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しめさば
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ステージに上がってきたのは10人の人たち。
対して、残る賞品はあと5つ――
「はい、それではポエールさん。
ここからのルールを説明してください」
私は何も聞かされていないので、ここは素直にポエールさんに丸投げすることにした。
「はい、かしこまりました。
これから10名の方に、紙を配らせて頂きます。
そこに希望する賞品を記入してください!」
「ふむふむ。
あ、文字が難しい方は、私が代筆しますね」
「アイナさん、ナイスフォローをありがとうございます。
そしてみなさんに書いてもらったら、こちらで一旦取りまとめさせて頂きまして――」
「頂きまして?」
「その賞品を希望したのが1人であれば、めでたくその賞品をゲット、ということになります!
もし2人以上が希望されていた場合、そこからは――」
「そこからは?」
「じゃんけんです!!」
「シンプルなルールですね!」
「ふふふ、その方が後腐れが無いでしょう?
それでは紙を配りますので、ご記入をお願いします!」
ポエールさんの言葉を受けて、商会の職員が紙を配り始めた。
しばらくすると、一人の男性が私に声を掛けてきた。
「すまん、代筆をお願いしても良いかな?」
「はい、もちろんです!
では紙をお預かりしますね。えーっと、名前と希望賞品の2つを書くみたいですね」
「分かった。名前はチャトラン、希望する賞品は……。
あの、グリゼルダさんのやつで……」
「あ……。何だか聞き覚えのある声だと思ったら」
チャトランさんはステージに上がる前、『絶対に当てるッ!!』と大声で叫んでいた人のようだ。
そこまで強く希望するなら、この人に是非当ててもらいたいなぁ。
……でも、満足するかなぁ、あの(ごにょごにょ)券。
代筆をしてからチャトランさんに紙を返すと、彼はそのまま、商会の職員に紙を渡しに行った。
その姿を目で追いながら、ついでに周囲を眺めてみれば、まだまだ悩んでいる人が大勢いる。
……ある意味、このルールは残酷だ。
『自分が欲しい賞品』と『入手の可能性が高い賞品』のどちらか。それを選ぶところから始めなければいけないのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はい! みなさん、お待たせいたしました!
集計の方が終わりましたので、ここからはアイナさんにお任せいたします!」
「えっ、また私ですか!?」
「もちろんですとも! ねぇ、みなさん!?」
「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!!!」」」」」
……何、この飼い慣らされた会場。
そんな感想を抱いていると、商会の職員が集計の紙を手渡してくれた。
「それでは引き続き、私がお送りさせて頂きますね。
――どれどれ……。むむっ」
「「「「「むむっ!?」」」」」
渡された紙を見てみると、結果が綺麗に分かれてしまっていた。
ほほう、この結果はなんともかんとも……。
「なんと! 1人しか希望していない賞品が3つもあります!!」
「「「「「な、なんだってーっ!?」」」」」
これには私もびっくりだ。
もう少しくらいは分散されると思っていたのに……。
「――まずは銘酒『竜の秘宝』!!
これの希望がたったの1人!! おめでとうございまーす!!」
「俺!? や、やったああああっ!!」
「マジか!?」
「逆張りに失敗した……っ!!」
「うそーん!?」
「こ、後悔なんて……」
悲喜こもごもの約5名。
競争倍率が高いと|睨《にら》んで他を選んだ結果、『竜の秘宝』を選んだのが1人になってしまったようだ。
これが今回のルールの恐ろしいところだよね……。
「それでは瓶をまるまる1本、進呈します! 大切に飲んでくださいね!」
「はーい! アイナさん、愛してるぅ~♪」
「ありがとうございます、ごめんなさい。
それじゃ、次にいきますよー」
「「「「「どきどき……」」」」」
「次は今回の目玉、新作のお菓子! 肝入りで出したんですが、残念ながら希望者は1人でした!」
「とすると……私ですね!!」
ステージの上の女の子が、興奮気味に言った。
名前を聞くと、問題なく本人のようだ。
「はい、こちらのお菓子になりまーす」
「わーい! ……すいません!
ここで食べていっても良いですか!?」
「え? えーっと、はい? 何で?」
「私、食べ物に関わる仕事に就きたいんです!
是非この未知の食べ物を、私の食レポでこの場のみなさんにお届けしたいなって!!」
「お、おー?
別に構いませんけど……」
「それでは早速!!」
その女の子はお菓子の包装を破り、中身を取り出した。
「これは……不思議な触感ですね。
それに薄っすらと白い……、でも優しい色。形は四角の塊で、ずっしりと重い感じがします!」
「あ。もう始まっているんですね、食レポ」
それならしばらく黙っていた方が良いかな?
「これは多分、このままかじりつくものではありませんね。
小分けにして、上品に食べるような……そんなイメージがします!」
そう言うと女の子は、腰に付けた小さな鞄からナイフを取り出した。
そしてお菓子をすぱっと切る。
「――おお、ご覧ください、この断面。
品のある黒い光沢……。それに、これは豆かしら? なるほど、豆で作った餡ですね!」
そうそう。正解、正解。
ちなみにこれ、日本で言うところの和菓子『きんつば』である。
何でグリゼルダがこのレシピを知っていたのか、大いに謎が残るところではあるが――
……しかし私も久し振りに食べて、ついつい望郷の念に駆られてしまったのはここだけの秘密だ。
「それでは参ります! 実食っ!!」
「「「おぉーっ!」」」
女の子は緊張しながら、きんつばの欠片を口に運んだ。
そして――
バターンッ!!
「……え?」
「「「「「え?」」」」」
――その場に倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「みゃ……」
「みゃ?」
「うみゃい……」
「えーっと……、他には?」
「うみゃ……。
……ううぅ、語彙が足りないことを痛感しました……。くうぅ~……」
「……だ、そうです。
次回、何かの賞品でまた出たときは、みなさんも狙ってみてくださーい」
「「「「「そ、そんなに美味いのか……」」」」」
美味いんだよ!
……元の世界のものより美味しいのは、私の錬金術のおかげなんだけど!!
「――はい、それでは次に行きますね!
次は……グリゼルダの(ごにょごにょ)券を希望したのが、こちらも1人!!」
「むおっ!? 俺か! 俺だなっ!!」
私の言葉に、チャトランさんが興奮した。
「ほう……。妾を選ぶとは、見る目があるのう」
「えーっと、こちらが私の仲間のグリゼルダです。
見た目通り、伝説の竜人様ですよーっ」
「「「「「おお、あれが……!!」」」」」
……まぁ本当は、竜人どころか光竜王様なんだけど。
でもここでは、そこまで言う必要は無いからね。
「一目見たときから気になっておりました!
このたびはグリゼルダさんとお話できて、こここ、光栄ですっ!!」
あ、そういう感じだったの?
「ふふ、妾も罪な女よのう。
……さて、それでは妾からの賞品じゃな。
お主、アイナのふたつ名を知っておるか?」
「はい? えぇっと、『神器の魔女』様ですよね?」
「うむ、それそれ。他にはルークの『竜王殺し』、妾の『白銀の竜姫』、などがあるのじゃが――」
「おぉ、『白銀の竜姫』……。何とも素晴らしい響き……!!」
「じゃろう? これは妾の自信作なのじゃ。
ついてはな、妾の賞品として、お主にふたつ名をくれてやろう」
「おぉ……!!」
「「「「「おぉー?」」」」」
……ある意味、楽な賞品である。
人によっては明らかなハズレとされてしまいそうだけど、しかしチャトランさんの目には興奮の色が浮かんでいる。
「グリゼルダ、すぐ決められますか?」
「ふふん、任せておれ。
そうじゃなぁ、なかなかの肉体に色黒の肌……。お主、確か水路をよく掘っておったの?
ならばお主のふたつ名は『†深淵の掘削王†』じゃ!!」
「『深淵の掘削王』!!」
「違う違う、『†深淵の掘削王†』じゃ」
「……『深淵の掘削王』?」
「違うって。『†深淵の掘削王†』じゃよ」
……あの、グリゼルダさん。
『†』って、どうやって発音するんですかね……?
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