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悪戯書きでも何でも無く、アグニの印章を手に入れた。
アグニが言ったことをまとめると、隣接する村を進んで行けば光の所に行きやすくなる――ということらしい。まだ理解が追い付かないが、全ての属性印章を手に入れなくても進めるようだ。
試練を受けにここへ来たわけではないことから、無理強いをするつもりもないということらしい。
「神族っていうから少しは身構えていたのに、そんなにかしこまる必要も無ければ畏《おそ》れることも無さそうだな。なぁ、ルティ?」
「ええぇ? わ、わたしは畏れたいですよぉぉ」
その反応もどうかと思うが、いつもより挙動が怪しい。
「何だ、ルティらしくないな」
「こう見えても信心深くてですね~……」
「それはルシナさんの教えでか?」
「もちろんですよ~! 火山渓谷に住む者は火の神を信じて日々の暮らしを~」
その割にはアグニのことを小さな女の子だとか言っていたけどな。神と認めてから態度を改めたのか。
「それにしても案外神族の国って、なぁんにも無いんですねぇ~」
「そんなこと言っていいのか?」
おれも内心思っていたが、はっきり言う奴だな。
「だってさっきまではぽかぽか陽気で眠くなって気持ちよく過ごせていたんですよ~? それが今は、ただ真っ白な壁だけが延々と続いているだけじゃないですか~」
「壁で属性を区切っているんだろうな。そうでなければ神族はともかく、そこに住む民が環境に合わなくなるはずだ。さすがに火の民が氷の村に行けるはずもないだろうからな」
「そんなものなんですかねぇ」
ルティにも同じことが言える。火山に近い所に住んでいたのなら氷山に行くのも躊躇《ちゅうちょ》するだろう。
「それぞれ適した所に住んでいるってことだろ」
「なるほど~! ところで、どちらに進んでいるんですか?」
「……風だ。氷の方は寒そうだからな」
「わたしも寒いのは苦手ですっ!」
やはりな。そう言うと思った。それは別としても、風属性であればたとえ強い風が吹き荒れても凍えるということは無いはず。
《それはどうかな?》
何だこの声?
「ひゃわわあぁぁぁ!? アック様、いきなり何ををを~!!」
「……何っ!?」
ルティはさっきまで何の警戒も持たずにスタスタと調子良くおれの前を歩いていた。それがどういうわけか、体ごと空中に浮き上がってしまっている。
これは風の力か?
「ひぃえぇぇ~!! すごくすごく高い所に浮いて行きますよぉぉ~!? こ、これは結構怖いものが~!」
「落ち着け! おれの仕業じゃない!」
「えぇ!? アック様じゃないなら、どなたが~!?」
おれが以前やった自然の風でやったなんちゃって抱っこに似ているが、あの時は単なるおふざけだった。
「このままカノジョを連れて行っていいかな?」
「それは駄目ですよぉぉ~! アック様が、そんな勝手を許すはずがありません~」
「あぁ、それじゃあそのアック様を吹き飛ばしてからにするよ」
「……えぇぇ? だ、駄目です、駄目です~!!」
だが、浮かんだままのルティは何やら姿の見えない奴と空中で会話をしている。男の声はおれにも届いているが、ルティの声はおれには聞こえない。
ひたすら驚き困惑している様子だけはかろうじて分かるが、あの様子では恐らく。そうこうしていると、おれの全身がやや浮かせられた感覚に陥る。だが大した風では無いのでこの程度なら吹き飛ばされることは無さそうだ。
そう思っていると目の前には、
「――キミがアック様かな?」
「そういうお前は……、風の神ってやつか?」
「話が早いね。それなら、カノジョを賭けて勝負をしようじゃないか!」
「カノジョというのは、空《くう》に浮かせて遊ばせているあいつのことか?」
「あぁ、そうだよ。ボクは風のラファーガ。アック様には悪いけどあの子はボクが頂くよ」
こんないけ好かない野郎が風の神?
いきなり現れてルティを賭けるとかふざけた奴だ。まさかルティに興味を持ったうえ、そばに置きたくなったとか?
アグニはまだ良かったが、こんな野郎が神族とは。
「勝手なことを言うな! ルティはおれの大事な仲間だ。すでに勝った気になっていると痛い目を見るぞ! それがたとえ神族だとしてもな」
「……面白い人間だ。精霊魔法を使える程度でいい気になるなよ、人間!」
「つべこべ言わずに攻撃して来たらどうだ?」
どうにも雑魚臭がプンプンするが、ルティをあのままにするのは危険すぎる。
ここは手っ取り早く終わらせてやろう。
「おっと、その前に……」
「――なっ!? ま、魔石が!?」
「魔石は危険だ。しばらく旋風の中に留まってもらうよ」
「勝手な真似を! ……風の神だか何だか知らないが、ルティも魔石も返してもらうぞ」
「あはは、面白いね。人間は本当に……」