テラーノベル
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『絶対に見つけ出します。たとえどこにいても。だから…』
「ッハ!! ヒュッ、ハッ、ハァッ」
…最悪な目覚めだ。体は変な汗でベタベタするし、呼吸が落ち着かなくて苦しい。何より、体の震えが止まらない。
(何だこの夢…。にげる?なにから?)
あと少しで思い出せそうなのに、思い出そうとすると頭痛がする。せっかくまとめた思考も、端からどんどん崩れてしまう。
『おはようございます。よく眠れましたか?』
「…ヒョエッ」
至近距離に突然、国宝並みのイケメンが現れて、今まで喉から出したことの無い声が出た。何だこのイケメン。人はイケメンを過剰摂取すると死ぬって知らないのか???
「エ、アツ、はい…」
『フフッ。そんなに緊張しなくてもいいですよ。どこか痛いところはありませんか?アナタ、突然気絶したんですよ? 』
「あっ、大丈夫です。えーっと、たしか…加賀美…さん?でしたっけ…。」
『はい。これからハルの守護神として、生活を共にさせていただきます。
改めまして、これからよろしくお願いします。』
「よ、よろしくお願いします。…ッハ!仕事!!!遅刻!!今何時?! 」
『今は朝の5時です。よほど疲れていたんですね。21時間も起きずに寝てたんですよ?』
「ニジュウニジカンッッ!?!?ヤバイヤバイヤバイ!!上司に殺されるッ!!!」
突然気絶したせいで会社を無断欠勤しただけでなくLINEも未読無視。恐る恐るスマホを見たらメッセージが50件ほど来ていて、全身の血の気が引いた。
(今日は終電まで残業じゃ済まないかもなぁ。タクシー高いんだよなぁ。)
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ーーーーっ!!もう最悪ッッ!!」
『……ハル、もしジョウシ?って人が消えたら、ハルは幸せですか?』
「んえ?そりぁ幸せですよ!!!あのハゲ上司いっつも仕事押し付けてくるもん!ほんと嫌になっちゃいますわ…」
『…そうなんですね。分かりました!!』
「『分かった』って、何が分かったんで…」
一瞬、全身に凍りつくような寒気が走った。思わず加賀美さんに目を向けると、さっきと同じ、少年のような無邪気さをはらんだ綺麗な笑顔をうかべている。
(なんだったんだろう…まあ勘違いかな?)
そんなことよりも今は会社の心配だ。僕は少し焦りながら出社の準備をした。シャワーを浴びて、加賀美さんが作ってくれた朝ごはんを頬張り、 上司への謝罪の言葉を考えながら靴を履く。
「行ってきまぁす」
もう夢のことも、謎の寒気も、頭の片隅にも残っていなかった。
『行ってらっしゃい』
僕は加賀美さんの綺麗な笑顔の裏に隠れる真っ黒な瞳に気付かずに、憂鬱な気持ちで出社した。
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