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「火龍使い・咲莉那。今度こそ逃がさぬぞ」
「冥央…」
冥央の後ろには白華楼の隊員たちが控えていた。
「仙霧様を殺害しただけはなく、今度は大事な後輩までもそそのかすとは…許さぬ…許さぬぞ、咲莉那…」
「許さないだと?俺だってお前を許さないぞ冥央…」
火楽は前に出ると冥央を睨み付けながら言った。
「お前のせいで…お前のせいで、主様がどれだけ辛い思いをしていると思っているんだ…」
「お前のせいで…主様は…主様は!」
「火楽!い─」
言うなと、言い終わる前に咲莉那は激しく咳き込み出した。
「咲莉那さん…!」
瑛斗は慌てて咲莉那に駆け寄った。余程辛いのか、右手で口を覆い、片手をついていた。
少しすると収まってきた。そこで瑛斗は「大丈夫ですか?」と声をかけようとしてやめた。なぜなら口を覆っていた手が赤く染まっていたからだった。そう─吐血だ。
「咲、莉那、さん…?」
咲莉那の顔色はけっしていいとは言えない顔色だった。
「あはは…バ…レちゃっ…た…」
そう言い残すと咲莉那はその場に倒れてしまった。
「咲莉那!」
他のみんなも気付いたようで咲莉那に駆け寄っていく。
「主様…!」
火楽もみんなの声で気付き咲莉那に駆け寄った。
火楽は空華と嶺岳に目線を送ると二人は目線の意味をくみ取り、白華楼の視界を空華の風に嶺岳の草花を乗せ、遮った。
その隙に火楽は本尊の龍の姿へ戻ると、瑛斗に咲莉那を抱えさせ、背中に乗せた。嶺岳たちも本尊へ戻り、それぞれの主を乗せ、飛び立ったのだった。
空の上、四体の龍が優雅に飛んでいる。
おもむろに瑛斗が口を開いた。
「火楽様。咲莉那のこのこと、知っていたんですか?」
「ああ、知っていた」
「なら、どうして教えてくれなかったんですか!」
「口止めされてたんだ。言うなと」
「…火楽、教えて、どうして咲莉那がこうなっているのか」
日麻は真剣な表情で火楽に言った。
「言えない。」
火楽から返ってきた言葉はそれだけだった。
「火楽、お願い。空華たちに教えて」
空華も頼むが火楽は頑なだった。
「お願いだ」とみんなで頼み込むと、ようやく折れてくれた。
火楽は一つため息をつき、話し始めた。
「あれは、白華楼に入って、三年ぐらいたったときのことだ。主様の体調不良があまり良くない日が出てきたんだ。はじめは、少しふらついたりするだけだった。原因もわからず過ぎていったある日、吐血するようになった。その時俺はあることに気付いた。主様の霊力が少ないことに。それも微量だった。お前らも知っての通り、龍使いの力は膨大ゆえにそれを受け止められる器、すなわち霊力が強い者じゃないと身体に影響を及ぼす。それが、主様には起きていたんだ。」
火楽はさらに続けた。
「きっと、ずいぶん前から少しずつ、少しずつ、霊力が少なくなっていたんだと思う。」
「そんな…何か、霊力を戻す方法はないの?」
空華が聞くと火楽は答えた。
「冥央の隠し部屋。そこには、封印の玉があった。主様がそれに触れとき、気付いたらしいんだ。その中に自分の霊力が入ってることに」
「じゃあ、封印の玉を壊せば咲莉那の霊力は体に戻るね!」
空華は嬉しそうに言った。
「そうね、でも…」
日麻が呟くとその先を葵が紡いだ。
「問題はどうやって封印の玉を壊すか…」
火楽は頷いた。
「そうなんだ。早く壊さないと、主様は…このままじゃ…」
「近いうちに死んでしまう」
「それに、真犯人がアイツじゃあね…」
雫が呟いた。
「諦めちゃダメ!」
声を上げたのは、空華だった。
「一人じゃ無理でも、みんなでなら…そのための空華たちでしょ!」
「弱気になっちゃダメ!絶対に…絶対に、咲莉那を助けるの!」
「そうだ、火楽。空華の言う通りだ」
嶺岳も空華に続いた。
「俺たちは仲間だ。それに、まだ時間はある」
「アイツを倒して、それで、咲莉那も助けよう」
瑛斗も呟いた。
「絶対に助けますからね、咲莉那さん」
─嗚呼、主様。あなたはこんなにも愛されている─
─俺はそれがたまらなく嬉しいのです─
あの出来事から数日後、冥央は再び襲撃の準備を進めていた。
あとは出発するのみ─
「皆の者!」
冥央は全隊員へ告げた。
「今日こそ、咲莉那に前最高司令官、仙霧様を殺した罪を命をもって償わせるのだ!咲莉那を殺せ!」
冥央に続き隊員たちが叫ぶ。
─咲莉那を殺せ!─だが、それは一瞬で静まり返ったのだった。
「まだ私を殺すと言っているのですか?」
咲莉那だった。後ろには、日麻や葵、翔真に空華、嶺岳、雫、火楽、そして、瑛斗─
「殺されるのは私じゃない。貴方だ、冥央。いや─」
「血染めノ葬紅(そうこう)」
「私が葬紅?何を言っているのだ!」
冥央は怒鳴るが、咲莉那は怯まない。
「そうだ。お前の名は冥央ではない。『葬紅』それがお前の本当の名だ!」
「認めないというのなら…いいだろう。」
そう言うと咲莉那は何かを取り出した。
「これは、お前の隠し部屋にあった手記だ。お前はずいぶんと丁寧なんだな。おかげで、お前の企みがすべて分かったがな」
咲莉那はさらに続けた。
「お前の計画とやらは、『世界を掌握する』というものだったとはな。その為だけに白華楼に入り、その為だけに仙霧様を殺し、私に濡れ衣を着せるとはな…」
「それにこれには、『ちょうど咲莉那が邪魔だったから始末できて良かった』とも書いてあった。その後私が生きていることを知ったお前は刺客を使って殺害しようし、今度は試練まで利用するとは…本当に救いようのないクズだな」
冥央─いや葬紅は拍手をしながらこういった。
「ここまで調べ上げるとは、あっぱれだ。咲莉那。そうだ、我は葬紅」
葬紅は続ける。
「初代龍使いたちに封印されたが、長い年月をかけ、こうして力を蓄えていたのだよ、すべては我が夢のために…!」
「だからこそ、初代たちは貴様を封じた。貴様の夢を実現させないために…だが貴様は夢を実現させようとしている。それを私たちは止めに来たんだよ!初代たちが出来なかったことを、五代目の私たちが!」
咲莉那は葬紅に刃先を向け言い放った。
「葬紅…貴様にはここで死んでもらう!」
葬紅は少し後ずさりすると走り出した。それを咲莉那たちも追っていく。
「この方向…隠し部屋か!」
葬紅は自室へ入るとためらうことなく鏡へ飛び込んだ。鏡を通り隠し部屋へ入った葬紅は、封印の玉が置いてある台の前へ行くと、唱え始めた。
「封印されし力よ、今こそ解き放て、我に力を与えよ!」
すると封印の玉が強い光を放った。
咲莉那たちも隠し部屋へたどり着いたがもう遅かった。
あまりの明るさに咲莉那たちは目を開けてられなくなった。
しばらくすると光が消え咲莉那たちは目を開けた。
そこには姿を変えた葬紅がいたのだった。
「封印の玉に入っている咲莉那の霊力を使って、強化したんだわ」
葵が呟いた。
「私の霊力を使って強化したのなら、封印の玉を壊せばいいだけ!」
咲莉那は叫んだ。
「みんな、全力で行くよ!」
「嗚呼、懐かしい。あの日の記憶が蘇るなぁ」
葬紅は笑みを浮かべ言った。
「その顔歪ませてやる!」
咲莉那は刀を持ち斬りかかる。
火楽は炎を、雫は水を、空華は風を、嶺岳は、草花を操り、それぞれの主の援護をする。
「封印の玉はどこ…?」
葵は矢を放ちながら呟いた。
「必ずどこかに封印の玉があるはずよ!」
日麻も鞭を振るい、葵に呼び掛ける。
「あ、あそこだ!あそこに封印の玉がある!」
翔真が扇子を扇ぎながら叫んだ。
確かに封印の玉はあった。だが葬紅の攻撃で近付けそうにない。
「このままじゃ、壊せない…どうしたら」
雫が呟いた瞬間、咲莉那が突然咳き込み出してしまった。
「こんな…ときに…!」
咲莉那は血で真っ赤に染まった手を見ながら呟いた。
「咲莉那さん!」
そう叫んだのは瑛斗だった。
「遅れてすみません、俺も加勢します!」
「瑛斗!葬紅の隙を作ってくれ!頼む!」
嶺岳が瑛斗に向かって叫ぶ。
「分かりました!」
瑛斗も刀を持ち葬紅に斬りかかる。
「瑛斗、お前に我は斬りつけられんぞ!」
葬紅が叫ぶと瑛斗はすぐさま言った。
「そんなものやってみないとわからない!」
だが斬りつけれはするがなかなか隙が作れない。
─どうすれば─
瑛斗がそう思った、瞬間だった。
木の上に秋穂が弓を構えているのが見えた。
─秋穂さん!?どうして秋穂さんがここに─
そう思ったとき、あることを思い出した。
昔、秋穂は弓が得意だと言っていた。椿さんから話を聞いて、来てくれたのかもしれない。そう思った。
「咲莉那…今度は私が咲莉那を守る!」
秋穂は呟くと、瑛斗が隙を作ってくれるのを待った。
数分の格闘の末にようやく瑛斗が葬紅の気をそらすことに成功した。
─いまだよ、秋穂─
その声が聞こえた瞬間、秋穂から矢が放たれた。
秋穂が放ったその矢は、確かに封印の玉を貫いた。その瞬間玉は粉々に砕け散ったのだった。
咲莉那は体が軽くなったのを感じた。霊力が戻ったのだ。
「おのれぇえええ!」
─避けられない─
瑛斗がそう思った、次の瞬間だった。
咲莉那の刀が葬紅を弾いた。
「クソッ、力が…!」
そう言いながら葬紅は後ずさりする。
「さて、本調子に戻ったことだし…私もようやく本気が出せる」
咲莉那は再び葬紅に斬りかかった。さっきとは比にならない速さで斬りかかる。
「咲莉那様!先ほどは申し訳ありません!我々も加勢いたします!」
白華楼の隊員たちも刀や弓を持ち咲莉那たちの援護にまわった。
「ふん、虫ケラどもめ、雑魚が増えたところで何の戦力にはならんわ!」
葬紅は唸るが咲莉那がすぐに否定した。
「いいや、戦力になる!お前は白華楼を舐めすぎだ!」
「『正義』『気品』『調和』を掲げ、民を守るのが白華楼という組織だ、とくに…お前のようなヤツからな!」
「そうか、なら、その誇りごと消し飛ぶがいい!」
葬紅に次々と攻撃を浴びせる咲莉那たち、葬紅も負けじと反撃するが数が多く、手こずってしまう。
「皆さん!今です!」
瑛斗がそう叫ぶと龍使いたちと四大龍が総攻撃を浴びせた。
咲莉那たちが一斉に跳び上がり、今にも止めを刺そうとしている。
その瞬間葬紅の脳裏に浮かんだのは、今の構図と全く同じの初代龍使いたちだった。
「我の…我の夢がぁあああ!」
葬紅はそう叫びながら、塵となって消えたのだった。
塵となった葬紅の残骸が風に舞うのを眺めながら、咲莉那は安堵の表情を浮かべた。
「…終わった」
その直後、咲莉那の体がぐらりと傾き、倒れそうになった。それをとっさに火楽が受け止め、仰向けに寝かせた。
「…もう、遅かったのか…!」
「咲莉那!」
駆け寄ってきてのは秋穂だった。
「秋、穂…」
咲莉那は弱々しい声だったがその声はきちんと秋穂に届いた。
「なに?」
「玉を割った矢、あれ、秋穂だよね…ありがとう…」
「咲莉那、やだ…やだよぉ…死なないで…」
「秋穂、私を信じてくれて…ありがとう…村の、みんなにも、言っておいて…」
咲莉那は瑛斗の名を呼ぶと弱々しい声で言った。
「瑛斗…ありがとうね…」
瑛斗は涙を目にいっぱいためながら頷いた。
「みんな…ありがとう…」
その言葉を最後に咲莉那は事切れた。
「そんな…咲莉那さん…」
─まだ死なないで─
そう強く願った瞬間──
─あの子に生きていてほしいか─
頭の中で誰かの声が響いた。驚いて目を開けると、見知らぬ女性が一人立っており、水仙が辺り一面に咲いている。
「あの子に生きていてほしいか」
さっき頭の中で響いた声だった。どうやら声の主は彼女のようだ。
「あなたは誰ですか?」
瑛斗が問うと彼女は笑って答えた。
「海秀(みほ)。四大龍が一体、火龍・火楽の初代主」
「あなたが…」
瑛斗が独り言のように呟いたが聞こえたらしく、海秀はくすくすと笑った。
「ふふっ見えないでしょ?」
「え、あ、そっそうじゃなくて…」
海秀はおおらかな表情から真剣な表情へと変えた。
「火龍使い・初代主として、もう一度聞こうか、瑛斗くん。君はあの子に…咲莉那に、生きていてほしいか?」
「はい、生きてほしいです。」
「そう…」
「はい」
「ま、そもそも咲莉那が死ぬのはここじゃないんだけどね」
さらっと海秀が言うので瑛斗は思わず聞き返した。
「え?それってどういう…」
「咲莉那には、まだ火龍使いとして、使命を全うもらわなきゃ。それに咲莉那にはもっとふさわしい死に場所がある。それはここじゃない。」
「だから、咲莉那にはもっと生きてもらう。」
「え、でも咲莉那さん死んだんじゃ…」
「まあ、確かに死んだけど、魂はここに留まってる。それを呼び戻せばいいだけ」
「なるほど…」
「さて、おしゃべりはこのくらいにして、君はお戻り」
「海秀様、ありがとうございます」
瑛斗が言うと海秀は優しく微笑んだのだった。
─咲莉那…咲莉那…起きて─
─秋穂が─
─みんなが─
─あなたを待ってる─
咲莉那の手がピクリと動き、閉じられていた瞼がゆっくりと開かれた。
「咲莉那…!」
「秋…穂…」
「咲莉那っ!」
秋穂は咲莉那に抱きつくと嬉しさのあまり泣き出した。
「よかった…よかったよぉ…!」
それにつられその場にいた咲莉那以外全員が泣き出した。
その場を祝福するかのように一輪の鈴蘭が風に吹かれていた。
─完─