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もう二度と、

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もう二度と、

1 - もう二度と、

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2022年12月14日

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絡めあいたかった赤い糸は、


もう切れることはないだろう。


5年以上にも渡る戦争。食料や水、武器の数は段々と減っていき、それと一緒に兵士の数も減っていった。もう戦線は城から少し離れたところにある。悲鳴、銃声、爆発音。それらに、耳を塞ぎたくなった。

「主、お逃げください。もう戦線はすぐそこまで__」

「黙って」

「主!!」

「黙ってという言葉が分からないの、私は国とともに死ぬのよ」

ぎらりと熱のこもる潤朱色の瞳の奥底に、覚悟はあった。

「ですが主は!」「テヨ」

数年ぶりに言われた名前は今呼んで欲しくなかった。

「…なに、パル」

「許して」

「っ…なら、なら自分も一緒に死ぬ」

「ダメ、あなたは、」

「何回言われても自分の意思は変わんない」


彼女の身体を腕で包むと、手首を掴まれた。


「…分かった、ならいこう?窓から行きましょう」

「うん」


大きな、人よりも大きな窓を開けると風が室内に入ってきた。ふわりと宙に舞うドレスのスカート。風に遊ばれる髪。ヒールのある靴で窓枠に足をかけ、そこにしゃがむと手を差し伸べてきた。


「ほら、おいで」


主にこうやって手を差し伸べられるなんて、執事とは言えないな。白い手袋に包まれた手は、すごく小さい。指先から掴むと引っ張られる。幅のある枠に足を乗せ下を見ると、かなり遠くに地面があった。それを一瞥し、彼女の方へと視線を向けた。


「主様」

「…なに?」

「私は、いついかなるときでも、主様のお傍にいました。これからも、ずっとあなたの傍で、あなたの笑顔を見せていただけませんか?」

「…ふ、なにそれ、ありきたりな告白…」


生まれつきの白のメッシュと白のまつ毛は星の光をあびている。まつ毛がかかった潤朱色の瞳は優しく歪んでいた。


「そんな告白、私しか返事しないっての」


彼女の手を引き、背中で受ける空気になぜだか心が踊った。ふわり。彼女のドレスが舞った。身体で受ける浮遊感。離れ離れにならないよう強く抱きしめる。歪んだままの瞳は自分の瞳と絡めあって、閉じて、視界は全部真っ暗で。音もなく合わせた唇は、互いに求めあった。

赤い糸のような潤朱色。絡めあいたかった糸は、つかまえたそれを二度とほどかせない。

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