『』叶
「」葛葉
葛葉side
夕食後、リビングで叶とテレビをまったり見る。俺は携帯をいじりながらなんとなく見ていたが、
?「・・こんなことするなんて・・お前なんか、、お前なんか人間じゃない!!!!!!」
迫真の演技が聞こえてきてつい画面を眺める。叶は口を開けて食い入るように画面を見つめている。
どうやらずっと親友と思っていた人物が実は殺人犯で主人公が絶望しているシーンのようだった。その後もシリアスなシーンが続き、良いところでエンディングが流れ次回予告がはじまった。
『あーあ、せっかくいいとこだったのにー。なんでドラマっていつも気になるとこで切るんだよぉ』
「・・そういうもんだろ、次も見てほしいからとかなんじゃないの」
『そうだけどさぁ、、続きが気になってしょうがないよ』
叶は頬を膨らませて文句を言っている。ドラマに文句を言ったって仕方ないだろう、あっちも仕事なんだから、と柄にもなく冷静に思いながら叶をなだめる。
『まぁいいや、葛葉ゲームしようよ』
「いいよ、なにやる?」
『前葛葉が配信でやってたやつ、めっちゃ面白そうだった。あれ二人でもできるらしいじゃん!』
「あーたしかできたはず、いいよ」
そう言い俺たちはソファから立ち上がる。
ゲームの準備をしながらふと一人で考える。
・・・もし叶が悪人になったら俺はどうするんだろう。
完全にさっきのドラマに感化されているが一度気になってしまうとどんどん考えてしまう。
悪人・・・窃盗したり人を殺したり、、とかか。頭の中で悪人の叶を思い描いてみる。
『葛葉・・僕、人殺しちゃった・・・』
震えながら泣き声で俺にそう言う叶。
・・・なんか違う、叶はそんな風に言わない、知らないけど。
『葛葉みろよ、こいつ殺してやったぜ!!』
・・・これも違う、そんなハイテンションで言わねぇだろう、知らないけど。
『葛葉ぁ、こいつ殺しちゃったけどいいよね、悪い奴だし。』
・・・これだ。これが一番しっくりくる。叶はきっとこう言うんだろう。
さわやかな笑顔で俺に伝えてくる叶を頭の中で勝手に想像し思わず笑ってしまう。
『なーに、なに笑ってんの、葛葉』
気づくと叶が怪訝な顔でこっちを見ている。
「あ、いや、ただの思い出し笑い」
『なーんだ』
・・あぶねー。人殺す叶想像してたとか言ったら怒りそうだからなぁ。
肝を冷やしながら二人並んでゲームを開始する。
いつものごとく俺たちはゲームに熱中し、気づけば数時間経過していた。
『はーーやっぱお前とゲームするの楽しいわぁ』
「俺が上手いからだろ」
『はぁ?最後は僕の方が上手かったですぅ』
「んなわけねーだろ」
『はいはい、キッズなんだから』
「お前がな」
『お前だよ』
間髪入れないやりとりに思わず俺も叶も笑ってしまう。
ふとゲームをする前に考えていたことを思い出す。
「なぁ、もし俺が悪人になったらお前どーする?」
『なに急に・・悪人?』
「物盗んだり人殺したり」
『だめだろ』
「いやだめなのはわかってんだけど、もしもよ、俺がそういうことしちゃったらお前どうするのかなって」
『・・・葛葉、まさかお前・・・!!』
「ちげーよ」
『あ、違うか』
茶化しながら叶は黙って考え込む。
『うーん、、僕に関係ない人だったら、別に嫌いにならない。なんなら逃げるの手伝うわ。』
「・・ははっ、やっぱお前最高だなぁ!!!」
大笑いする俺につられて、叶も『ねぇ今僕やばいこと言っちゃった』と言いながらも笑っている。
『葛葉はどうなの』
「え」
『僕がある日人殺してこの家に戻ってきたら。葛葉はもう僕のこと見放す?』
「うん」
『おいおかしいだろ』
「www」
『僕だけリスクあるじゃん』
「うそうそ、さっきちょっとそれ考えててさ」
『え、僕が人殺した時のシミュレーションしてたの?』
「うん」
『いや、うんじゃなくて』
「そしたら、俺お前を連れて魔界に帰ると思う」
『お、見放さないでいてくれるんだ』
「なんか、お前いなかったらつまんないし、こないだ家族にも会わせたしいけるだろ」
『あ、あれって僕が人殺した時用の顔合わせだったんだ』
「そうww」
そんな冗談を言いながらふと叶の方を見ると、顔にかかる前髪を手で払いながら片付けをしており、ついその綺麗な横顔に見とれてしまう。
・・もしもいつか叶の記憶が戻って、俺の前から消えてしまったら、、、
よくないとわかっていながらたまに考えてしまう。
記憶のない人間の叶と吸血鬼の俺。
周りから見たらちぐはぐな組み合わせだが、俺は叶に出会って色々と変わった。まさか魔界に叶を連れていくとも思わなかったし、これからもこの時間が一生続けばいいと思ってしまう。
もちろん、叶からしたら記憶が戻るのが一番いいのだろう、現に魔界に行った時だって叶は自分の家族がわからないことをさみしそうに話していた。
これまでの記憶がない恐怖、焦り、虚しさ・・そんなものは実際に体験した奴しかわからない。俺が考えるよりもよっぽど大きな絶望を叶は経験してきたのだろう。
叶の過去の記憶の中に本当は俺なんかよりもっともっと大切な人がいたんじゃないか。もしも叶が記憶を取り戻してその人のことを思い出してしまったら、きっと俺の元を離れて行ってしまうんじゃないか・・・
考えてもきりがないし、自分よがりで最低なことを願っているのは十分わかっている。でも俺は考えるのをやめることができなかった。
叶side
ドンっ
ゲームの片づけをしていたら、急に背中に抱き着いてくる葛葉。
『なんだよ~』
「・・・」
『・・え、葛葉?』
先ほどまでと様子が違う葛葉に僕は驚く。
「・・お前、絶対にいなくなるなよな」
『え?』
「・・お前にどんなことがあっても俺から離れたら許さないから」
『・・どうした?』
急に真面目な口調で僕の背中で立て続けに言う葛葉に僕は困惑する。
『葛葉、なんかあった・・?』
「・・こえーんだよ」
『・・なにが?』
「その、、お前が記憶をとりもどして、俺の前からいなくなったら、、、」
『記憶がもどったっていなくならないよ』
「そんなのわかんねーじゃん!!!!」
急に大きな声を出す葛葉に驚き、僕は振り向いて葛葉としっかり向き合う。
下を向いているからか、いつもより小さくみえる葛葉。
「・・お前の過去の記憶に、俺よりもっと大事な奴がいるかも、しれないじゃん・・」
顔は見えないが葛葉の声が震えており泣いているのが感じ取れる。
僕がなにも言わないのにはっとしたのか慌てて口を開く葛葉。
「あっ、いや別にお前の記憶が戻るのがやだってことじゃなくて、、そいつの方にいっちゃうのが、、あ、でも・・」
『葛葉』
「ごめん、なんか俺自分のことしか考えてn」
『葛葉!!!』
葛葉side
涙でゆがむ視界がばれないように俯いて話していると突然大きな声が聞こえ、はっと顔をあげて叶の方を見る。
『葛葉、大丈夫だよ。』
「・・・」
『もし僕の記憶が戻ったって、それでも葛葉が一番大事だから。』
「・・・」
『って言っても過去の記憶がないからいまいち説得力ないよね、うーん、、』
「・・いや、、」
『わかった、こっち来て』
そう言い叶は俺の手を引っ張り窓を開けてベランダまで連れていく。
何をするのか検討もつかずぽかんとしていると、突然ベランダの柵に足をかけ、あろうことか柵からまるで夜空を駆け上がるようにジャンプする叶。
「かなえっ!!!!!!!!!」
突然高層階のベランダから飛び降りた叶に俺は叫び、慌てて翼を出して落ちていく叶を追いかける。
叶は落ちていきながらも笑顔で俺の方に手を差し伸べている。
ガシッ
なんとか空中で叶の腕をつかみ、元のベランダまで連れ戻し叶を下ろす。
俺は息を切らしながら叶の狂人じみた行動に絶句していたが、叶は満足そうに笑っている。
『ね?葛葉は僕にとって自分の命をかけられるくらい大事ってこと』
「お前、、いかれてるって、、、もし間に合わなかったらどうすんだよ、、」
『でもこれくらいしないと葛葉信用してくれないかなって』
「・・・いや、俺が悪かったって。もうこんなことするな、頼むから、、」
『僕が本気ってこと、わかった?』
「・・わかった」
俺を信用させるために平気で自分の命を使おうとする叶。俺は叶の覚悟に少しの恐怖さえ覚えながらも、心のどこかで安堵していた。
『葛葉、月が綺麗だよ』
突然のんきな声が聞こえ叶のほうを見上げると、確かに満月が青白くベランダを照らしている。
「あーほんとだな」
俺がそう答えるとなぜかむすっとする叶。
『ちがうよ』
「何が」
『意味がちがう』
「はぁ?どう考えても月が綺麗って意味だろうが」
『人間はもっとロマンチックなんだよ』
『・・?どういう意味なんだよ』
ちゅっ
叶は突然俺に短く口づけたかと思うと
『葛葉、愛してる』
と言った。
突然のできごとに俺は頭がついていかなくなり、顔が熱くなるのがわかる。
そんな俺を笑いながら
『そういう意味だよ』
と爽やかに言ってのける叶。
「おまえ、、それは、、反則だろ、、、」
俺はなんとかそう言葉をひねり出し、恥ずかしさから両手で顔を覆う。
そんな俺の両手を叶は優しくつかんで下ろし、俺の真っ赤になった顔が叶の前に露わになる。
『僕ね、葛葉がどんなことしても一緒にいるよ』
「・・どんなことしても?」
『うん、もしそれでお前が地獄に堕ちたら、、』
「・・堕ちたら?」
『僕も一緒に堕ちるから』
相変わらず爽やかな笑顔で恐ろしいことを口にしながらも、今度は俺を優しく抱きしめてキスをしてくる叶。俺は月光に照らされる叶の長いまつ毛を見ながら目を閉じ、叶の背中に手を回す。叶は口を離し、優しい眼差しでまた俺に言う。
『葛葉、愛してる』
「・・・・・俺も」
俺は聞こえるか分からないほどの小さな声で返したが、叶にはしっかり届いたようだ。
寒空の下、ベランダで抱き合う俺と叶。お互い薄着だが不思議と寒さはなく心地いいとすら思った。
おしまい
コメント
6件