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そうだ、短編を書こう

4 - 様子がおかしい死刑囚と新米クール看守

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2024年07月21日

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今日から私は、とある死刑囚の看守になる。

生まれてから22年。もう花も恥じらうどころか、結婚とか面倒すぎるしいいわって思うそんな歳。色々経験してきたが、看守なんて見たこともやったことも無い。……が、逃がしさえしなければ何でも……誰でも良いというので、それならばと話に飛び付いたという訳だ。

理由?……まぁ金だ、金。世の中、金より大事なものなんて無い。もう遥か昔から命さえ金で買えるというのに、命の方が重いなんて言う人は一体どんな思考回路をしているのだろう。

まぁそれはさておき、私の担当死刑囚は流石に死刑囚なだけあって、不穏な噂が絶えないらしい。そんでもって看守がすぐ辞めてしまうから、気骨のある人間をスカウトしているのだとかなんとか言われた。私はそんなに図太そうなのだろうか。

いや、これもまぁ良い。褒め言葉として受け取っておこう。今重要なのは、死刑囚がどう出てくるか分からないことだ。辞めた看守達は皆行方知れずになってしまうらしいから、話が聞けないというのもいかにもだ。もし怪しげなパワーで精神を壊されたりしたらたまったもんじゃない。神通力の使い手か、ハンドパワーか……もしかしたら悪魔かもしれない。奴らは不死身で、しかもその赤い瞳で人々を惑わせるらしい。この死刑囚も異様に収監期間が長いし、これはもしかするかもしれないな。サングラス買ってくれば良かった。

……と言う訳で私は、この新たな職場では『見ず』『応えず』『話しかけず』を厳守することにした。

そして今。目の前の重い鉄のドアの向こうに、彼が居る。いやはやしかし、鉄格子の中に閉じ込めておいて、さらにこんな分厚い鉄で囲うなんて。一体何をすればこんなことになるのだろうか。

さっき貰った鍵束から一つ鍵を取り出して、南京錠を開く。かちん、と軽い音ともに錠が外れた。鍵と錠をポケットの奥の奥に仕舞い込んでから私はゆっくりとドアを開いた。

「やぁお嬢さん。死刑囚はお好きかな?」

ドアを閉めた。

いや、なん……え?口説かれた??え、待って待って、なんか完璧にポーズ取ってなかった?え?どゆこと?チャラ男なの死刑囚?チャラ男だったの??

……いや仕事仕事!金を貰った以上はプロフェッショナルなんだから、ちゃんとしろ私!

もう一度、今度は勢い良くドアを開いた。

「慌てた顔も愛らしいね。一緒にお茶でもどうかな?」

「あ、処刑は今夜で良かったですか?」

「おめでとう!君は天職を見つけたんだね!」

そう言ってスタンディングオベーションをする男。まぁ、彼こそが死刑囚なのだろう。若いし、身綺麗だし、イケメンだが、見た所牢の中に居るのは彼だけだ。

「君、名前を聞かせてくれたまえ。この素晴らしい瞬間を共に分かち合おうじゃないか!」

「……………………ヒルダです」

「ヒルダ!知性に満ちた素晴らしい名だ!……あぁ、僕?そうだね、何が良いかな……そうだ」

そんな堂々と偽名名乗ろうとすんな……と思ったが、もう何でもいい。コイツに深入りするのは駄目だ。ドアを開ける前とはまた違う恐怖を感じる。名前さえ聞けたら後はきっぱり無視しよう。

……という思考の先で、死刑囚は目を細めてたおやかに笑った。

「僕はファム・ファタール。君の運命さ」

どう見たって若いのに総白髪の、それはそれは美しい死刑囚。その瞳が一瞬、赤く輝いた気がした。

……なんて、無い無い無い。

死刑囚……もといファムの瞳は若葉色だし、そりゃ確かに相当な変人だが、人間離れした雰囲気は感じられない。これが多くの看守達を闇に葬った男……?いや、確かに死ぬほど面倒だが……ちょっと拍子抜けだ。

取り敢えず一応帽子を取って軽く頭を下げる。

「あぁありがとう、こちらこそよろしくヒルダ。親睦を深めるために早速お茶でもいかがかな?」

「私、泥水は飲めないんで」

「君すごいね」

私に言わせれば、新米看守にここまで言われてサラッと流せる貴方の方がすごい。心何平米なんですか?それとも今までの看守も皆こんな感じだったのか。それはそれですごいな。

「それでは、私はここに座っているので。ファムもどうぞ自由に過ごしてください」

「うん。あ、クッションいる?」

「頂きます」

「くまさんは?」

「結構です」

結構かーと笑うファム。うん、これは今までで一番、ぶっちぎりで変な職場だ。賭けてもいい。この先一生、これを超える職場は無いだろう。目に焼き付けておかねば。

……何故死刑囚の牢にふわふわのクッションや大きなくまさんがあるんだ、とツッコんだら終わりな気がする。



初日は大体こんな感じだった。

それから1週間経ち、一ヶ月、一季節……一年が経ったある日。それまで決して自分からは話しかけず、話しかけられても適当な相槌を返すだけであった私も流石に我慢ならなくなって、ファムに尋ねてしまった。

「ファム。貴方一体いつ死ぬんですか」

「へ?」

「だから、貴方の処刑はいつなんですか。一切そういう話を聞かないのですが」

すっかり手に馴染んでしまったくまさんを膝の上で抱えて、じっとファムを見つめた。幸い、多くの職の経験によって人の感情を読むことには長けている。どんな些細な表情の変化も見逃すまいと目を眇めて彼の反応を待った。

しかし、ファムはやはり私の斜め上を行く男だった。

「……いつだろうねぇ」

そう言って、彼は自然体でにっこり私に笑いかけた。そこには恐怖も誤魔化しも緊張もない。そんなことある?自分の処刑の話で?

「…ファム、貴方って………」

「………」

「貴方って本当に変な人ですね」

「え?そっち?」

そっちって何だ。それ以外に今何か言う事あっただろうか。

「いや、怪しいでしょ僕。すごぅく怪しいでしょ?」

「はぁ?出会い頭で口説いてくるような男に何を今更……」

「……………ヒルダ、本当に君って人は……」

今、死刑囚に過去一憐れまれてる。フクザツ。

……と、そんな会話をしていたら終業の鐘が鳴ってしまった。さっさと我が家に帰ろう。今日はなんか、不毛だったな……。

自分の代わりにくまさんを椅子に座らせ、マントの皺をぱっぱと伸ばして立ち上がる。

「それではファム、また明日」

「…………うーん。ちょっと待ってヒルダ」

「ほう?NO残業主義の私を呼び止めるとはいい度胸ですね」

「はは、ごめんごめん。……あのねヒルダ、君面白いからさ、ちょっとだけ教えてあげようかなって」

「はぁ…………………何を?」

「僕の目はね、本当は赤いんだ」

「へぇそうなんですね。じゃあまた明日」

「うん。じゃあね、ヒルダ」



今日も疲れたな。布団がふかふかすぎて泣きそうだ。明日も労働かぁ……休みが欲しい……。看守って稼ぎいいし座ってるだけで良いから死ぬ程楽だけど、休みが無いのが辛いな……。

そういえば、ファムの…目が赤いって、どこかで聞いたような気が……す…る…………


「…………あ、そっか」



「おはようございます、ファム」

「あ、おはよ……いや、え…来るんだ……」

「いや来ますよ。無断欠勤なんて所業、恐ろしすぎて私にはとてもできません」

「普通、僕の方が恐ろしくない?」

「知りませんよ普通だなんてそんなこと。貴方が死なないから処刑日が来ない……つまり永遠に続く高収入職務。理想的なこの仕事、ますます手放す訳にはいきません」

「……………はは、ははは……ねぇ、ヒルダ…」

「はい、なんですかファム」

檻の向こうの、もう見慣れた美しい男が両手の指を組んでその上に顎を乗せ、どこか諦めたように笑った。

「……悪魔は、お好きかな」

「まさか。私、愛する夫は看取りたいタイプなので。………あ、でも、




……その笑い方は、嫌いじゃないです」

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