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数カ月後、なんの前触れもなくレトワールに矢田さんが現れた。


厨房でクリームを塗っていたら、畑中さんの声が響いたのだ。


「陽茉莉ちゃん!」


その声にハッとなって俺も手を止めて顔を出す。そこには目にいっぱい涙をためた畑中さんが矢田さんに抱きついていた。矢田さんは困惑しながらも畑中さんを受け止めている。聞いていた通り、記憶がないのだろう。


それでも、矢田さんの元気な姿が見られてよかった。きっと畑中さんも同じ気持ちなのだと思う。


「店長、呼んできますね」


二人の再会をそっと見守りつつ、俺は店長を呼びに行った。


レトワールに矢田さんが帰ってきた。ずっと沈みがちだった畑中さんにも本来の笑顔が戻ってきたようだ。


畑中さんはずっと矢田さんのことを心配していた。俺も心配していたけれど、それの比じゃないくらいにだ。普段はそんなこと見せないし、カウンターに立てばいつも通りの笑顔で接客をしているから、誰も気づいていないのだろう。


でも俺は知っている。

矢田さんの復帰について店長に直談判していたことや記憶喪失について調べていたこと。近所の神社にお百度参りをしていたこと。


他人のために何かをすることは難しい。俺はとても苦手な分野。だけど畑中さんはそれをする。


「畑中さんって損得考えたことあります?」


「は? 何の話?」


「いや、何か奉仕精神が強いと思って」


「長峰って損得勘定で生きてるの?」


「そういうわけじゃないです」


「そうよね。私もそんな感じ。自分の心に従ってるだけ。まあ、単純っていうの?」


ふふっと綺麗に笑った。「ふーん」と返事をすれば、「聞いておいて興味なさそうだな」と軽くパンチされた。これも自分の心に従った結果だろうか。

恋愛対象外に絆される日

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