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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第五十話 空白の一日
「忘れても、見つけて」
写真の裏に残っていた言葉が、頭から離れなかった。
彼はその写真を机の上に置いたまま、
しばらく動かなかった。
もし、この写真に写っている二人が
本当に自分たちなら。
なぜ自分は、その記憶を失っているのか。
そして、彼女もなぜ覚えていないのか。
考えているうちに、一つの疑問が浮かんだ。
事故の日。
その前日の写真。
翌日の病院。
だったら――
事故が起きた日の記録だけを探せばいい。
彼は昔のデータを開いた。
写真。
メモ。
保存されていたファイル。
一つずつ日付を確認していく。
ところが、事故の日だけが不自然だった。
写真が一枚もない。
メッセージの記録も途中で途切れている。
まるで、その日だけ切り取られたようだった。
『事故の日のデータ、調べてる』
彼女に送る。
『何かあった?』
『その日だけ、何も残ってない』
『私も見てみる』
少しして、彼女から返事が届く。
『こっちも』
『本当に?』
『うん。その日の写真が一枚もない』
二人は同時に気づいた。
事故の日。
二人の記録が、どちらからも消えている。
『でも、完全に何もないわけじゃなかった』
彼女から続けて届いた。
『何か見つけた?』
『カレンダーの予定』
彼女が写真を送る。
そこには、その日の予定が一つだけ残っていた。
時間と場所。
そして、その横に小さく書かれた言葉。
「渡す」
彼は画面を見つめた。
『何を?』
『分からない』
『誰に?』
『それも分からない』
また同じだった。
答えにつながりそうなのに、
肝心なところだけが抜けている。
彼は自分のカレンダーも確認した。
すると――
同じ日の同じ時間に、予定が一つ入っていた。
場所も一致している。
彼は息を止めた。
『俺の方にもあった』
『同じ?』
『うん』
彼女から、しばらく返信がなかった。
やがて、
『じゃあ、その日に会う予定だったんだ』
と届く。
彼はその言葉を見つめた。
「会う」。
その可能性が、初めて記録として残った。
ただの写真ではない。
ただの記憶でもない。
二人の予定に、同じ場所と時間が残っている。
それでも、まだ一つだけ分からない。
何を渡す予定だったのか。
彼は机の上に置かれたキーホルダーを見る。
「返すまで、預かってて」
そして、
「忘れても、見つけて」
二つの言葉が頭の中で重なった。
もしかしたら。
あの日、二人は何かを渡すために会おうとしていた。
そして、その日に事故が起きた。
彼はキーホルダーを握った。
その瞬間、ほんの一瞬だけ景色が浮かんだ。
雨。
道路。
誰かが自分の名前を呼んでいる。
そして――
「それ、返さなくていいよ」
声だけが残った。
彼は目を開いた。
誰の声だったのかは、まだ分からない。
でも、その声を聞いた瞬間。
なぜか胸が苦しくなった。
彼はスマートフォンを手に取った。
『少し思い出した』
『何を?』
彼は迷った。
そして、短く送った。
『事故の日、誰かと一緒にいたかもしれない』
画面の向こうで、
彼女もまた、自分の記憶の中にある
同じ日の空白を見つめていた。
コメント
1件
ああもう… これ、めっちゃ気になるんだけど! 「事故の日」だけ何も残ってないって、しかも二人とも同じ時間に「会う」予定があって、『渡す』って言葉だけが残ってる… その“何か”って鍵になってるキーホルダーなのかな。雨の道路で「返さなくていいよ」って声がフラッシュバックするところ、胸がギュッてなった。 “忘れても、見つけて”って言葉が、ただの綺麗なフレーズじゃなくて、ちゃんと伏線になってる感じがたまらん。このもどかしさ、クラリスさんうますぎるわ🔥