コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
不安をくみ取ってくれて、優しい言葉をくれる朝倉先生。
「翔也さん、優し過ぎます」
「じゃあ、次回の表紙の依頼は厳しく行こうかな?」
「えー、そ、それは……」
二人で顔を見合わせて笑うと、美優もつられて笑っていた。
窓から差し込む日差しのように温かな空気に包まれている。
つかまり立ちが出来るようになった美優はいたずらを探しては、ハイハイとつかまり立ちを駆使して移動している。朝倉先生と私の間を行ったり来たり「スゴイ、スゴイ」と声を掛けられ得意げな表情を見せていた。
すると、つかまり立ちをしていた美優が両手を放し、朝倉先生に向かって、一歩二歩と歩みを進めた。
グラッとよろけて朝倉先生が美優を支える。
「すごい! 一人で歩いた!」
美優が初めて一人で歩いた瞬間に思わず声を上げた。
「初めて?」
朝倉先生も目を見開いた。
「はい、初めてです。一人で立ったのは今までありましたけど、足が出たのは初めてです。今、生後10ヶ月だから早い方かもしれません」
「美優ちゃんは、凄いな。優秀だ」
美優は、朝倉先生に高い高いをしてもらって、キャッキャッとはしゃいでいた。
「美優ちゃんには、いつも力をもらうな」
「翔也さんのところに行きたかったんですね」
「嬉しいな。嫁にはやらんって、言う気持ちになるよ」
二人でまたクスクスと笑った。
夕飯は、朝倉先生が手料理を振舞ってくれると言って、キッチンに入っていった。エプロンを付けた朝倉先生もまた魅力的。袖をまくりシャツから出ている腕がセクシーに見えて、ちょっとした事にドキドキしている。
「作っている間にお風呂入ってくれば?」
と言われ、ひゃー。と思ったが、美優が眠くならないうちにお風呂に入った方が良いとの配慮。
考えすぎの自分が恥ずかしい。
自分の家のお風呂よりゆったりとしたバスルームに入ると、男性ならではシャンプーやアメニティーにもドキドキして、これは、これで、もう、落ち着かない。
どうしたって、意識してしまう。
しかし、いざ、美優とお風呂に入っていると危なっかしくて目が離せないし、自宅と違って幼児用のベルトが付いたお風呂椅子もない。
転んで頭でも打ったら大事になってしまうから、手も目も離すことが出来ず、邪な考えも浮かばないほど、洗い場では必死で美優の体を洗い、広いバスタブの中で支えた。
大急ぎで自分の体を洗って、美優がのぼせないうちにお風呂から上がった。ベビー用のお風呂イスがない状態でお風呂に入れるのが、こんなに大変だとは思わなかった。
脱衣場で美優をバスタオルで包み。パジャマを着せる。自分もこの日のために買ったルームウエアを着る。
いつものスエット姿より少しは可愛く見えたらいいな。と思った。
「お先に、お風呂ありがとうございます」
「ちょうど、出来たよ」
朝倉先生の笑顔と食欲をそそる香りに迎えられた。
テーブルの上には、ベーコンとキャベツのクリームパスタ、サラダ、白身魚のカルパッチョが並んでいる。
「美味しそう。お料理まで出来るなんてすごい」
「簡単なものならね」
朝倉先生は謙遜するけど
イケメン・イケボ・才能・そして、料理まで
尊い……。
「美優ちゃんには、ミルクのキャベツとジャガイモのパスタだよ」
なんと、離乳食まで用意してくれるとは
神か?
尊すぎる……。
乳幼児がいると食事もままならない。ベビーチェアがあれば、ソコに子供座らせどうにか食事も出来るが、家庭用のダイニングテーブルとチェアでは抱えて食べさせるしか無い。
美優を抱えテーブルに付くと朝倉先生が手を差し伸べる。
「美優ちゃん預かるから食事どうぞ」
「とんでもない、翔也さんこそ先に召し上がって下さい」
食事まで作ってもらって、先に食べるなんて事出来ない!
「じゃあ、食べたら交代だよ」
朝倉先生は少し困った顔をして、食事を始めてくれた。ホッとして美優に離乳食を食べさせ始める。
野菜もホロリと崩れる柔らかさ、パスタも短く軽く潰されて食べやすくなっていた。
その朝倉先生の手作りのパスタがよほど美味しいのか、美優はペロリと食べて満足したのかウトウトと船を漕ぎ始めた。
「眠ちゃったね」
美優のかわいい寝顔に朝倉先生と顔をほころばせた。
そっと抱き上げてベビーベッドに下ろし暫くスヤスヤと気持ち良さそうに眠る姿をふたりで眺める。
夜泣きの時期も終わり、最近は、夜眠ると朝までグッスリと眠ってくれて、すごく助かっている。
美優の様子に安心して食事に戻る。朝倉先生がキッチンに行き、ふたつのワイングラスとマネキネコのスパークリングワインを持ってきた。
それは、ふたりの約束。
ワインオープナーでコルクが外され、ワイングラスに柔らかい色合いのゴールドの液体がシュワシュワと注がれる。
グラスの向こうで朝倉先生が柔らかい微笑みを浮かべていた。
「乾杯」とグラスを合わせ、ワイングラスの向こうに朝倉先生が見えると嬉しいような気恥ずかしいような感覚になりながらマネキネコのスパークリングワインを口に含んだ。口の中で炭酸が弾け、辛口のシトラスやリンゴを思わせるフルーティーな味わいの泡が爽やかに広がる。
カルパッチョにも良く合い美味しい。
朝倉先生の作ってくれたパスタもクリームパスタなのにしつこくなく、それでいて濃厚。
お店で出てきても何ら遜色ない出来栄えに舌鼓を打つ。
「パスタ、すごく美味しい。作り方を教えてくださいね」
「レシピをメモして置くよ。それと、いつでも作ってあげるよ」
この後の事に期待して胸を高鳴らせているのは私だけではないはずだ。絡んだ二人の視線が艶めき、アルコールのせいか顔に火照りを感じる。
食事を終えて残りのワインを飲み干すと落ち着かない気持ちなり、それを誤魔化すように片付けを始める。
食べ終わった食器をキッチンに運び、洗い物を始める。
朝倉先生もキッチンにやってきた。
「食洗器の使い方わかる?」
「この機種は初めてなので教えてください」
「ココを引き出すと洗剤が入れられるから、後は、並べてスイッチを……」
と肩が触れた。
ドキンと心臓が跳ねる。
朝倉先生のオーデトワレのラストノートの香りに包まれた。