テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私と夫との出会いはお互い大学生の時
私達は同じ大学の同学年だった
私は今も昔も変わらず
当時から影の薄い存在
部活やサークルには参加せず
奨学金返済の為にバイトに明け暮れていた
それでも
授業には休まず真面目に出席した
やっとの思いで入学できた大学
貧しい家庭で育った私には
大学は希望でしかなく
どんなに大変でも
苦にはならなかった
目立たず
目立とうとせず
黙々と学生の性分をこなす
ただの学生の一人
学生カーストでいえば最下層のモブだった
一方
夫は真逆だった
活発で
サークル活動にも積極的に取り組み
場末の私でも認知する程度には
そこそこ目立った存在
いつも友人に囲まれ
楽しそうにはしゃぐ
絵に描いたように
キャンパスライフを謳歌していた
つまり
私達には接点もなく
私達は交わる事のない二人だった
そんな私達の距離に変化が訪れたのは
就職活動の足音が聞こえ始めた
大学3年の時分
それは偶然の交差だった
聴覚障害と色覚異常を抱える私は
授業はいつも最前列
周りに人はまばら
その日はグループでの研究課題を出された
好きな人と組んで良いと言われても
周りに人はおらず
仲の良い友人もいない
自発的に声を掛ける勇気もない私は
一人狼狽えていた
そこに
たまたま授業に遅れて入ってきたのが夫
純也だった
純也は
課題の書かれたボードを眺め
状況を理解すると
躊躇する事なく
余っていた私に声を掛けてくれた
「一緒にやらない?」
認知してるけど知らない人
話した事もない知らない人
人見知りの私は緊張した
でも
それ以上に
嬉しかった
何の気兼ねもなく
普通に誘ってくれた事が
かくして私達はグループを組み
課題に取り組む事になる
自分一人の作業じゃない
迷惑は掛けられない
私は一人での課題の時以上に頑張った
それを
純也は褒めてくれた
二人で取り組み
二人で成し遂げた
二人の成果物
それは
結果として形作られた
「水川さんで良かった——」
純也がかけてくれたその言葉に
——私は恋をした
「お疲れ様会しようか?」
課題の完結と共に掛けてくれた言葉
学生然とした軽い誘い
学生の私が
未だ経験のした事のない
友人との打ち上げ
誘ってくれたのは
気になる異性
私は内心
はち切れんばかりの喜びに包まれ
二つ返事で了承する
二人で摂る初めての外食
異性と二人での初めての外出
その日
私は純也に誘われるままに
私達は結ばれた
初めての経験に怯える私を
純也は優しく抱いてくれた
友人も多く活発な純也
真逆な二人
釣り合わない二人
私にとって純也は
雲の上の有名人に思えた
それに引き換え私は地味
自分を卑下し
自信も持てない
こんな私を
こんなにも釣り合わない私を
純也が求めてくれた
その
天にも昇る幸福と
表裏一体の
それ以上の不安
一時の気の迷いなのかな?
遊びなのかな?
もしかしてそういう罰ゲーム?
とめどなく溢れるネガティブな思考
事後
不安に押し潰され
涙してしまった私を
純也は優しく抱きしめ
くれた言葉
「俺は瑠奈の事好きだよ」
「恋人として付き合ってくれる?」
その言葉で
私は報われ
私達は付き合う事になった——
少なくとも私目線では
今思えば
あの時が絶頂だった
形式上晴れて付き合うも
生活習慣が真逆な二人
私は
これまで通りバイトに明け暮れ
真面目に授業に勤しむ
純也は
これまで通りキャンパスライフを謳歌し
友人たちと学生生活を満喫する
純也に暇が出来た時
私に連絡をくれる
私は何よりも純也を優先し
会うたびに唇を重ね
会った数だけ
情事を重ねた
しょうがないよね
純也は人気者
私如きが独占できるわけない
たまに会ってくれるだけでも
私は幸せ者
そう思っていたのか
それとも
そう思わねばメンタルを保てず
自分自身を
そう思い込ませていたのか
未来の私である
今の私から見れば
おそらく後者だったと思う
だが
過去の私は前者だと信じ
男を知らない私は
純也に没頭した
文句も言わず
全て受け入れ
純也の後ろを付いて歩く
彼からすれば
都合の良い女だったのだろう
遊び癖も
女癖も
当時から変わっていない
それを
問い詰める事をしなかった
そこそこイケメンで
そこそこモテて
人気のあった純也に
舞い上がってしまった私
私にも落ち度がある
彼からすれば
都合の良い
何をしても
遊び歩いても
文句も言わず
問いただす事もなく
必ず待っている
いつでも帰ってこれる安息の場所
——保険
それが私
今も昔も
彼にとっての私は同じ
たぶん初めから
そしてこれからも
一生
彼にとっての私は
都合の良い保険
きっとそれが
結婚までした理由なんだろう
#溺愛