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翌年になり引っ越しの準備は順調に進んだ。光貴はサファイアの準備で忙しく、ほとんどの作業を一人で行うことになった。しかし一人ではなにかと大変だろうと、ときどき互いの両親たちやさっちゃんが手伝いに来てくれた。

それでも一人作業が多く、おなかが大きな分荷造りが大変だった。


お正月休み中に光貴と一緒に家電量販店でピックアップしておいたものを購入し、色々買いそろえた。

しかしまだ、私のお気に入りスペースのソファーだけ買えていない。

とりあえず寸法の合うベンチソファーでも買おうかと思ったけれど、光貴に止められた。時間が掛かっても気に入るものを探した方がいい、と言ってくれたのだ。


ネット通販やインテリアショップをはしごしても、気に入るものは見つからなかった。

半ば諦めていたら、光貴が家具卸専門の会社を探してくれた。ここは申請すれば一般の人間でも家具を購入できるため、時間を作ってそこまで連れて行ってくれた。

その家具卸専門の店は、建物全体がショールームになっていて、様々な家具が置いてあった。ソファーだけでも相当数の在庫がある。広くて目が回りそうだ。

片っ端から見ていると、セミオーダーで作成できるソファーの見本があった。手触りの良いベロア生地が面白い形のソファーに使われていて、色見本として二十種類ほどのサンプル生地が置いてあった。


コロニアル風のアームデザイン。アームの穏やかなカーブラインが魅力のそのソファーは、見本がワインレッドのベロア生地で出来ていて、落ち着いた赤色がアンティーク風な作りのアームにピッタリだった。


これだ、と思った。


他の家具もそうだったけれど、ピピっと心になにか訴えるものがあるのだ。いすやテーブル、他にもインスピレーションを頼りに購入した。その時と同じ感覚で、このソファーに引き寄せられて運命を感じた。

家具屋を駆け回り、ようやく見つけたお気に入りの子。

十万円を超過して予算が若干オーバーだったけれど、気に入ったのでそこは惜しまず払おうと思った。



セミオーダーのため時間がかかると言われた。今からの注文なら、マイホームが出来上がってからの搬入となるが仕方がない。

新藤さんお勧めのデザイン壁紙を使った図書空間に映えるソファーが来たら、かねてからの約束だった『マイホームの写真撮影』をすればいいだろう。マイホームの一か月点検もあるから、ソファーが到着したら新藤さんに連絡すればいいだろう。


そういえば新藤さんに久しく会ってない。まあ、家のことが落ち着いたらこんなものや。当然だと思った。所詮ハウスメーカーの担当と顧客の関係なのだ。ここが覆ることはない。


このソファーに合う木製の小さなサイドテーブルも同時に購入し、帰路に着いた。



あと半月ほどでマイホームが完成する。詩音の誕生に光貴のデビューライブが控えている。



幸せづくしだ。何も言うことはない。



それからも新居に移り住む準備、私は出産で光貴はデビューライブに向けて慌ただしく過ごした。臨月を迎えたのでお腹がはち切れそうな程に成長していた。

昨日の検診では『担当している中で一番詩音ちゃんが元気』と仲良くなった看護師の二階堂(にかいどう)さんに言ってもらった。

二階堂さんは私のふたつ年上。顔を合わせるうちに眼鏡好きの話で盛り上がり、互いにオタクということを認識した。さっちゃんと組んでいる眼鏡同盟に入りたいらしい。


二階堂さんは私が初めてこの医療機関に訪れた時から、担当してくれている人だ。詩音の臓器のことを聞いて大泣きしていた時も、慰めてくれた優しい女性。ショートボブがよく似合っていて、目も丸く、ふっくらしたおかあさん体系が魅力。

毎日眼鏡と白衣セットで見放題な職場が羨ましいと言ったら、ロクな男がいない、と言われて笑ってしまったのだ。


現実世界は厳しいな。


二階堂さんがてきぱきと作業をしてくれて、順調に詩音が動いていることを確認した。予定日はもうすぐ。

でも子宮はまだ高い位置にあって、すぐに産まれる気配は無いんだって。予定日を過ぎても産まれない状態が続く場合、『陣痛促進剤』を使って医療の力を借りながら赤ちゃんをお腹から出すからね、と説明を受けている。


あまりお腹の中に長くおるのも、良くないんやって。羊水が悪くなってきて、赤ちゃんに影響があるらしい。何にでも、程よい期間というのがあるんやな。


予定日に再度検診を予約して、病院を後にした。


何とマイホーム完成日の翌日が詩音の出産予定日で、光貴のデビューライブはその翌日。

幸せが三日間も続けて訪れる。

欲を言えばデビューライブを見に行きたかったけれど、詩音の出産を控えているから諦めた。残念。


それでも光貴がライブで頑張っている姿を想像しながら、詩音をこの腕に抱いている未来を想うと嬉しくなった。もうすぐその幸せは訪れる。

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