんだ?」
「みたいだね。もしかしたら麻弥ちゃんに会いに行ってたのかもね」
「え・・・?」
「望月さん、麻弥ちゃんとの結婚の話は知ってるんだよな?」
「あぁ、うん。でも、結婚するつもりはないから信じて好きでいてほしいって伝えた」
「そう・・・。でも会社の話はしてないんだっけ?」
「それはまだ・・・。変に心配かけたくないし」
「それ・・知ってたよ。麻弥ちゃんから聞いたって言ってた」
「そっ・・か・・」
なんとなくそんな気はしてた。
きっと遅かれ早かれ、麻弥から伝わってしまうんじゃないかって。
だから、神崎さんから聞いて、そこまでは驚かなかった。
自分の中でどこか覚悟していたということだろうか。
「よっぽど不安だったんだろうね。話があるからって引き止められた」
「透子が・・?」
「あぁ。樹が言ってたように、望月さんが知りたいと望んだこと全部伝えたから」
「そっか・・・。やっぱ神崎さんにお願いしといてよかった」
まさか。こんなに早くホントにそうなるとは思ってなかったけど・・。
「透子・・会社の話聞いてやっぱ気にしてたでしょ・・?」
「あぁ・・・オレが会った時、かなり思い詰めた顔してたよ」
「だよね・・・」
そうなるから伝えたくなかった。
きっと透子はそれを聞いて一人で悩んで思い詰めていたんだろう。
オレがいくら信じてほしいと伝えたところで、きっと透子はそれを聞いてしまったら、今までのままではいられないだろうから。
「望月さん。会社のこと知って、別れようって考えてたみたい」
やっぱり。
どうしてこんな知らなくてもいいところまで、透子が考えることがわかってしまうのだろう。
「結局そうなるんだよね、あの人。オレのことも、麻弥のことも、会社のことも、全部考えちゃうんだよね。自分でどうにかしようってしてさ、自分の幸せを結局は選ばないんだよ」
「やっぱ樹はよくわかってるな」
「だから言いたくなかったんだよ。結局知ったらこうなるって思ってたから。それでさ、あの人、きっとオレの幸せも決めちゃうんだよ。自分が身を引けば、きっとそれで丸く収まるって勝手に判断しちゃうんだよ」
「そう言ってたよ、望月さん。自分の幸せの為に誰かを犠牲にするのが辛いって」
「ハハ・・なんだよそれ・・。じゃあオレの幸せはどうなってもいいってこと・・? オレの幸せはあの人と一緒にいることなのにさ・・。全然わかってないんだよね・・」
わかってるつもりだった。
だけど、オレはどうしても透子と一緒にいたくて。
どうしても透子を失いたくなくて。
例え、今はまだ二人で幸せになれない時であったとしても、それでもオレは、いつかその日が来るまで、信じ合ってお互いの気持ちを守りたかった。
だからせめて気持ちだけは離れずにいたかった。
でも、もうきっと今は透子の中ではそうじゃなくなって。
きっとずっとこのまま続けても、透子はそれを気にし続ける。
透子を選んだとしても、それできっと透子は辛い想いをする。
「でも、迷ってた感じだったよ、望月さんも。だから、最後お前とお互い納得出来るように話し合いたいって言ってた」
「ちゃんと神崎さん引き止めてくれたんだ・・ありがと・・」
でも、神崎さんのその言葉に少しの希望を感じることが出来て嬉しくもなる。
別れるって思ってたのに、最後は納得出来るように話し合いたいって気持ちが変わっただけでも、まだ救いがあるような気がして。
きっとそう気持ちが変わったのは、神崎さんがちゃんとオレの気持ちを伝えてくれたのだとわかる。
「まぁオレが伝えられることは伝えたから。あとはお前らで後悔ないようちゃんと話し合え」
「わかった・・」
そう神崎さんに答えつつも。
どんどん周りを巻き込み始めて、このまま透子への想いを貫いていいのかどうか、オレはここに来て初めて迷い始める。
何があっても透子への想いが変わらないのは事実だけど。
透子の気持ちを考えると、一緒にこのままいることが、それが正解なのかがもうわからなくなって。
ただのオレの我儘なのか、本当に透子はそれで幸せなのか。
ずっと一緒にいると決心した想いが、少しずつ揺らぎ始めた・・・。
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