暑い、季節はまだ春だというのにどうしてこんなに暑いの?
眠る前までは暑いどころか、少し肌寒いと感じるほどだったのに。
あまりの暑さで目を覚ますとそこには
「…え?」
どうして私の家が燃えているの?
私が眠っている間になにかあったの?
お母様は?お父様は?お姉様は?無事なの?
それに旭陽は?彼は何処へ行ってしまったの?
確か、私がわがままを言って眠くなるまでおしゃべりに付き合ってもらっていたはずなのだけれど…
いいえ、今はそんなことを考えている場合ではないわ
早くここから逃げて自分の身の安全を確保しないと
今は皆が無事であると信じよう
でも、どうしよう
お部屋の出入り口の方は火の海でとてもじゃないけど近づけないし
だからと言ってまだ火の手が回っていない窓から飛び降りるとしてもここは三階、そんなことをしたら良くても骨折、最悪の場合死んでしまう可能性も…
「ケホッケホッ」
こんなことを考えている間にもどんどんと火の手が広がっていってしまっているのに
こんな時に旭陽がいてくれれば…なんてだめね、困ったことがあればすぐ旭陽に頼ってしまう。私の悪い癖ね
「ゲホッゴホッ…煙が、苦しい、わ…」
呼吸がうまくできなくて、苦しい。誰か助けて…だれか
「…あ..さひ…た..すけ..て…」
「お嬢様!!」
その声を最後に私の意識は途切れた
ゆっくりと瞼を開ける
…あれ?ここは?私死んだはずじゃ?
…とても綺麗な星空ね。ここが、死後に行くといわれている天国という所なのかしら?
はっきりとしない頭でそう思った
もし、ここが天国なのであれば、
もう少し休んでいてもいいよね?
そう思い再び星空に目を移し、少しの間眺めていると
「!?お嬢様!お目覚めですか!?」
旭陽の声が聞こえ、現実に戻る
「旭陽!?」
慌てて起き上がると旭陽が抱き着いてくる
「わわ!どうしたの?旭陽?」
「あぁ、目が覚めて良かった…お嬢様!」
「旭陽…良かった!あなたも無事だった!そうだわ、火事は?屋敷にいた皆様はどうなったの!?」
「それが…」
少し言いづらそうに言葉を濁す
「別に怒ったりしないわ。本当のことを話して頂戴?」
そう言うと、一度深呼吸をし、覚悟を決めたように
「今回の火事で生き残ったのは、私たち二人だけ、です」
「…そう」
その言葉がなにを意味するか、分かりたくなかった
けど、どれだけ現実から目を背けようと、現実は変わらない
「助けられず、申し訳ございませんでした」
「良いの、貴方が生きていてくれただけで。それよりもありがとう。命を懸けて私の家族を助けようとしてくれて」
「お嬢様…」
「…出火原因は?」
「…おそらく意図的なものかと」
「…どういうこと?」
「…これはあくまで俺の推測ですが、何者かが王族を根絶やしにするためにおこした火事かと
実際、お母上様とお父上様のご遺体には刃物で切られたような傷がありました」
「そんな…じゃあ、最初から私たちを殺害する為にこんなことを」
一体誰がそんな事を…
「…お嬢様、一つよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
「このまま、亡くなったということにして、俺と一緒に逃げませんか?」
「…え?」
思ってもいなかった言葉に唖然とする
「な、にを言って…あなた自分が何を言っているか分かっているの?」
「もちろん、めちゃくちゃな事を言っているのは分かっています。ですが、もし今回殺害計画を立てた輩にお嬢様が生きていると知られてしまったら、お嬢様もきっと…
そんなことになってしまうくらいならいっそすべてを投げ捨てて、どこか別の国でのどかに暮らした方がよろしいのでは?
昔から言っていたではありませんか、『どこか平和な国でのどかに暮らしたい』と」
「それは…確かに昔そんなことを言ったような気はするけど、それはあくまで夢見る少女の戯言に過ぎないわ
それに、あなたと二人で他国に亡命なんて…あなたには家族がいるじゃない。心配するわよ?」
「お嬢様はお優しいのですね。別に、俺が居なくなった所で変わりませんよ。きっと、心配すらしてくれない…あいつらにとって俺は、居ようが居まいがどっちでもいい存在なんですから」
「…」
「それに俺は、お嬢様と一緒にいたいんです。」
やめて、そんなことを言わないで。王族という責務から逃げたくなってしまうじゃない。
「お嬢様、俺をあの家から解放してはくれませんか?」
「!……そうね、全てを捨てて二人でのんびり暮らすのも悪くはないのかも…
ねぇ旭陽、どこか行きたい国はある?」
「お嬢様が行きたいと思った国に行ってみたいです」
「まったく、貴方って人は。では、海の向こうの大陸にある『エルミエ帝国』という国に行ってみたいのだけどいいかしら?」
「良いですね。では、船の手配をしましょう」
「ええ、お願いね。ふふ」
「なにがおかしいのです?」
まるで子供に戻ったような気分になり笑ってしまうと不思議そうに旭陽が尋ねてくる
「いえ、なんだか昔に戻ったような気がしてつい笑ってしまったわ」
「左様ですか……大きくなられましたね、お嬢様。もう、18歳ですか。時の流れは速いものですね」
「クフッ」
しみじみとしたように言う旭陽がおかしくてつい吹き出してしまう
「あはははは!」
「そ、そんなに笑わなくても…」
「ごめんなさい、だってまだ20歳のあなたがお爺様みたいなことを言うんだもの笑」
「それで、急にどうしたの?」
「いえ、医者から10歳まで生きられるか分からないと言われていた貴方が、18歳まで生きてこれたことに今更ながらじんときまして…」
「本当にお爺様みたいなことを言うのね…でもアルビノである以上、私もきっと長生きはできない」
あと何年生きれるのか、明日、今日と同じように皆におはようと言えるのか、時が経つにつれそういった不安が日々募っていく。死ぬこと自体が怖いわけじゃない。だけど、死んで一人になってしまうのがとてつもなく怖い
「…死ぬことが怖いですか?」
「いいえ、死ぬこと自体はそこまで怖くないわ、もうとっくのとっくに覚悟はできてるんだもの…
それよりも、死んで一人になることの方がずっと怖い」
「でしたら、一緒に死んで差し上げましょうか?」
「え?もうなに?からかっているの?」
「からかってなどいませんよ。俺は本気です」
…これは、本気だわ。本気の目をしてる
「わざわざ私の為に、貴方の人生を無駄にする必要はないのよ?私が死んだら、私のお守りという役目から解放されるんだから、恋人でも作ればいいじゃない。貴方整った顔立ちしてるから、引く手数多だと思うわよ?」
「俺が好きなのはお嬢様ただ一人ですので」
私の顔に熱が集まってくる
「…え?/ちょっと待って//それってどういう…///」
「あっ…///いや!//これは…その…///」
口をパクパクさせた後、覚悟を決めたように、私に向き合ってから
「俺、ずっと前からお嬢様の事が好きでした…///」
「…そう..だったの//…私ってば勝手に片思いだと思って馬鹿みたい///その..私もあなたの事が好きだったのよ?旭陽」
「…過去形ですか?」
「まさか、今も好きよ…ねぇ旭陽、私の恋人になってくれませんこと?」
「!はい、喜んで」
この先どんな困難があっても、きっと大丈夫。だって私には、どんな困難にも一緒に立ち向かってくれる人がいるんだもの
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