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雨に打たれて、びしょ濡れになった僕。
たまたま近くにeliotの家があったから、お願いして雨宿りさせてもらった。
「シャワー浴びる?タオル持ってくるよ」
そう言って、いつもと変わらない優しい声で笑ってくれるeliot。
その間、僕はベッドの端に腰を下ろして…気づけば、ごろんと横になってしまった。
柔らかい布団。まだ温かくて、微かに残るeliotのにおいが心地よくて…。
気を抜いたら、そのまま目を閉じて眠ってしまっていた。
──どれくらい経っただろう。
ふと、頬にかかる気配で目を覚ます。
ぼんやりと視界に入ったのは、すぐ近くにあるeliotの顔。
「……あ」
お互い声を出す暇もなく、ほんのわずかな距離が縮まった。
温かい唇が、かすかに重なる。
一瞬の静寂。
偶然のはずなのに、やけに長く感じるほど時間が止まった。
「……ごめん、起こしちゃったね」
顔を少し赤くしながらも、あくまで軽く笑うeliot。
「僕こそ……」
言葉が詰まる僕の胸の奥は、妙に落ち着かなくて。
恋じゃない。ただの偶然。そう言い聞かせながら、妙に温かい唇の感触だけ、まだ残っている。
キスのことをお互い触れないまま、少しぎこちない空気が流れる。
外はまだ強い雨音が響いていて、窓ガラスを叩く水の音が絶えない。
僕はふと時計に目をやった。
「……もう夜遅いな」
濡れた服もまだ乾いていないし、このまま帰るのは無理がある。
そんな僕を見て、eliotが柔らかく言った。
「ねえ、今日はここに泊まっていきなよ。無理に帰ったら風邪ひいちゃう」
当たり前みたいに差し出されるその優しさに、胸の奥が少しざわつく。
「……いいの?迷惑じゃない?」
「全然。むしろ放って帰すほうが心配だよ」
それ以上反論できず、僕は小さくうなずいた。
その瞬間、ふと頭をよぎる。
――さっきの偶然のキス。
思い出したくなくても、まだ唇の温かさが残っている気がして。
「……じゃあ、遠慮なく」
「うん。タオルと着替え貸すから、シャワー浴びておいで」
まるで何事もなかったように、eliotは優しく振る舞ってくれる。
けれどその気遣いが、かえって意識させてしまって。
心では「ただ泊まるだけ」とわかっているのに。ほんの少しだけ、胸の奥が落ち着かないのは何故なのか…
とりあえずシャワーを借りて、乾いた服に着替える。
居心地はいいけれど、どこか落ち着かない。
部屋に戻った。
「noob、どこで寝る?」
「あ、僕は床でも…」
そう言ったけど、eliotは首を横に振る。
「ダメだよ。風邪ひいたら困る。……一緒に寝ればいいでしょ」
さらっと言うものだから、思わず僕は目を瞬かせた。
「い、一緒にって……」
「だって布団ひとつしかないし。気にしなくていいよ、僕ら友達だし」
――そう、友達。
それなのに、頭の隅でさっきのキスがよみがえる。
結局、同じ布団に並んで横になることになった。
背中合わせの体勢で、互いに気を遣いながらも眠ろうとする。
けれど、距離が近い。
肩越しに聞こえる呼吸音がやけに大きく感じる。
布団の中の温度が上がって、心臓まで熱くなってくる。
「……寝られそう?」
背中越しにeliotの声が届いた。
「……うん、まあ」
声が少し震えてしまったのは、きっと気のせいじゃない。
ほんの偶然のキス。
そして「ただの友達」としての泊まり。
なのに、どうしてこんなに気まずいんだろうか。
暗い部屋の中。
外から、窓ガラスを揺らすように大きな雷鳴が轟いた。
「――っ!」
思わず体を強張らせる。背中合わせで横になっていたはずなのに、僕の反応に気づいたのか、eliotが小さく呼びかけた。
「noob……? 大丈夫?」
「だ、だいじょ……」と言いかけたその瞬間、さらに大きな雷鳴。
身体がびくんと跳ねてしまい、声が喉に引っかかる。
すると、布団越しに背後から腕が回され、強く抱き寄せられた。
温かくて、優しい。
「……怖いんだろ。大丈夫、僕がいるから」
耳元で落ち着いた声が響く。
胸に押し付けられるように抱き込まれて、鼓動の音がやけに近く聞こえた。
雷の音は怖いのに、不思議と安心感が胸に広がっていく。
「……eliotさん……」
思わず名前を呼ぶ。声が少し震えていた。
「眠れるまでこうしててあげるよ。……友達なんだから、気にしなくていい」
そう言いながら、さらにぎゅっと力を込める。
雷の音はまだ止まないのに、その温もりのせいで、少しずつ怖さが薄れていった。
その後。雷は少しずつ遠のいたものの、まだ時折、空が光って低い音が響いていた。
僕はeliotの胸元で小さく身を丸めながら、目をぎゅっとつむる。
だけど――眠れない。
心臓の音が大きすぎて、布団の中でごそごそと落ち着かない。
どうしても無意識に動いてしまい、胸元の布地をきゅっと掴んでしまった。
「……noob?」
低く、穏やかな声。
「ご、ごめんなさい……眠れなくて……」
顔を上げると、すぐ目の前にeliotの優しい顔。
「……仕方ないな」
そう言って、彼は僕の髪を撫でながら、顎を軽く僕の頭に乗せた。
「……動いてもいいよ。気にしない。僕も、起きてるから」
その声は静かで、落ち着いていて――雷よりもずっと近くて。
胸の奥がじんわり温かくなる。
「……あったかいです……」
思わず口から漏れてしまう。
「ふふ……良かった。じゃあ、そのまま眠くなるまで……ずっとこうしてよう」
彼の腕の中で小さくごそごそ動いて、やっと安心できる。
夜は長いけど、もう怖くない――そう思えた。
「……眠れないです……」
胸に顔を埋めながら、僕はぽつりとつぶやく。
eliotは小さく笑って、髪をなでてくれる。
「じゃあ、眠れるまで話そうか」
その声が優しすぎて――思わず口が勝手に動いてしまった。
「……あの……eliotさんと、こうしてると……安心するんです。ずっと……離れたくないくらいに……」
言った瞬間、はっとして、目をぎゅっと閉じた。
顔が熱い。何を言ってるんだ、僕は。
「……っ、ちが……」
言い直そうとしたけど、eliotは何も言わず、ただ少しだけ腕に力を込めて抱き寄せた。
「……ありがとう、noob。そう言ってくれるだけで……僕も安心できる」
「……っ」
言葉を塞がれて、僕はもう声が出せなかった。
僕は布団の中で、心臓の音がやたらとうるさく感じて仕方がなかった。
(なんであんなこと言っちゃったんだろう……!)
離れたくないとか、安心するとか……友達相手に言う言葉じゃないのに。
ちらりと横目でeliotを見る。
彼はもう寝てしまったのか、静かな寝息を立てている。
(……もしかして、気にしてない?僕の言葉なんて……)
そう思ったら、余計に胸がちくりと痛んだ。
小さなため息をこぼして、枕に顔を埋める。
「……バカみたい……」
でも、その時。
「……noob……」
寝ているはずのeliotが、僕の名前をかすかに呼んだ。
思わず息をのむ。
それは夢の中の独り言みたいに、穏やかで優しい声だった。
僕は顔を真っ赤にしたまま、何も返せず――ただその言葉を胸の奥で繰り返しながら、ようやく少しずつまぶたが重くなっていった。