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義健と江戸切子の光

東京都心、千代田区のビジネス街。高層ビル群が空を圧迫するこの街で生まれ育った「義健」は、東京人としての生活を当たり前に享受していた。彼は現在26歳。地元の大学を卒業後、都内の大手不動産会社に勤めていたが、効率と利益を追求する日々の中で、東京という街の持つ本当の魅力や歴史を見失いかけていた。

義健の実家は、文京区の少し落ち着いたエリアにある古い一軒家だった。彼の祖父はかつて、浅草近くで有名な江戸切子職人だったが、家業は継がれず、今はもう工房も閉鎖されていた。義健は祖父の仕事に特に興味を持つこともなく、ただ流されるままに会社勤めをしていた。

ある週末、義健は実家の片付けを手伝っている最中、物置の奥から古びた木箱を見つけた。中には、使い込まれた江戸切子の工具と、一冊の職人日誌が入っていた。日誌には、祖父が東京の美しい風景や、その風景からインスピレーションを受けて生み出した切子作品のスケッチが緻密に描かれていた。

そして、最後の日誌のページには、一枚の写真が挟まっていた。そこには、若き日の祖父と、今はもうないはずの古い町家が写っており、「この場所で最高の『光』を見つけた」というメモが添えられていた。

義健は、今まで知らなかった祖父の情熱と、東京の伝統文化に対する深い愛情に触れ、胸が熱くなった。彼は会社を休み、写真に残る風景とわずかな手がかりを頼りに、都内を駆け巡り始めた。

祖父が見つけた「光」とは何なのか？なぜそれを追い求めたのか？

銀座、日本橋、そして墨田区の職人街…。近代化の中で変わり果てた東京の街並みを、古い日誌と写真だけを頼りに彷徨う義健。彼は、祖父が愛した東京の記憶を辿るうちに、この街の持つ伝統と革新が交差する魅力を再発見し始める。

東京には、様々な地方の文化を感じられるアンテナショップが多く存在するが、義健が探していたのは、もっと足元にある、生まれ育った東京自身の持つ、忘れられた輝きだった。

これは、現代の東京を舞台に、失われた絆と伝統、そして自分自身の「光」を見つけ出す、義健の物語である。