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檻の中の苺
エピソード1
周りは金のラインとルビーが埋め込まれ、汚れ1つもない白い壁に囲まれている。高い天井からはゴージャスなシャンデリアが吊らされ、毎日の食事は目を見張るほど豪華。しまいには「国王」だということを示す金と真紅のひし形のバッジが付いた質の良い服に、圧倒的な権力。
そんな、誰もが夢見るような立場にいる人でも思い詰めて裕福な環境から抜け出したくなるときがある。
レッド
「はぁ…」
ひとつ、ため息をつく。
いつもどおりの日常が流れていたであろう1900年代初頭の「日本」に、突如として現れた我ら「ビードリー」。
僕たちビードリーは、一見人間のように見えるけれど解剖して中身を見ると人間とはまるで違う。ビードリーは「種族」で分けられていて、種族によって特徴は異なる。
一例を出すなら、血液には果汁や溶けた鉄が流れていたり、体からは果物の匂いがしたり。さらに、人間と比べて明確に違う特徴といえば、胎生ではなく、同性同士でも繁殖可能な点と、果実の種族なら果実を、鉄の種族なら鉄を、手から生み出したり特別美味しく育てることができる、という点だろう。
そんな特徴を持った僕たちビードリーのご先祖様方が日本各地の畑や農園、山などに生まれた出来事から早130年。当初は僕たちビードリーを宇宙人だと恐れる方、面白がって近づいてみる方など様々いた。ビードリーであるこちら側の視点から考えると異物を見るような目で見られるのは悲しいが無理もない。
それから先祖は一部の人を除いて束となり、人間たちといくつもの話し合いを繰り広げた。
その結果、見事「共存条約」を成立することに成功した。そして、同じタイミングで日本の東側に現れた巨大な陸地、「ビードリーランド」に移り、そこで独自の国家を2つ立ち上げた。
国名は我が国の「パッション」と、隣国の「リベリオン」という
そんなパッション国の4代目国王となった僕。
持病により公務がままならなくなった父上の代わりに21歳という若さで王に即位したわけだが、あれから7年。未だにこの役職に慣れない。
いったい、自分がなにをしたいのか…するべきなのかがよくわからなくなって、気分転換のためと自分に言い訳を言って城から抜け出してきてしまった…
毎日山のような書類を確認し、1つ判を押すだけでも大きな責任が伴う。さらに、周りから結婚と出産の圧力に耐えながら答えなければならない。そのためにも、一刻も早く戻らなければ…
罪悪感を抱えながらゆっくりと後ろを振り向くと、城の最上に立てられている国旗が木々の間から頭を覗かせている。まるで、ひっそりと城を抜け出した僕を非難しているように見えて心臓が重くなった。
あたりは緑々とした林に囲まれていて、自然の恵みと、じめじめとした草の匂いが心地良い。葉の間から漏れ出す光が、導くかのように一本の道を作っている。
…早く戻らなければならないのに、なぜかこの道の先に希望がある感覚がして、その光の道につられるように林の奥へと進んだ。するとひとつ、林に似合わない白色で豆腐型の施設を見つけた。雰囲気的に、なにかを研究している施設のようだ。自然とその建物の入り口に目を移す。
レッド
「ッ…!?
人が…倒れてる…?」
こんな林に建物があるというだけでも不思議なのに、人までいるとは思わず目を見開いた。
近くに駆け寄って、まずは息の確認をした。
よかったっ…弱いが息はしている。
その倒れている人は、僕と同じくらい長い髪をしていて、白衣を着ている。見る限り成人男性だろう。
レッド
「だ、大丈夫ですか…!?聞こえたら返事をしてください…!!」
少し声を張り上げたが……返事は返ってこない。
レッド
「ッ…失礼…触りますよ…」
とりあえず体を起こしてやろうと肩と腕に手を触れる。すると驚いた。成人男性にしては心配になるほど体が細く、軽い。恐る恐る顔を隠しているボサボサの髪を手でのけると、中性的で、きめ細かく、色白の顔と肌をしていた。汗と涙を垂らした目元には、ワンポイントのようにほくろがある。そして、青みがかった銀色の髪が、水面に反射する鏡のようにキラキラと輝いていて…美しい。
レッド
「可愛い…」
思わず口を押さえる。今、なんて言った?
もともと、僕は可愛いものが好きでよく母上や妹が着ているドレスに憧れていたものだが、誰か人に対して「可愛い」などと思ったことはない。それなのに、初対面の人に「可愛い」と思うだなんて…
レッド
「って!そうじゃなくて!と、とりあえず救急の医者を呼ばなきゃ…」
そのとき、ふわっと鼻をかすめる匂いで気づいた。この方、「青いいちご族」だ。
ビードリーには様々な種族があり、だいたいの種族は体臭で種族が分かる。その数多ある種族の中でも不当に差別されている種族がいる。
それが「青いいちご族」だ。青いいちご族は我ら赤いいちご族の突然変異で、僕らビードリーが突然日本に現れたときと同じように、突如としてパッション国に現れた。「青いいちご」だなんて自然界にはないもので、周りは「不健全だ」だの「きっとこの国を滅ぼしに来たんだ」などと、無知故に差別した。そのせいで青いいちご族は他の種族と同じトイレや施設を使えず、使えたとしても雑な対応をされるなど悲惨な現状だ。
先ほどまで焦っていたし、容姿ばかり気にしていたせいか匂いに意識を向けていなかったから気づかなかった。
もし仮に、このままの状態で医者を呼んでも青いいちごだからといってまともに対応してくれないだろう。国王である僕が頼めばいくらでも助けてくれるだろうが、それでは僕が勝手に城を抜け出したことが世間に知られてしまい、王室のイメージが下がってしまう…。そうなれば父上や母上、妹や弟にも迷惑がかかるだろう。でも、だからといって今、目の前に失ってしまいそうな命があるのを目にしたのに無視するわけにはいかない。国のことと目の前の命を天秤にかけて迷いに迷う…。しかし、この状況下でそんな長々と考えてはいられない。
どうにかならないかと思い、失礼ながら開いているドアから中を覗く。床にはゼリー飲料や栄養ドリンク、カフェイン飲料のゴミなどが落ちていて、明らかに不健康な生活をしているのが伝わってくる。
ふと、近くの棚を見ると小さなガラスの小瓶を見つけた。ラベルの文字を読もうと目を凝らす。
レッド
「ブルーベリー…香水…?」
これだ…!香水を体に振りかければ体臭が紛らわされ、ブルーベリー族だと医者を誤解させることができれば、しっかりと対応してもらえる。
さっそく、急いで香水を手に取り、彼の体全体に振りかける。そして、電話で医者を呼ぶ。声でバレてしまうかもという心配はあまりいらない。僕の声はそこまで特徴的ではない。
無事に救急の医者が向かうという連絡を受け取ることができた。このままこの場にいてあげたいところだが…それだと医者に見つかってしまう。
レッド
「どうか、助かってください。
…さようなら。」
きっと、もう永遠に会うことはないのだろう。
初めて、「可愛い」と思えた彼の頬に手を添えてから、僕はその場を去り、城に戻った。
その場には、偽りのブルーベリーの匂いと甘いいちごの匂いが残っていた。
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