テラーノベル
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ゆゆゆゆ
人はよく勘違いする。
支配とは、
力で屈服させることだと。
痛みを与え、
恐怖を植え付け、
逃げ場を奪うことだと。
浅い。
そんなものは、
ただの拘束だ。
壊れた玩具は、
二度と美しく鳴かない。
私は、
壊したいわけじゃない。
――欲しがらせたい。
それが一番深い。
自分から喉を開き、
自分から鎖を掴み、
自分から戻って来る。
その瞬間ほど、
美しいものはない。
ノスフェラトゥは最初、
本当に獣だった。
誇り高く、
孤独で、
誰にも触れさせない目をしていた。
古代吸血鬼の階層すら噛み砕いた反逆者。
だからこそ、
興味を持った。
飢えているくせに、
飢えを認めない顔をしていたから。
……かわいそうに。
ああいう生き物は、
ずっと苦しい。
欲しいものを欲しいと言えない。
安心したいくせに牙を剥く。
抱かれたいくせに、
孤高を演じる。
だから私は、
教えてあげただけだ。
首輪を。
許可を。
褒美を。
“満たされる方法”を。
最初は睨んでいた。
鎖を引けば殺したそうな顔をして、
指を入れれば噛みつこうとしていた。
それが今では。
私が帰るだけで安心した顔をする。
かわいい。
本当に。
特に好きなのは、
本人だけがまだ否定しているところだ。
「違う」
「従っていない」
「これは支配じゃない」
そう思い込みながら、
結局、自分から私の部屋へ来る。
自分で首輪をつけて。
私の匂いへ埋もれて眠って。
自由を与えられても、
部屋から出られない。
あれはもう、
鎖で繋がれているんじゃない。
“私がいる安心”へ依存している。
だから首輪を外しても意味がない。
もう、
肺の奥まで染み込んでいる。
呼吸みたいに。
……それに。
ノスフェラトゥは勘違いしている。
自分が弱くなったと思っている。
違う。
むしろ逆だ。
あれは元々、
誰より飢えが強い。
だから、
ここまで深く染まる。
空っぽの器ほど、
何かを注がれた時、
溺れるほど満たされる。
私はただ、
そこへ与えているだけ。
恐怖。
熱。
許可。
優しさ。
そして、
時々少しの飢え。
全部混ぜると、
生き物は自分から戻って来る。
面白い。
特にノスフェラトゥは、
“誇り”があるから美しい。
ただ従順なだけなら、
こんなに可愛くない。
睨む。
反抗する。
逃げようとする。
なのに、
最後には必ずこちらを見る。
あの赤い目が、
無意識に“許可”を待つ瞬間。
たまらなく愛おしい。
……愛。
そう、
呼ぶ者もいるのだろう。
アズールあたりは、
たぶんそう考えている。
でも違う。
もっと原始的だ。
巣作りをする獣。
主人の匂いが消えると、
寒さに震える吸血鬼。
それを抱き締めると、
安心したみたいに力を抜く。
ただそれだけ。
なのに、
本人はまだ「堕ちていない」と思っている。
…かわいい。
本当に。
私はきっと、
あの瞬間が好きなんだ。
完全に堕ちた後じゃない。
堕ち切る直前。
自分がどこまで沈んでいるか、
薄々わかっていながら、
まだ目を逸らそうとしている時。
鏡の前で、
鎖を掴んだまま震える顔。
あれが、
一番綺麗だった。
だから私は、
急がない。
無理やり壊したりしない。
待つ。
飢えるまで。
寂しくなるまで。
私を欲しくなるまで。
その方が、
ずっと深く残るから。
……さて。
今日はどこまで耐えられるかな。
私のかわいい反逆者は。
コメント
1件
「主」、読ませていただきました。支配の形を「壊す」ではなく「欲しがらせる」と描く視点に、まず引き込まれました。特に、ノス♡♡♡トゥがまだ自分は堕ちていないと思い込んでいる「堕ち切る直前」の瞬間が一番美しいという語り手の価値観が、怖くて、それでいてなぜか目が離せません。誇り高かった獣が、知らないうちに主人の匂いを求めてしまう——その変化の過程を、これほど丹念に、そして残酷なほど優しく書けるのはすごいです。続きで彼女がどう「耐える」のか、気になって仕方ありません。