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「ふで、ふで」

「これがいいの? あと紙も買っておこうねー」

「かみ! ありがとなの!」(うおお、絶対みゅーぜの役に立つぞー!)


ミューゼ達は王都の事務品店にやってきた。ここならば、アリエッタが確実に欲しがる物がある。

今回の仕事でミューゼにかなりの収入が約束されていた。ついでに王都に来ることになったので、紙の補充と欲しい物を買っていくつもりなのだ。

自分の髪で絵を描けば、色は自由自在に使えるアリエッタだが、変に意識するとその絵は現実化してしまう為、家では普通の文具を使うようにしている。しかも、細筆から太筆まで、色々な大きさの毛筆が揃っているので、使い勝手も違う。今度、平筆の絵を描いて注文してもらおうと、画策していたりする。

そんな買い物風景を眺めつつ、パフィとラッチはアリエッタについて考えていた。


「これが、あの絵になるなんて不思議……」

「本当に不思議なのよ。でもアリエッタは私の料理を不思議そうに見てるのよ。きっと、アリエッタの元いたリージョンだと、絵が盛んなのよ」

「たしかグラ…ウレスタってトコだっけ?」

「なのよ。でも親のエルさんは、もっと別のリージョンから落ちてきたのかもしれないのよ」

「なるほど……ネマーチェオンで聞いた話と同じだ」


パフィは、アリエッタとその親であるエルツァーレマイアエルさんが、別のリージョンから落ちてきて、グラウレスタに住むことになってしまったと推理していた。突然ネマーチェオンに落ちてきたクォンと同じと考えたのだ。

勿論そんな事は無いが、つじつまは合っている。


「ふっ、母と共に異界へと落ち、なおも心にあれほどの光を持つアリエッタちゃんは、まさに天使。我もその数奇な運命の1つに加わろうではないか」

「泣きそうな顔で何カッコつけてんのよ。アリエッタはそんな弱い子じゃないのよ。よく泣くけど」

「と、ところで、アリエッタちゃんの持ち物に元のリージョンの物とかなかったの? それで新しいリージョンに行けるって、総長さんが……」

「…………今度総長に会ったら、聞いてみるのよ」

(あ、これ忘れてたな?)


未発見のリージョンに飛ぶには、そのリージョンの物質が必要。それに心当たりがあったパフィは、遠い目をして誤魔化そうとしていた。

丁度その頃、ミューゼが支払いを終えた所だった。アリエッタが紙以外の文具が入った袋を抱え、ニコニコ笑顔で店の外へと向かう。ミューゼに呼ばれ、パフィとラッチも外に出た。


(うーん、良い感じに画材揃ったなぁ。てりあ、のえらにも感謝しないと)


以前アリエッタは、ネフテリアからはイーゼルと大きな紙を、ノエラからは使えなくなった布の切れ端を大量に貰っていた。最初は捨てる布をどうするのか分からなかったノエラ達だったが、ゴミ箱から拾った布を使って絵を消した事で、アリエッタが何をしたいのか理解。使えない程度に小さく、適度に綺麗な布を箱に詰めて、ミューゼに手渡したのだった。


(よし、お礼に何か役に立つ物を描いてみようかな!)


感謝の気持ちから、アリエッタのやる気に火が付いた。善意しかない本人には、その行動が大騒動を巻き起こす可能性があるとは一切思っていない。果たしてピアーニャの胃は無事で済むのだろうか。




ぞわっ

「っ……なんだ?」


ここは王城の奥。

とてつもなく嫌な予感がして、ピアーニャは1人驚いていた。


「どうしました? ピアーニャ先生」

「いや……わからんが、なんでもなさそうだ」(なんだろう。みょうにフアンをかんじる)

「そうですか。一応周囲の見回りを追加しておきます。ところでクォン殿」

「ひゃいっ!」


今度はクォンが驚いた。王族であるガルディオ、フレア、ネフテリアと、リージョンシーカー総長のピアーニャ、副総長のロンデル、そして神であるイディアゼッターに囲まれ、緊張しているようだ。隣にムームーがいても、顔が強張ったままである。

もちろんムームーの顔も緊張で引きつっている。シーカーとしてはそれなりの実力者であるとはいえ、王城に入る事すらも初めてなのだった。


(なんでクォン、王様達に囲まれて質問されてんの!? この世界の王様ってこんな気楽に話しに来るもんなの!? ノベルだったら普通謁見の間とかじゃなかったっけ? それも嫌だけど……)


クォンのリージョンにはノベルがあるようだ。物語と自分の状況を照らし合わせ、混乱している。


「先程説明があった通り、君を元のリージョンに帰す事自体は簡単だ。それに乗じて、交流を持ちたいと思っている。最高責任者の方と取次ぎを頼めないだろうか」

「えと……」

「ああ勿論礼はする。我々としても、またとない機会であるからな。こちら側は他のリージョンとも交流を持っているので、そちら側が得る物は多いと思──」

「ガルディオ王よ……よろしいでしょうか?」


交流に向けて一気に畳みかけているガルディオに、イディアゼッターが待ったをかけた。

クォンが少し涙目になっているので、フレアが困った顔になり、ネフテリアは目を逸らしている。

状況を理解していないのはガルディオだけである。


「いかが致しました? ゼッちゃん様」

「いかがも何も……彼女は立場的に一般の若者ですよ。そんな話をしても、理解も行動も出来ません」

「…………あっ」


この後の王様による必死な謝罪は、若者をさらに混乱させるには十分だった。本気で泣きそうになった所で、ピアーニャがガルディオをぶっ飛ばし、その驚きによって場を収めるのだった。




買い物を終えたミューゼ達は、ニーニルへと帰ってきた。


「仕事も終わったし、しばらく家でゆっくり過ごしたいなー」

「そうするのよ。それと、時々ラッチの仕事につきあうのよ」

「わかったー。交代でね」

「明日からお願いしますっ」


ラッチはシーカーとして働く気満々。帰る前にもピアーニャに相談していた。最初はミューゼとパフィが交代でサポートし、少し慣れたら他の人とも交流を持つつもりなのだ。

2人一緒にサポートに入らないのは、アリエッタの面倒を見るという役目の方が重要だからである。ピアーニャからの仕事だからというのもあるが、そんな事よりアリエッタと一緒にいる時間が欲しいという、2人の自主的な願望であった。


「お店行くのよ?」

「そうだねー。久しぶりだからクリムのごはん食べたいかな」

「なのよ」

「我はお母さんに美味なる伝説の石を頂くとしよう」

「くりむ、ごはん!」(くりむの料理も美味しいんだよねー)


家についたところで、ラッチはミューゼの家の裏にある自分の家へと帰っていった。

ミューゼ達は家に荷物を置いて、裏にある施設『エルトフェリア』へと移動した。目的は食事である。


「くりむー!」

「あれ、アリエッタちゃん。帰ってきたし? おかえりだしー」

「ただいまなのよ。今日のおすすめあるのよー?」

「分かったし。家に持っていくし?」

「うん、そうする。待ってるね」

「お土産の食材は後で渡すのよー」


お土産の食材とは、勿論キュロゼーラである。流石に仕事中に渡す事はしなかった。

現在ほぼ同居のようなものなので、クリムの料理も格安、お土産があれば交換という形でいただくことが出来る。アリエッタに関しては無料だったりする。クリムにとっても可愛い妹のようなもので、身内でいるためにも料金は取りたくないようだ。実際、アリエッタはクリムにもしっかり恩を感じ、パフィと同じくらい懐いている。


(そうだ、クリムにも何か役に立つ物作ろう!)


アリエッタのやる気がさらに燃え上がった。




「………………?」


そこはかとない不安を感じ、ピアーニャは眉をひそめた。


「どうしました? 先生」

「いや……きのせいだ。それよりも、つぎはアリエッタのことをはなしたいが、さきにショクジにしよう」


現在部屋には、王族3人とピアーニャとロンデル、そしてイディアゼッターだけが残っていた。クォンとムームーは、クォンに関わる話と、ネマーチェオンの話が終わった後に、ニーニルに帰らせた。ムームーも仕事が終わったら姉のルイルイと話をする事もあるので、拠点はニーニルにあったりする。

アリエッタの話はミューゼにも教えていないトップシークレットなので、聞かせるわけにはいかないのだ。

ガルディオ達もその事は納得しているのだが、困惑の面持ちでピアーニャを見た。


「……本当に食べるんですか?」

「おネがいしまス!」


質問に対して元気に返事をしたのは、皿の上で優雅に座しているトマト型キュロゼーラ。切り込みが入れられ、食べやすくなっている。動いて切れ目から体が別れたら、二度と喋らなくなるだろう。その説明も、キュロゼーラ本人から元気よくされていた。

ガルディオ達王族と、巻き込まれたロンデルにとっては、情報をくれた相手を、生きたまま食べるようなものである。もう困惑しかない。

予想した通りの反応を見られて、ピアーニャは大満足だった。


「これがネマーチェオンじんのキュロゼーラだ。しゃべるのと、たべられるのが、とにかくすきでなぁ……」

「こわいよ!」


流石に受け入れづらいのか、ネフテリアが声を上げた。様々なリージョンと交流は持っているが、自分を食べてもらえる事を喜ぶ相手は初めてなのである。食べづらい事この上ないが、ネマーチェオンに言ったシーカー達が通った道。ピアーニャはただ不幸を共有してニヤニヤしたいだけなのだ。

部屋の外では、実際にキュロゼーラを調理した料理人が、死んだ魚のような目になって、なにやらブツブツ呟いていた。うっかり調理前に仲良くなってしまったらしい。

結局、王族達の夜の食事は、夕方から始まって日が沈んでから、かなり時間が経って、ようやく終わりが見えてきた。

美味しい物を食べている王族とロンデルは、すっかり凹んでいた。


「キュロゼーラは、ネマーチェオンにいけば、いくらでもついてくるからな。エンリョなくたべてやってくれ」

『遠慮したいのですが!?』


城の最奥で、王族が思いっきり叫んでいた。


「ほラ、そのフォークで一気にブスッとやっチゃってくだサい!」

『できるかーっ!』

からふるシーカーズ

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