今日もまふゆがいる。
驚かせたらどんな反応をするのだろうか。後ろから忍び歩きでそっと私は近付いていく。
「わっ!」
「何、絵名……どうしたの?」
「驚いた?」
「いや、誰かいるなとは思っていたから」
振り返って、眉を潜めて私を見るまふゆ。気付かれていたのか、悔しい。まふゆを驚かせてみたかったのだが。とりあえず隣に座っておく。
「ていうか勉強は? テストだったよね」
「今日が最終日だったから、もう大丈夫だよ」
「そっか」
無表情のままのまふゆ。私はスマホを取り出して、色々調べてみる。
『人 驚かせ方』
マジックや私が行った古典的なもの等、結構ヒットする。動画なんかも出てきた。お化け屋敷のスペシャリストが明かす、人の驚かせ方。動画、お化け屋敷……。
──怖い動画、それならもしかしたら驚くのでは?
「何見てるの?」
「ん、ちょっと待ってて」
「わかった」
私はすかさず怖い動画と調べる。沢山出てきた、流石のまふゆも一つくらいびっくりするだろう。
「ねえ、この動画一緒に見ようよ」
「いいけど……いいの?」
「大丈夫大丈夫」
動画は五分程度の短いもの。怖い動画とシンプルなタイトル、再生数は十万程。随分昔に投稿されたもので、男子大学生二人組が廃墟に行くという内容らしい。
「絵名……?」
「終わったら教えて」
「…………」
私は片手でスマホを持ちつつ、視線を逸らす。
──おばけなんて出ないって。
──でもここまで来たし出てもらわないと。
そんな他愛もない会話が聞こえてくる。どんな動画なんだろうか、幽霊が写りこむ感じだとは思う。
しばらくそのような会話と歩く音、虫の声などの自然音が聞こえてくる。それだけでもう怖い。
「絵名、もうすぐ終わりそうなんだけど」
「幽霊とか映ってた?」
「いや何も。ほら見て」
「なら最後に映るのよやめて見たくないから」
「あと三十秒くらいしかないよ」
「知らないわよ! 映るんでしょ!」
「これ、もしかしたら嘘かもよ。低評価も多いし」
「え、ほんとに?」
私は視線をスマホに戻した。
「あ、ホントだ。なんか低評価の数多──」
突然画面が切り替わって、ドアップに人の顔が映る。それもただの人ではなくて、加工されたおばけのような色素が薄く、青白い色で線取りをされた煙の様な加工をされた人。
その顔と同時に、人の叫び声のようなものが大きく鳴り響く。私はそれに驚いてスマホを手放してしまったが、まふゆがすかさずそれをキャッチした。
「…………」
「古典的な方法だね。だから低評価が多かったんだ」
「………………」
「絵名、腕締め付けないで」
「ッほんとさいっあく、ばかばかばかっ!」
「ごめん。でもこれはこの動画が悪いと思う」
「そうだけど、ほんっと無理!」
「違う動画でも見てみる?」
「なんでそうなるのよ!」
「私は驚かなかったから」
「見るなら一人で見て……」
それからまふゆは私のスマホの画面をしばらく操作していたが、画面を暗くした。
「まだ、怖い?」
「は、うっさい」
「……」
もう夜絶対寝られない。目を閉じたらあの顔と声がよぎる。一人になるのも怖いし。私はまふゆの腕をまたぎゅっと抱きしめた。
「絵名、手を貸してよ」
「は、こんな時に?」
「いいから」
どれだけ手を繋ぎたいんだ。別にまふゆが離れないならそれでいいんだけど、私はこんなに怖がっているのに、こんな時まで手か。
私は抱きついたまま、そっとまふゆの手を繋ぐ。まふゆはその手を強く握って、言った。
「これなら安心するから」
「…………ああ、なんだ。優しいじゃん」
そういえばまふゆはそうだったか。自分が安心することは他の人も安心すると。優しさからの行動。
──私、結構まふゆのこと好きだ。
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