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鷹槻れん

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#極道
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月詠 涼
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京介とともにワオンモールへ着いた芽生は、いの一番にサービスカウンターへ向かった。
「すみません。昨日の夕方なんですけど……」
昨日持ち帰ってしまったプラ製の番号札を恐る恐る女性店員へ差し出せば、ちゃんと取り置きしてあって、無事ラッピング済みのネクタイを受け取ることができた。
店員さんに何度も謝罪した後で取り戻した長細い包みを手に振り返ると、京介と目が合った。
「あ、あの……京ちゃん。これ、渡すのはクリスマスでもいい?」
我ながら間の抜けた質問だと思ってしまった芽生である。
でも、バレてしまったのだから仕方がないと開き直ることにした。
「ああ、構わねぇよ」
いつもなら芽生の荷物をサッと引き取る京介だが、さすがにそれは手を出さない方がいいと思ったらしい。
芽生が袋へ入れられた小箱を大事そうに抱えているのを見て、京介は何も言ってこなかった。
***
「じゃ、次は俺の方の用な? 下着売り場行くぞ」
本当に嘘なんかではなく、そのプレゼントは自分用なのだと芽生から意思表示された京介は、何となく居心地が悪くて……言うなりとっとと踵を返す。
別に怒っているわけではないが、いつもなら芽生の歩く速度に合わせてやれるのに、今日はなんとなくそれすら気恥ずかしい。
「あ、あのっ、京ちゃ、待って」
芽生の声に立ち止まって振り返れば、京介のあとを子犬のように小走りでついてくる芽生の姿が視界に入って、思わず目を覆い隠したくなった。
芽生は、ちっこくて童顔なくせに、胸だけは一丁前にデカい。走るたびにフルフルと揺れる双丘に思わず釘付けになって、京介は慌てて視線を芽生の足元へと移した。
(マジで勘弁してくれ)
昨夜の婀娜っぽい芽生の下着姿を思い出して、危うく股間が反応しそうになった京介は、不愛想な表情のまま芽生の手を握る。
「ホント、お前は鈍臭ぇな」
憎まれ口を叩いていないと要らないことを考えそうで、京介はグッと唇を引き結んだ。
「あ、あのねっ、京ちゃん! ホント、下着は今あるので十分だし、やっぱり買う必要はないと思うの」
京介の手を小さな手でキュッと握りながら、芽生が言ってくる。
「あ? その話はもう終わっただろ」
ぶっきら棒に京介が返したと同時、芽生が立ち止まって、握られた手が軽く後方へ引かれた。
それを不審に思って振り返れば、耳まで真っ赤にして眉根を寄せた芽生と目が合った。
「でも……京ちゃんに下着を選んでもらうとか……考えただけで恥ずかしいんだもん!」
今にも泣きそうな芽生の照れ顔を見た京介は、彼女と一緒に下着売り場へいる自分を想像してにわかに居た堪れない気持ちになってしまう。脳内で、場所を例の行きつけのランジェリーショップへ転換してみても、それは変わらなくて……。
今まで組が管理している店の女の子や、情婦に請われて下着を買いに行った経験は数知れない。わざとらしく恥ずかしがってみせる彼女らに、今芽生が身に着けているのよりもっといやらしい下着を勧めたことだってある。
そもそも京介にとって下着をプレゼントすることは、脱がせることとセットだったから、視覚的な楽しみも重要だったのだ。だが――。
「なぁ芽生。お前、今までもそんなん着けてたのか?」
頑なに今のままでいいと言われて、実はそういう下着に慣れているのか? となんとなくムカついた京介は、よく考えもせずそんなことを聞いてしまった。
途端芽生から「京ちゃんのエッチ!」と反撃されて言葉に詰まる。
「男がスケベで何が悪い」
悔しまぎれにそう言ったら、キョトンとされた。
「ね、京ちゃん。ひょっとして……私にも、そういう気持ちになってくれたり……する?」
(この娘は、公共の場で何てことを聞いてくんだよ!)
『今まさにヤバかったわ!』という言葉を呑み込んで、『少しは恥じらいを持て!』と言い掛けた京介だったけれど、存外芽生の表情が真剣で、茶化せなかった。
「お前も……一応女だろうが」
〝一応〟にわざとらしく力を込めたが、『そうなる』と答えたも同然ではないか。苦々しくそんなことを思いながらも、京介はこの話は終わりだとばかりに話題を変える。
「下着は……金渡すから自分で好きなの選べ」
店の前まで付き添いは必要だろうが、案外千崎辺りなら芽生も気負わずにいられるんじゃないだろうか。
芽生に言ったら『異性な時点で一緒!』と怒られてしまうだろうに、そのことに気付けない程度には、京介は普通の女の子の乙女心に疎かった。
「だから! 京ちゃんがくれたのでいいって言ってるのに」
「俺が! 落ち着かなくてイヤなんだよ。お前があーいうイヤラシイの、身に着けてんの」
テンパりすぎていて、芽生がそのセリフを聞いた瞬間、「そっか。京ちゃん落ち着かないんだ……」と嬉しそうにつぶやいたことにも気付けないまま、京介は話が芽生の下着のことへ戻ってしまったことにばかり気を取られている。
「お前には……もっと清楚な方が似合う」
そうしてそのテンションのまま、観念したように付け加えた言葉はさらに芽生をニマニマさせたのだが、彼女のことを真正面から見られないでいる京介は、それも見落とした。
落ち着かない心持ちのまま無意識に胸元の煙草を探って、ここがワオンモール内で、喫煙所まで結構距離があることを思い出した京介は、あからさまに溜め息をつく。
「京ちゃん?」
たかだか女の下着ごときでやたらとワタワタしてしまっている自分が中坊みたいにダサくて気持ち悪い。そう思った京介は、気持ちを切り替えるように今度こそ話を下着から離した。
「それより芽生、この二十五日はテメェの誕生日だろーがよ。クリスマスとか騒いでる場合か」
今年は例年と違って家に芽生がいる。京介だって、クリスマスツリー云々が全く思い浮かばなかったわけじゃない。むしろ、組員たちから「今年は姐さんがいるんですから買うべきですよ」と言われまくったりもしたのだ。「誰が姐さんだ」と関係ないところに噛みつきながらも、自分にとってその日はクリスマスというより芽生の誕生日なんだよ、と心の中で言い訳をしたのを覚えている。
千崎なんかはさすがに心得たもので、最初からクリスマスを祝えとは言ってこなかった。
そもそも目の前にいる芽生が、養護施設ではクリスマス会のついでのように誕生日を祝われていたことを知っている京介としては、自分と一緒にいる間くらいは芽生の誕生日のついでにクリスマスを祝うくらいのスタンスでいいと思っている。
なのに、当の本人が、「私の誕生日はクリスマスと一緒でいいよ」などとあっけらかんと言うのが、京介には腹立たしくてたまらないのだ。
「あ? 一緒とか有り得ねぇだろ。別々にやんぞ?」
「そんな……。もったいない」
「もったいなくねぇわ。祝い事は多い方が盛り上がんだろーが。とりあえずケーキは俺が用意すっからわざわざ買うな。分かったな?」
実はすでに人脈と金に物を言わせて一流パティシエに、誕生日ケーキを手配してある。
この時期には市内、どこのケーキ屋も示し合わせたみたいにクリスマスケーキしか受け付けない感じになるのが、正直京介には納得いかないのだ。
(クリスマス生まれの人間にゃぁ誕生日を祝う権利はねぇのかよ)
それもこれも芽生の誕生日がその日だからそう感じるに過ぎないのだが、何が楽しくて芽生の誕生日によく知りもしない神の子とやらの生誕祭を祝わねばならないのだろう。
「本当?」
芽生は、今年は出遅れてどこのケーキ屋さんもクリスマスケーキの予約受け付けを終了していたのだと声を落としてから、「京ちゃん有難う」と礼を述べた。
芽生が、手配されているのはクリスマスケーキだと勘違いしていると気付いていた京介だったけれど、あえて訂正はしないでおいた。その方が、誕生日ケーキを出された時に芽生が喜ぶ気がしたからだ。
芽生が施設を出てからは、毎年芽生の誕生日には食事へ連れ出して、プレゼントをたんまり渡すのが常になっていた京介だったが、今年は家でのんびり祝うのも悪くないな、と思う。
ケーキは結構でかいホールを頼んであるから、なんなら組の奴らを呼んで盛大に祝うのもいいだろう。
本当は長谷川や静月も、と思ったのだが、京介だって恋人同士のクリスマスを邪魔するほど野暮じゃない。
「うちの組の者呼んでワイワイ騒ぐのと、いつもみたいに二人で祝うの、どっちがいい?」
京介が強いた不便さの中、例年通り自分のためにクリスマスプレゼントを用意してくれた芽生に、いつもより奮発して服やアクセサリーや化粧品なんかを買ってやろうと思い描きながら何の気なしに問えば、芽生が「みんなって……本当にみんな?」と眉根を寄せた。
その問い掛けの裏側に『佐山も?』という声を聞き取った京介は、小さく吐息を落とす。
「その頃にゃ、佐山の謹慎も解けてんだろ」
瞬間、芽生がホッとしたように表情を緩めたのがなんだか面白くないと思ってしまったのは気のせいだと思うことにした。
***
「こんなに沢山、お部屋に入るかな?」
芽生から京介へのプレゼントはクリスマスまでお預けだが、京介から芽生への贈答品授与は当日まで待つつもりはないらしい。
京介からたんまり冬服とコスメ、それから靴やアクセサリーなどを買い与えられた芽生は、車のトランクルームにぎっしり詰まった贈り物の山を見て困り顔をする。
荷物自体は、後ほど石矢が部屋まで運んでくれるらしい。
毎年のことながら、京介は年に一回の芽生の誕生日をクリスマスとは別、浴びるほどの物品とともにとことん祝ってくれる。いつもなら年に一回だしと思って甘んじて受け入れる芽生なのだが、今年は間借りもしている身。なんだか申し訳なさが先立った。
「お前を甘やかすのは俺の特権だ。文句言わずに受け入れろ」
京介はそう言うけれど、こんなにしてもらったら、芽生から京介へのネクタイなんて塵くらいの価値しかなくなりそうで困る。
京介は「稼ぎが違うんだから気にするな」と言ってくれるけれど、芽生はそんな彼に少し自粛して欲しい。
「お願いだからもう少しクールダウンして?」
そう苦言を呈しながら車を降りた芽生だったのだけれど、マンションの車寄せ近くの植え込み前に段ボール箱があるのが目について話が中断する。近寄ってみれば、中には白黒の子猫がいた。
「京ちゃん」
「あ? 猫か」
痩せこけていて毛もボサボサ。全体的に汚げなその子猫を、芽生は京介が止める隙も与えず何の躊躇いもなく抱き上げた。
「おい、芽生!」
下手に野良に触れれば病気や寄生虫をうつされかねない。怖がる猫に、引っ掻かれたり噛みつかれたりして怪我を負う可能性だってある。
そんな京介の懸念を、全部すっ飛ばした芽生が、泣きそうな顔で京介を見上げてくる。
幸い人慣れしているのか、猫は芽生の腕の中でおとなしかった。
「京ちゃん、この子」
「あー! んな目で見てくんな! 残念ながらうちはペット禁止じゃねぇし気になるってんなら」
芽生の視線につい絆されてしまった京介だ。素直じゃない言い方ながらも、飼えないこともないと芽生に告げてしまった。
外は寒い。このままここへ置き去りにすれば、きっとこの小さな生き物は野垂れ死んでしまうだろう。
そう思うと、芽生が抱き上げてしまった手前、もう一度元の場所に戻して放置も寝覚めが悪いと思った。それだけのことだ。
そう自分に言い聞かせている京介は、芽生にとことん甘い。そうしてこういうときにもその甘さを存分に発揮してしまうのだ。
芽生の満面の笑みを見て、どんな高級なプレゼントを渡した時より嬉しそうじゃねぇか、と心の中で吐息を落とした京介は、「行くぞ」と促して子猫を抱いたままの芽生を連れてマンション内へ入る。
その様子を、向かいのビルの物陰から望遠鏡越しにじっと見ている人影があったのだが、猫に気を取られていて二人とも気付けなかった。
***
芽生が連れ帰った白黒の子猫は、頭の上半分と、長い尻尾のみが黒くて、あとは白。ピンと伸ばされた長い尻尾を頭越しに見ると、絶妙にちょんまげっぽく見えて……芽生が「お殿様みたい」とつぶやいたことがきっかけで、「殿様」と命名された。
殿様は、ここへくる前、誰かにたらふく何かをもらったのか、お腹がぽんぽこりんに膨らんでいた。
そのことが後に災いの種になることを、この時にはまだ、芽生も京介も察知していなかった――。
コメント
3件
芽生ちゃんが可愛くて仕方がないのが丸わかり😆
楽しいシーンだったのにラストが不穏で気になる!
ああ、もうこのエピソード、胸がいっぱいになりました……! 京介さん、あんなにツンツンしてるのに、しっかり芽生さんの誕生日をクリスマスと別に祝おうとしてるところ、本当に優しいですね。照れ隠しで「落ち着かない」って本音漏らしちゃうのも可愛いし。それに子猫の「殿様」! 芽生さんの笑顔が見たいがために「ペット禁止じゃねぇし」って言っちゃう甘さ、最高ですよ。ラストの不穏な気配はちょっと怖いけど……続きが待ち遠しいです!