テラーノベル
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婚姻届を書かされた後。
まだ緊張の解けていない様子の壱月は、スーハーと短く深呼吸をしていた。
そんな様子を見かねた母は、「少し早いけれど」と、席を立つ。それから、一人前に盛られたお寿司を四膳、テーブルに並べた。
どうやら用意しておいてくれたらしい。
「お昼ごはんにしましょ。ほら、腹が減ってはなんとやら、ね」
お母さん、それ、戦に行く人のセリフ……。
内心ツッコミを入れていると、私の膝にいた花斗が身を乗り出してお寿司に見入る。
私は慌ててその体を押さえた。けれど、花斗はよだれをたらしそうな勢いだ。
「いくら……」
「花斗くんはイクラが好きなのね。ちょっとまってね」
母はそう言って、プラスチックのお皿を持ってくる。
そして、そこに自分のイクラを置いた。
「どうぞ」
「ありがとう!」
すると、目の前の父も、自分の分のイクラを花斗のお皿に乗せた。
「はい」
「ありがとう!」
すると、壱月も自分のイクラをそこに乗せる。
「わーい、ありがとう!」
「もう、みんな甘やかしすぎ!」
そう言うも虚しく、花斗は私に向かって「ママは?」と視線を向けてくる。
それで、花斗の目の前にはイクラ軍艦が四つも置かれることになった。
イクラに飽き足らず、玉子やら穴子やら自分の好きなネタを大人たちから大量に貰い受けた花斗は、お腹いっぱいになるとそのまま寝てしまった。
私たちも、食後に母が淹れてくれたお茶でひと息つく。
それから、私は後ろに転がっていた飛行機を拾った。花斗のリュックにしまおうと思ったのだ。
「その飛行機、まだ持っていてくれたのね」
私の手の中を見て、静かに母が言う。
「うん、お気に入りだよ。ずっとずっと、持ってる」
「そう……」
母は懐かしそうに目を細め、飛行機のおもちゃを眺める。
すると、父も急に「懐かしいな」と声を発した。
驚いて父を見ると、父は目を細めてこちらを見ている。
「俺な、パイロットになりたかったんだよ」
「え?」
声を上げたのは壱月だ。
「私、職業パイロットをしております」
「ああ、母さんから聞いているよ。NALJに勤務しているんだって? 優秀、優秀」
父は口元をほころばせ、昔を懐かしむようにどこかを見上げた。
「俺は空を飛びたかった。ところがどうやら、俺は生まれた時から色の見え方が人と違ってね。パイロットにはなれんと言われて、でもどうしても空に憧れて、飛行機の仕組みやらなんやら調べていたんだ。そしたら、なんだかその仕組が面白くなってきて、動力に興味が出てきてね。それで、自動車メーカーに勤めることになったのさ」
すると、母が口を開く。
「花斗くんも空に憧れるなんて、家系なのかしら」
父も母も、ふふっと笑う。けれど、私は笑えなかった。
黙って花斗の寝顔を見つめていると、両親は慌てて声を潜める。
「花斗くんは、もしかして……」
父が口をそっと開く。その言葉の続きを父から聞くのが嫌で、私は自分から話した。
「花斗もね、色弱かもしれないって。まだ決まったわけじゃないんだけどね。まだ小さいから、ただ間違えてるだけかもしれないし」
おどけるように言ったけれど、父も母も眉尻を下げる。どんよりとした空気の中、声を上げたのは壱月だった。
「花斗の憧れの気持ちは、潰しちゃいけないと、俺は思うんです。だから、俺は花斗の憧れのパイロットでいたいと思います。お義父さんのように、夢をくじかれても新しいものを見つけられる。花斗がそんな気持ちになれるように、寄り添ってあげたい、と思っています」
壱月は語ってしまったのが恥ずかしくなったのか、頬を赤らめ急に黙る。
「壱月くんは、子ども思いなんだな」
と、父が言う。
「誰かさんにそっくり」
と、母は笑った。
朝永ゆうり
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コメント
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え〜〜〜第63話、読み終えたよ🌸✨ 花斗くんがイクラ4つも貰って「ママは?」って催促するところ、尊すぎて悶えた😭💕 みんなに愛されすぎだろ!! でもその後のお父さんの「パイロットになりたかった」エピソードが胸にグッときた…。夢を諦めても別の形で空と向き合った人生、そこに壱月さんが「花斗の憧れは潰さない」って寄り添うの、夫としても人間としてもかっこよすぎるよ😢💖 誰かさんにそっくりって笑い合える家族、最高だね⋆♡