1時間くらい話をしていただろうか。ふと、視線を感じてそちらに視線を送ると、そこにはティアがいた。ティアも友人を紹介したいのか、一人の男子生徒が一緒に待ってくれている。
「お話し中、すみません。少し席をはずしますね?」
そう言って、あとは兄に任せて席を立つ。私の1番仲の良い友人たちばかりなので、兄とも話は弾んでいた。
「ティア、ごきげんよう」
声をかけるのを待ってくれていたようで、まだかまだかとした顔をしていて可愛らしい。貴族ではないティアからお茶会で声をかけるのは礼儀に反するので、もどかしかっただろう。
「アンナリーゼ様、やっとお話しできました……。あの……あちらの席は、もうよかったのですか?」
ティアは、私の後ろのテーブルで歓談している人達をちらっとみている。
「えぇ、もう大丈夫。私がいなくても会話がはずんでいるし、聞きたい話もきけたから……」
申訳なさそうにしているので、ティアの肩に手を置いて、少し場所を変えるように促す。歩きながら、チラリとついてきている男子生徒を見た。
「それで? そちらの男性はティアのボーイフレンドかしら?」
意地悪くティアに質問すると、顔を真っ赤にして「違います!」と、はっきり言われてしまった。男子生徒の左眉がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。
……きっと、ティアに想いを寄せているのね。そんなにはっきりと言わなくても、いいのにね。
ティアには申し訳ないが、男子生徒のほうを気遣いたくなるほど、不憫だと感じた。
「こちらの方は、ローズディア公国の大店の方です。アンナリーゼ様を紹介してほしいと言われたので、紹介させてください!」
「えぇ、ティアの紹介なら喜んで!」
そう言って、一緒についてきていた男子生徒に席に着くよう目くばせをする。
「お初にお目にかかります、アンナリーゼ様。私はニコライ・マーラと申します。ローズディア公国アンバー領でマーラという商会名で商いを父が生業にしております」
「アンバー領でですか? では、ジョージア様の領地の方ってことですか?」
「左様でございます。このたびは、ジョージア様と……」
言いかけたことが何なのか大体察しがついたので、私は両手でニコライの口を塞ぐ。
「それ以上は言わないで。当日まで内緒なの!」
悪いことをしているいたずらっ子のような笑みを浮かべ、私はニコライに注意する。ニコライは、了承したとコクコクと頷いてくれた。
「これは大変失礼しました。内密にされていたのですね。私としたことが、その情報を見逃していました……商人としては、まだまだのようです……」
そんな風に自己評価しているニコライだが、その情報収集能力はすごい。
ジョージア様とのことは、家族しか知らないのだから……。
「別室で話しましょうか? ここは人目もありますしね!」
私とティア、ニコライが連れ立って間借りしている部屋へ移動する。
部屋の扉を閉じて、やっと一息。それぞれ庭から自分用に飲み物やお菓子を持ってきて机に並べ席に着く。
「ニコライ、その情報はどこから仕入れたの?」
私に聞かれるであろうことは、ニコライはわかっていたようだ。
「そうですね。夏季休暇中、うちの商店にジョージア様より青薔薇の宝飾品が注文されました。それは、ソフィア様には似つかわしくない宝飾品でしたので、きっと別の方だろうと考えたのです」
「そこで、なぜ私なのかしら?」
ティアも不思議そうに話を聞いている。
「見ていれば、わかります。ジョージア様の御心がどこにあるのかなんて。私は、直接ジョージア様とお話ししたことはありませんが、アンナリーゼ様ならわかるのではないですか?」
逆に問われてしまったわ。うん、ジョージア様の気持ちは分かってる。でも、それは今は誰にも言わないとそう決めているの。
「そうなの? あなたには、そのように見えているのね。私は兄の友人として、ジョージア様を慕っていますよ。恋慕ではありませんし、ジョージア様もそうでしょう?」
これ以上詮索しないようにと、少し圧力をかけておく。このニコライ、かなり勘がいいように思う。
「そうだわ! いつもお世話になっているジョージア様に私から卒業の記念に贈り物をしたいと思っていたの。請け負ってくれるかしら?」
挑戦状ではないが、ニコライがどんな反応をみせるか見てみたくなった。この判断で、商人として大成するかどうかわかるだろう。
「承りましたと言いたいところですが、私はただの子供。店主に相談の後、回答でもよろしいでしょうか?」
さすが、大店の子供だ。貴族からの注文は、無理難題が多いこともある。きちんと対応できる店主が交渉を行うのが普通だ。その判断を店先にまだ出ていない子ができるなら、まずまずの及第点だ。
「それでいいわ。今日はあなたとお友達になれたことが私の収穫かしらね?」
「アンナリーゼ様、悪い顔してますよ!」
「ティア、いい友人を紹介してくれてありがとう。ニコライのこと気に入ったわ!」
「もったいなきお言葉。早速、店主へ連絡を取らせていただきます」
ニコライは商人らしく、抜け目のない感じがする。ティアも商家の娘ではあるが、どちらかと言えば、職人に近いのでこういった駆け引きは苦手そうだ。
「では、よい返事を待っているわね!」
そろそろ夕方になってきたので、お茶会はお開きにする時間だ。私たちは、そのままこの部屋で解散することにした。
ニコライとティアを見送って、私は少しだけ部屋で今日の出来事を回想する。ニコライを紹介してもらったことは、今後私にとって強みになるだろう。少しずつ距離を縮めていこう。何せ油断ならない感じがするからだ。
「この出会いを吉とするよう、私の努力もまだまだ必要ね……」
夕暮れになっているので、窓から入る光量も減り部屋も少しずつ暗くなってくる。そこで、一人ごちたのであった。
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