テラーノベル
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墓前からの去り際に、
「私にも、お父様のことが見えていた気がします……」
そう伝えると、
「では、きっと父はそこにいてくれたんですね…」
私に顔を向けて、彼が穏やかに微笑った……。
──お墓参りを済ませた帰りの車内で、
「そういえば君の家には、いつ挨拶に伺えばいいですか?」
ふいにそんなことを訊かれて、
「挨拶だなんて……!」
と、驚きのあまり、つい声が大きくなった。
「あの、政宗先生みたいな方が挨拶に来られたら、うちの両親がきっと恐縮してしまうと思うので。だから、どうかお気遣いなく……結婚の報告は、私の方からしておきますので」
先生が私の実家を訪れることを想像すると、両親の慌てぶりに加え自分までもが一緒になって狼狽えている様が目に浮かぶようで、
「挨拶なんて、本当に大丈夫ですから」と、手を振って断った。
「そういうわけにもいかないでしょう? 挨拶ぐらいはきちんとさせてください」
「……でも、」考えただけでも緊張に汗ばんでくる手を、思わずぎゅっと拳に握ると、
「緊張をするのは、私も同じですから」
察した彼が運転席から片手を伸ばして、握り締めた私の手をそっと包み込んだ。
「まさか、先生が緊張だなんて……」
いつも冷静に見える彼が緊張することなんて、あるんだろうかと感じる。
「私も緊張ぐらいはします。結婚の挨拶などは初めての経験ですから」
彼がクスリと笑って言うのに、
「初めての経験…そうですよね」
自分も釣られるように笑うと、不思議と緊張がほぐれていくようにも感じられた……。
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