テラーノベル
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____佐野勇斗side.
同じ家にいるのに、昔みたいに距離を詰めない時間が続いた。
「無理しなくて大丈夫だから」
そう言うのは、もう自分のためじゃない。
仁人の呼吸が乱れない距離を、ちゃんと測っていた。
夜、キッチンで並んで立つ。
「……切り方、これで合ってる?」
『合ってるよ。前より上手くなってる、笑』
その一言で、胸が少しだけ緩む。
その笑顔で俺の口も自然と緩む。
手が触れそうになって、でも触れない。
それが今の正解だと思うから
____吉田仁人side.
勇斗は変わった。
分かりやすい優しさじゃない。
話を遮らない
機嫌を言葉にする
沈黙を、置いていかない
ある夜、ソファに並んで座っていた時、無意識に勇斗の袖を掴んでいた。
『…いい?』
「うん」
それだけ。
肩に寄りかかる
心臓の音が、前より落ち着いていた。
甘さは派手じゃない。
でも、確かだった。
____曽野舜太side.
正直言うてな、二人とも不器用すぎなんよ
好きやのに、言わん。
苦しいのに、我慢する。
そら壊れるわ、笑
でもな、壊れたあとに戻ってくる奴らは、前より強い。
勇ちゃんは、自分の弱さを認めた。
仁ちゃんは、自分を守ることを覚えた。
それだけで、もう前とは違う未来やと思うよ。
焦らんでいい。
甘くなるんは、あとからでいい。
生き延びた恋は、ちゃんと深なるからな。
【1ヶ月後】
____吉田仁人side.
再び一緒に住み始めて、ちょうど一ヶ月。
『…まだ起きないの?』
布団から覗く顔は相変わらずだった。
「あとごふ〜ん… 」
『昨日もそれ言った、笑』
休日は毎回と言っていいほど繰り返されるこのやり取りに、少しばかり胸が温まる。
顔を洗い、キッチンへ向かった。
そしていつものように朝食を作り始めると、目を覚ました勇斗が腹を掻きながら聞いた。
「卵焼き、甘いやつ?」
『うん。勇斗、甘いの好きでしょ』
このやり取りが嬉しかったのはお互い様みたいで、 後ろから抱きしめられた。
『…重い』
「嘘。離す?」
『いや、いいよこのままで』
抱きしめられた腕が少し強くなった。
____佐野勇斗side.
一ヶ月前より、仁人はよく笑うようになった。
無理してない笑顔。
昔みた笑顔。
『今日、仕事何時終わりなの?』
「今日は早いよ。帰ったら一緒に映画観ない?」
『お〜いいね、観るか』
そんな何気ない約束が、全部特別に感じる。
ソファに並んで座ると、自然に手が繋がる。
昔みたいに。
でも、昔と違うのは仁人がちゃん言ってくれること。
『今日さ、ちょっと嫌なことあって』
「うん」
遮らない。
スマホも見ない。
話し終わるまで、ちゃんと目を見る。
こうやって言い合えることが何より甘かった。
____吉田仁人side.
夜、布団に入ると勇斗が先に腕を伸ばしてきた。
「…ぎゅってしてぇ、、」
昔は、当たり前すぎて何も考えずにしてたこと。
抱きつく勇斗が優しく聞く。
「仁人、?」
『ん?』
「…今、幸せ、?」
その質問に、迷わず答えられた。
『うん。』
勇斗は、少し照れたあと、顔を胸に埋めてきた。
『…昔みたいだな、笑』
「違うよ」
そう言って、顔をあげて髪を撫でる。
「今の方が、好きだ」
眠る直前、勇斗の指が指先を絡めてくる。
離れないって言葉じゃなくて、態度で伝えてくる。
一ヶ月前は、ここに戻れると思ってなかった。
でも今は、この距離が当たり前みたいにある。
『おやすみ』
「おやすみ、仁人」
名前を呼ばれるたび、胸が温かくなる。
《大丈夫、》
今度はちゃんと一緒にいられる。
そう思いながら、 目を閉じた。
end.
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