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【木間暮 ひとし(38)殿。家賃滞納の繰り返しにより、本日付で独身寮からの退寮を求め、自活による改善を求めるものとする】
今日も頑張るか――と気合を入れて事務所に行くと、仕事はクビじゃないけど、独身寮から追い出されるという非情通告があった。
もちろん自分が悪いんだが。
独身寮と言っても自分以外は普通の住人が住むマンション。だから普通に家賃滞納扱いになるわけだが、それにしたって急すぎないか?
驚きと戸惑いをする分際でもなく、自分の浪費癖が一番の原因だ。だが、ちょっと落ち込んで涙が出そうなので、仕事を早退し俺は潔く退寮を決める。
その足で格安物件を求めて早速不動産へ。
「どこか格安激安なところはないっすかね? 出来れば優しい隣人から余りものをおすそ分けされるようなハートフルなアパートがあれば~」
「はぁ!? そんな都合のいいフィクションみたいな……あっ、ありますあります! ここから結構遠いんですけどね……どうします? ほぼタダみたいな物件ですよ」
「そこにします!!」
――で、即決した俺は超格安物件だった山奥に到着するが。
何じゃこりゃあ!
アパートじゃなくて完全に廃墟じゃないか。いくら格安物件だからって、こんなのあんまりだろ。
若者でもない俺に適当物件あてがったのかよ。
着いた先は、人里外れの放棄された元なんちゃらガ丘タウンという薄汚れた看板が辛うじて残っている集落だった。
そしてものの見事に、誰もいない。小動物らしき生物もいなければ怪しげな人影も見当たらない、正真正銘の荒れ集落。
そして契約した格安物件は、どでかい岩山にくっついたボロボロの山小屋もとい、多分アパートのよう。
どうせ自分以外住んでいなくて廃墟物件だろう――そんな思いで頑固そうな入り口のドアを開けて入ると、
「おじいちゃん、誰か来たっぽい」
「ふが~? おぅおぅ……きっとあの子じゃな」
……などと、先住民らしき複数の声が奥の灯りの漏れる部屋から聞こえた。
まさか心霊物件か?
だが安ければどうでもいい俺は、恐れを抱くことなくその部屋に向かって立ち入った。
「……じ、じいさんと女の子……?」
勢いよく踏み込んだにもかかわらず、畳部屋にいたのは茶を啜る高齢のお爺さんと、テレビも何もない部屋で寝そべる少女の姿があった。
「よぉきたのぉ! ひとしは転生が初めてじゃったか?」
「はぁ? 転生?」
何言ってんだこのじいさんは。
「お、おじいちゃん……。間違って転移させたっぽい。だから転生してないよこの人」
「そうじゃったか……まぁ、どっちにしても変わらんじゃろ」
「ひとし。こっちに座って!」
「へ?」
「話があるから。早くっ!」
何だか家族みたいな口の利き方だな。まぁ、俺の親はすでに亡くなって帰る故郷そのものがないから家族って響きも懐かしいが。
どうやらここの序列は少女が上でじいさんが下とみた。
なので、素直に言うことを聞くことにする。
「……で、俺は今どのような状態?」
「ひとしは異世界に転移した。だから、これからは私たちと一緒に暮らす」
「異世界? 日本じゃなくて?」
「似てるようで別。こっちは魔物がいる」
なるほど、よく分からないが本当っぽいな。
「で、俺はここに住んでいいので?」
「うん。住まないと生き残れない。手違いがあって、転移されたから責任をもって私たちが世話をする」
じいさんはフガフガ言ってて全然話が出来そうにないが、どうやら転生させるはずの俺を間違えて異世界転移させたようだ。
「……俺の名前はなぜ知ってる?」
「木間暮ひとし。独身。孤独。スーパーマーケットの店長をしているのに、浪費癖が酷くて独身用マンション寮を追い出される。以上」
「あぁ、転生転移出来る存在だから何でもお見通しか。ってことは、神様か」
「そういうのは鋭いね」
それくらいは分かる。
「で、俺はここのどの部屋に?」
「基本はここ、広間。普段は部屋にいさせないから心配無用」
「はい? ここって、神の間で寝たり食べたりするのか?」
「そう。ひとしのためにもそれがいい」
そういや、さっきから口の利き方がかなり失礼だが、転生と転移をミスられたしタメ口で問題ないだろ。
「荷物はそれだけ?」
「まぁ。腹を空かさなければいいしな」
「そう……じゃあ――」
はっ?
俺の言った言葉に笑顔を見せた少女は、無言で両手を叩いた。
――直後、目の前が暗転。
寝落ちという名の睡眠に入っていた。
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