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8月の夏真っ盛りになりお盆が訪れる頃、彼とお墓参りに行くことになった──。
お父様の墓標に白いカーネーションの花束を手向けて、静かに頭を垂れる彼を傍らで見つめていると、
「智香、こちらへ」と、手が引かれて、「父に、結婚の報告をさせてください」そっと肩が抱き寄せられた。
「お父さん、私は彼女と結婚することになりました。あなたに面と向かって伝えることができないのが残念でなりませんが、私が心から愛せる人と出会えたのも、あなたが長く支えてきてくれたからだと感じています。
喪った哀しみは尽きませんが、あなたが私に注いでくれた愛情を、これからはかけがえのない愛する人へ惜しみなく伝えていければと思っています。
私は、彼女と共に生きていきます。どうか、ずっと私たちのことを見守っていてください……お父さん」
彼が語り終えると、いつか見せてもらった写真の中のお父様の笑顔が、まるでそこにあるようにも思われた……。
「しばらくこうしていてください……」
腕の中に身体が抱き寄せられると、彼の胸から早まる鼓動が聴こえた。
顔を仰いで見上げると、瞼を伏せてじっと身じろぎもせずに佇んでいる姿が映った。
きっとお父様のことを思い出しているんだろうと感じて、自分もその背中にそっと腕を回して同じように目を閉じた。
私は、彼のお父様と実際にお会いすることはできなかったけれど、こうしていると彼とお父様との大切な思い出を共有しているようにも感じられた……。
「……ありがとう、もう大丈夫です」身体がスッと離されると、「父の言葉を聞いたような気がしました……」と、彼が呟いた。
「……お父様は、なんて?」
「……幸せになりなさいと」
彼の言葉が耳に届いて涙が頬をつたい落ちると、「なぜ、あなたが泣くのです……」彼が優しげな笑みを称えて、私の涙を指先でそっと横に拭った……。