絡めあいたかった赤い糸は、
もう切れることはないだろう。
5年以上にも渡る戦争。食料や水、武器の数は段々と減っていき、それと一緒に兵士の数も減っていった。もう戦線は城から少し離れたところにある。悲鳴、銃声、爆発音。それらに、耳を塞ぎたくなった。
「主、お逃げください。もう戦線はすぐそこまで__」
「黙って」
「主!!」
「黙ってという言葉が分からないの、私は国とともに死ぬのよ」
ぎらりと熱のこもる潤朱色の瞳の奥底に、覚悟はあった。
「ですが主は!」「テヨ」
数年ぶりに言われた名前は今呼んで欲しくなかった。
「…なに、パル」
「許して」
「っ…なら、なら自分も一緒に死ぬ」
「ダメ、あなたは、」
「何回言われても自分の意思は変わんない」
彼女の身体を腕で包むと、手首を掴まれた。
「…分かった、ならいこう?窓から行きましょう」
「うん」
大きな、人よりも大きな窓を開けると風が室内に入ってきた。ふわりと宙に舞うドレスのスカート。風に遊ばれる髪。ヒールのある靴で窓枠に足をかけ、そこにしゃがむと手を差し伸べてきた。
「ほら、おいで」
主にこうやって手を差し伸べられるなんて、執事とは言えないな。白い手袋に包まれた手は、すごく小さい。指先から掴むと引っ張られる。幅のある枠に足を乗せ下を見ると、かなり遠くに地面があった。それを一瞥し、彼女の方へと視線を向けた。
「主様」
「…なに?」
「私は、いついかなるときでも、主様のお傍にいました。これからも、ずっとあなたの傍で、あなたの笑顔を見せていただけませんか?」
「…ふ、なにそれ、ありきたりな告白…」
生まれつきの白のメッシュと白のまつ毛は星の光をあびている。まつ毛がかかった潤朱色の瞳は優しく歪んでいた。
「そんな告白、私しか返事しないっての」
彼女の手を引き、背中で受ける空気になぜだか心が踊った。ふわり。彼女のドレスが舞った。身体で受ける浮遊感。離れ離れにならないよう強く抱きしめる。歪んだままの瞳は自分の瞳と絡めあって、閉じて、視界は全部真っ暗で。音もなく合わせた唇は、互いに求めあった。
赤い糸のような潤朱色。絡めあいたかった糸は、つかまえたそれを二度とほどかせない。
コメント
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文の書き方が好きで、やばかったです!更新待ってます!