テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
156
#ワンナイトラブ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カチャ……カチャ……
「……」
いつ以来だろうか
夫と囲む食卓
一緒に食べる
作りたての食事
慣れない場の空気に
居心地の悪さを覚えつつ
互いに無言で
目も合わさずに摂る朝食
食器の当たる音だけが聞こえ
無音の室内に響き渡る
とうに冷めた夫婦の関係
とうに冷めた夫への愛情
それでも私は
少しだけ嬉しかった
「昨日遅かったの?」
「……」
会話を切り出した私に戸惑いながらも
夫は表情を変えず
気だるそうに返答した
「ああ……ちょっと付き合いでね」
何の中身も無い
無難な返答
でも
私はそれ以上突っ込まなかった
真実を口にするとも思えないし
真実を知ったところで
何も良い事はないし
何も変わらないから
それよりも
この軽い会話を皮切りに
昨晩の続き
お金の話に繋げたかった
「最近どう?仕事は問題ない?」
「まあね、普通かな」
「……あのね、、言い難い話なんだけどね」
話の流れとしては
強引だったが
強引でないと
話は切り出せなかった
「家のお金、今私が全部払ってるでしょ。ちょっと厳しくてさ、少し入れて貰えないかな?」
やっと言えた
言いたかった事
夫は表情を変えぬまま
目を合わせず
食事を見つめ
口を動かしたまま
無言で聞いていた
口の中の食べ物を飲み込むと
少し間を置き
口を開いた
「今までそれで平気だったのに何で急に?何に使うの?」
思っていたのとは違う
斜め上の返答に
私は面食らった
夫の目線からはそう思ったのだろう
家のお金は私が払って当たり前
それが前提の
私の目線を全く顧みない返答だった
「ここの所母親の病院代がかさんじゃて……ちょっと追い付かないんだよね」
「は?何でお前の親の為に俺が金ださなきゃいけないんだよ」
「いや、母親の病院代じゃなくて半分でも家にお金入れて欲しくて」
「……え、何?金の無心の為にわざわざ朝食で釣ったのかよ」
唖然としてしまった
悲しみを通り越して
無理だと実感した
そもそもの前提が
根本的に違った
この人にとっては
家のお金は私が払って当たり前
それが前提の
その先の話としてしか
夫は受け取らなかった
私がおかしいのかな?
私が悪いのかな?
その後もブツブツと続く
夫の嫌味の連続に
自己嫌悪に陥り
自問自答をしてしまう
「っつーかさ、昇級したんだろ?給料上がったんじゃないのかよ。マジ何に使ってんの?本当に母親の病院代か?」
言い返せない私が逆に疑われる
最悪の顛末
そんな
最悪の気分の中で
ふと思った
(何で夫が私の昇級を知ってるんだ?)
私は夫に言っていない
そもそも
言う機会すらほぼなかった
疑問が拭えず
文句を垂れ続ける夫を遮り尋ねた
「何で私の昇級の事知ってるの?」
夫は
一瞬止まり
一瞬固まる
私はその時
夫の頭の中
夫の脳の中がよく見えた
「ヤベッ」の後
繕う言葉を探している
夫は
その場しのぎの安い言葉を
2秒で創造し
それを躊躇なく出力した
「そうなんだ?本当って事?じゃあ何で今まで隠してたんだ?」
隠すもなにも
まともに話す機会すらなかった
しかも
昇級なんてつい先日の話だ
「……?」
(何で夫はつい先日の話を知ってるんだ?)
(知るにしても、あまりにタイムリー過ぎる)
それは
疑問というよりも
確信だった
以前からの疑心
直感から来る仮説
それを裏付ける
それを導く
確信でしかなかった
夫の説得が無理なのはよく分かった
薄々感付いてはいたが
夫が私の為に自分の身を削る事はない
そして返す刀で私は
夫の浮気相手が俄然気になった
以前から気になってはいたが
色々な変化が一気に押し寄せ
最近では
興味が薄れかかっていた
優先度が低くなっていた
——夫は私の同僚と浮気をしている
私の中では
確定的となった
思えば私と夫は大学で出会った
勿論、最初からこんな関係性ではなかった
私にもときめいた時期があったし
その末に結婚に至った
でも
今になって思えば
こうなる予兆は
当時から散見された気がする
そう
あれは大学3年の時だった——