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バーを出た二人の間には、夜の冷たい風が吹き抜けていた。けれど、繋いだ手のひらだけが、異様なほど熱を帯びている。
「……なぁ、太宰」 「なんだい、中也」
中也は、少しだけ荒くなった呼吸を整えながら、近くにある「昨日と同じ」見慣れたホテルの看板を見上げた。
「結局こうなるのかよ……。またホテル、行ってやるか」
呆れたような、けれどどこか開き直ったような中也の言葉に、太宰は足を止めて目を丸くした。
「おや、中也。君、忘れちゃったのかい? 私たちは昨日も、夜通しあんなことやこんなことをしたじゃないか。重力使いの体力は底なしかい?」
太宰はわざとらしく肩をすくめ、困ったように笑ってみせる。その唇には、中也を揶揄ういつもの色が混ざっていた。 しかし、中也は太宰の手を強く引き寄せ、至近距離でその瞳を射抜いた。
「そんなことは分かってんだよ。……だが、今はもう一回やりたい気分なんだ。文句あんのか」
中也の低い声と、真っ直ぐな視線。そこには「どちらが誘ったか」なんて些細な問題を超えた、剥き出しの欲求があった。 太宰は一瞬だけ虚を突かれたように固まり、やがて、降参したようにふっと表情を緩める。
「……困ったね。君がそんな顔で言うなら、心中主義者の私に拒否権なんてないじゃないか」
太宰の手が中也の腰に回り、ぐいと自分の方へ引き寄せた。 昨日の熱がまだ残っているはずの体に、新しい火種が灯る。 どちらが先に仕掛けたわけでも、どちらが優位に立っているわけでもない。ただ、互いの存在がなければ完成しない欠落を埋め合うように、二人は吸い寄せられていく。
「気が合うね。実は私も、昨日の続きがまだ足りないと思っていたところだ」
太宰が耳元で囁くと、中也は「だろうな」と短く笑った。
ホテルの自動ドアが開く。 今夜もまた、ヨコハマの喧騒を遠くに聞きながら、二人は名前のない関係の中に深く沈んでいく。
昨日よりも、もっと深く。 言葉にすれば壊れてしまうほど、切実な熱を抱えたまま。