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ほぇ、……なるほどね? やっぱ海月って可愛いし癒されるんだけど、どこかすごい何かがありそうな生き物だよね〜… ちょうど今日水族館行ってきてそのポリプ?の仕組みも見てきた!
「紅海月」
初雨さまのコンテスト参加作品となります
サムネイラスト 初雨さま
ATTENTION
irxs nmmn 赤桃
地雷さん&nmmn理解のない方は回れ右
START
紅海月【べにくらげ】
不死の海月。
長年生きると、赤ちゃんであるポリプへと身を縮めまた歳を重ねる───。
「りうら、起きてる?」
「ん、」
暗いベッドでふたりきり。
やましいことは何もないけど、特別な空間。
「…だいすき、」
耳に入る大好きな声。
俺はまた、この“好き”を失ってしまうんだろう。
「俺も」
わかっていても簡単に口から溢れ出る本当の“好き”。
自分で言うのも何だが、救いようがなかった。
『せっかく引き取ってやったのに…。』
『お前なんか拾うんじゃなかった』
『出来損ないのくせに!』
『苦労を返せ!!』
蘇る数々の記憶。
思い出したくない数々の記憶。
真実を告げれば突き放され、命の危険を感じるとまた0に戻ってしまう。
一度育てたのにまたやり直し。
それは親にとって相当なストレスとなり、また捨てられてしまう。
でも、大人になっても高齢者になることはなかった。
不老不死だからだ。
今回の親はそれを伝えていないことと、たまたま暴力的ではなかったため、今大人としてないちゃんと一緒にいられているが…。
一体、あと何回自分に苦しめばいいんだろう。
そう、何度も思った。
「ねえ、俺のこと、好き?」
気づけばその言葉が俺の口癖になっていた。
“愛”を確認できなければその人とはそれまで。
経験から得たものだ。
今日は珍しくないちゃんが“好き”を口にしてくれた。
それだけで、俺は満たされた気持ちになる。
挿れなくても、唇を思い切り触れ合わせなくても…。
俺は満たされる。
愛があれば、それで。
やり直す度いつも、出会うのはないちゃんだった。
『りうらさんって言うんですね、かっこいい〜!』
『赤髪まで勇気が出なくて〜。尊敬します!』
『どうやったらそんなにかっこよくなれるの、?教えてよ〜』
『好き、だよ』
ああ、もう離れたくない。
行かないで、ああ。
俺をまた、独りにしないで────!!!
はっ、と目が覚めた。
今の、夢───?
全身汗ぐっしょりで、気持ち悪かった。
風邪をひかないうちにシャワーだけ浴びちゃおう。
隣にいるないちゃんを起こさないように、ゆっくりそっと、部屋を出る。
俺って一体、なんなんだろうな。
自分の体を見下ろしつつ、いつものようにシャワーを浴びる。
どうやったらこんなのが生まれてくるんだろう。
逆に笑えてくる。
このあと、ボディーソープが跳ねて目に入って痛かった。
ちゃんと、痛かった。
「あ、りうらおはよ」
「起こしちゃった?」
風呂場から出るとないちゃんはもう起きていて、朝ごはんの支度をしてくれていた。
「いや、多分大丈夫!」
「ならよかった」
ないちゃんには、俺の秘密を話していない。
何度も同じ境遇になっていることを話していない。
話すべきなのか、何回も悩んだ。
いや、何回じゃ済まない。何十回、何百回…。
もはやそれは数え切れない。
「りうら、?どうしたの?」
「あ、いや、ううん」
しまった、立ったまま考え込んじゃった。
せめてないこだけは、ないこだけでいいから辛い思いをしないで、純粋に生きてほしい。
俺は、そう毎日願っている。
俺が自分の本当の姿を見つけたのは、何度目の人生だっただろう。
ああ、一つ前のか。
ある理科の授業で、“紅海月”という生き物を教師が語った。
その話をなんとなく聞いていた。
ただの雑学披露だと思って。
いつものあまり面白くない話だと思って。
でも、途中から体が震えて、冷や汗で額は濡れた。
俺は気付いたんだ、自分は“紅海月”なんだと。
身に危険を感じたり、長年生きたりすると、赤ちゃんであるポリプへと戻ること。
とても小さく、肉眼で見るのは大変なこと。
他の生き物に食べられない限り死なないこと。
頬杖が崩れ、開いた口が閉じなくなった。
今までの自分にぴたりと当てはまることが恐怖だった。
みんなから不審がられた。
その次の日、俺は自殺を図った。
これで死ねれば、俺は紅海月じゃないって証明できるから。
自分で自分を証明できるから。
包丁で心臓を何度も刺した。
生きていた中で一番の苦しみだった。
視界が赤く染まっていき、意識が朦朧とした。
でも、俺は死ななかった。
また、縮んでしまったのだ。
要らない防衛本能だった。
結局いくら生きたって、ないちゃんとの物語を繰り返してしまうだけ。
ないちゃんのことは俺も大好きだ。
世界中の誰よりも愛してる。
でも、もう、俺が辛いよ。
何回、ないちゃんを看取らなくちゃいけないんだろう。
大好きな人が死ぬ瞬間を、何回見なくちゃいけないんだろう。
そうか、そうだ、そうすれば───。
「ねえ、ないちゃん」
「?」
俺は包丁を差し出した。
「俺のこと殺してくれない?」
「…………………へ?」
ないちゃんは、今までにない声を出した。
「なんで……!?」
俺は、今日全てを告げる。
「なんでって…それは、俺が紅海月だからだよ」
いかにも通常を装って話す。
内面はちっとも通常じゃないが。
「りうらが、紅海月、?」
どうやら紅海月の存在は知っているようだ。
「どういうこと…?」
だよね、びっくりするよね。
「俺ね、ずっと生きてるの」
「えっ…!?」
怖いよね、ごめんね。
「何回も、ないちゃんと恋愛してるの」
「俺と………」
衝動的に、ぎゅっと抱きしめる。
もちろん包丁は刺さないで。
「もう、終わりたいよ、俺。もう、こりごりなんだよっ…」
俺から抱きしめたけど、無理矢理にないちゃんを引き剥がす。
「ねえ、俺のこと殺してよ」
自分では、この、人生という物語を終わらせることはできない。
他人の手で、終わらせてもらうこと他ない。
「ねえ、殺して?」
なんで、こんな体なんだろう。
どうして、紅海月なんかみたいな…!!
「殺してよ、ねえ、死にたいよ」
ああ、悪夢だ。
こんな夢、早く終わってしまえばいいのに。
「ねえ、ねえ…」
頬に一筋、伝うものがあった。
「あはは、ッ…」
乾いた笑みが溢れる。
目の前のないちゃんは、恐怖に怯えていた。
「俺のこと、怖い?」
どうやら体が硬直した上声が出ないらしく、瞳孔も思い切り開いている。
ごめんね。
「………こんな俺なんか、生まれてこなきゃよかったんだよね」
そう、そっと呟くと、左からないちゃんの手が飛んできた。
「痛、っ」
「馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…!!!」
ないちゃんの目から、大粒の涙がたくさん溢れた。
「俺が、りうらと出会ってどれだけ救われたと思ってるの…?前の時はわからないけど、ずっと独りで…居場所もなくて…やっと見つけた大切なものなんだよ、りうらは…!!!」
俺が、大切……?
そう言ってもらったのは、初めてだ。
そういえば、ないちゃんとはカフェで、知り合ったんだっけ…。そうだ、泣いていた俺に声をかけてくれたんだ。
「だから、死なないで…!生まれてこなきゃよかったなんて言わないで!!」
2人で顔をぐしゃぐしゃにしながら、本当の思いを伝え合う。
こんなこと、俺が生きてきた中で一回もなかった。
「ねえ、ないちゃん。」
「ん?」
「この世界でないちゃんが死んでも、また生まれ変わって出会ってくれる…?」
ないちゃんは、ふっ、と笑った。
「そんなの、出会うに決まってるじゃん」
ないちゃんが70歳になった日、ないちゃんはくも膜下出血で死んだ。
俺は紅海月。
愛する人を待って漂う、不老不死の海月──。
カフェで、コーヒーをたしなむ。
また、一緒に、飲みたいなぁ。
「大丈夫、ですか」
「?」
「だって、涙を流しているから…」
「それは………あなたのせいですよ」
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