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地下街は、今日も息をしていない。湿った空気と腐臭、光や希望という言葉を知らない人間たちが行き交う。
レイ・ヴァイスは、その闇の中で静かに生きていた。
白い髪は、ここでは呪いの象徴だった。
母に手を引かれて歩いていた幼い頃から、人々から投げられる視線は石よりも冷たかった。
「忌み子」「不吉」「近づくな」そんな言葉を飽きるほど聞いた。
ーーそれでも、母だけは違った。
「大丈夫。レイは、強くて優しい子だから」
母の手はいつも荒れていて、血の匂いがした。
それでも、私を抱きしめる腕は誰よりも何よりもあたたかかった。
その腕が、ある日――目の前で、崩れ落ちた。
守るために、殴られ、蹴られ、それでも最後まで私を庇って。
そして母は次第に動かなくなった。
泣き叫ぶ余裕もなく、私は母の亡骸を抱えながら、暗い路地裏で息を潜めた。
そして、光の差し込まない街の一角で、少女は「生きる」ために戦うことを決めた。
誰にも教わらず、誰も信じず。
殴り方、急所、逃げ道。
地下街で生き延びるための術は、全部、自分で身につけた。
そして十五の年。
白髪は“忌むべきもの”から“価値あるもの”へと変わる。
己の欲望を隠さない視線。
どれだけ逃げても、幾度となく追ってくる足音。
私は抵抗した。何度も、何度も。
――だが、その日は相手が悪かった。
私を狙う貴族が雇った屈強な男たち。
数で押され、体力を削られ、傷が疼く。
私は力の限り抗った。生きるために。
しかし、最後の一人に腕を掴まれた。
『もう終わりだ』そう思って目を瞑った。
— — その瞬間。
風が、斬れた。
血飛沫と共に、男が崩れる。
次の瞬間には、立ち上がろうとしていた他の男たちも地面に転がっていた。
私の前に立っていたのは、
小柄で、無表情で、
地下街そのものよりも冷たい目をした男。
「……お前」
短く息を整えながら、男はレイを見る。
「中々やるじゃねぇか」
それだけ言って、男は去っていった。
名も、所属も、何も知らない。
けれど私は、その背中から目を離せなかった。
(……あの人の、隣で)
理由は分からない。
ただ、直感で感じた。
(あの人と、一緒に戦いたい)
それが、『レイ・ヴァイス』私の人生に、一線の光が差し込んだ瞬間だった。