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練習試合 大谷高校戦 開始直前アキは真琴の肩を抱き、ゆっくりとベンチへと連れて戻った。
真琴はまだ足元がおぼつかない様子で、アキの大きな体に寄りかかるように歩いていた。
ベンチに着くなり、アキは真琴を座らせてから、まっすぐタクのところへ歩み寄った。
「タク」
タクが振り返る。
アキは迷わず、はっきりと言った。
「タク、ピッチャーやってくれ」
「……はあ?!」
タクの目が大きく見開かれた。
アキはすでに自分のピッチャーグローブを外し、タクの胸に強引に押しつけていた。
「真琴は今日はもう投げられない。
お前がやってくれ」
タクはグローブを受け取りながら、頭の中で盛大に叫んでいた。
(ええええ〜〜〜!!
まあ……やったことはあるけどよおおお〜〜〜!!
センターからピッチャーって急に言われてもなあ〜〜〜!!)
タクが渋々グローブをはめようとしたその時——
真琴が、静かに立ち上がった。
何も言わず、誰の制止も聞かず、
ふらつきながらも、ゆっくりとマウンドに向かって歩き始めた。
その姿を、チーム全員が息を飲んで見つめた。
タクの手が止まる。
翼はメガホンを握ったまま固まる。
みとら、井上、モブの新入生たちも、目を見開いてマウンドを見つめていた。
真琴の無言の意思表示だった。
アキは一瞬、大きく身震いした。
目頭が熱くなり、泣きたくなるのを必死に堪えた。
喉が詰まって、声が出そうになる。
それでも、アキは大きく息を吸い、
拳を握りしめて、グラウンド全体に響く声で叫んだ。
「勝つぞお前ら!!!」
その瞬間——
ようやく、このチームの心臓が、
本当の意味で動き始めた。
マウンドに立つ真琴の小さな背中が、
朝陽に照らされて、静かに、けれど確かに、
力強く見えた。