コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、王都『レッドパルサード』にて。
宿をとったリオン、アリス、シルヴィは、しばらく滞在するために買い物などをしていた。
大会は一週間後に始まるという。
金はある程度は持っているが、節約するに越したことは無い。
酒場で食事をした後、すぐに宿に戻った。
「今日はもう休んで明日から本格的に練習を始めましょう」
「ああ…」
「賛成だ」
アリスの提案にリオンとシルヴィは賛同した。
特に疲れていたわけでは無いが、万全の状態で挑むために休息をとることにしたのだ。
しかし、アリスは部屋に戻るなりベッドに横になった。
「じゃあ、わたしは先に休みますね。おやすみなさい」
「うん、ゆっくり休むといいよ」
「はい」
リオンに返事をすると、アリスはすぐに寝てしまった。
明日は早くから、ロゼッタと共に王立図書館へ行くらしい。
いろいろと彼女たちなりに『考え』があるという。
そのため、今のうちに疲れをとっておこう、という訳だ。
一方、シルヴィはまだ眠くないらしく、リオンの部屋にやってきた。
「ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」
「いいけど、どうしたんだ?」
「えっと…その…」
シルヴィは何かを言いづらそうにしている。
リオンはその様子であることを察した。
先ほどのガ―レットたちとのやりとり。
それを気にしてくれているのだろう、と。
「…あの男が連れていた女が、キミの探していた人なのか」
ロゼッタの話から、恐らくは『魅了』の効果を受けているのだろう。
リオンたちはそう考えている。
しかし…
「ああ。けど結構、変わったみたいだ…」
『魅了』の効果だと考えても、心に来るものがある。
変わり果てたキョウナ。
今考えると、ルイサも彼のせいで変わってしまったのだろう。
そうでなければ、唯一の肉親である自分を『殺そうとするはず』がない。
彼女たちを取り戻したい。
そう考えるリオン。
しかし心は暗いままだ。
「元気を出せ、さっきの言葉を思い出せ」
『魅了』を解くことができれば元に戻すことができるかもしれな。
さきほど、ロゼッタはそう言った。
彼女が言うからには、『魅了』を解く方法があるのだろう。
それだけが今の希望。
『魅了』を解けば、彼女たちは元に戻る。
「…そうだな」
リオンの表情が明るくなる。
それは本心からの表情なのか
シルヴィを心配させないための作った表情なのかは分からない。
しかし、先ほどの落ち込んだ表情よりはずっとましになったように見える。
「大丈夫だ。それより、そろそろ休まないか?明日もあるし…」
「…ああ」
それから、リオンたちは眠りについた。
翌日、リオンとシルヴィは練習のために王都の修練場を訪れていた。
今、リオンがガ―レットたちにできることは何もない。
気を紛らわせるため、という意味もある。
宿からも近い場所にあったため、迷うこと無くたどり着くことができた。
そこにはすでに、他の参加者と思われる者たちの姿があった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
彼らに挨拶をするリオン。
昨日の落ち込んだ表情とは打って変わり、元気そうだ。
それから、早速訓練が始まった。
まずは軽いランニングから始まり、素振り、打ち込みと進んでいった。
そして、休憩を挟みながら実戦形式の練習を行う。
リオンとシルヴィは向かい合うようにして立ち、互いに木製の剣を構えた。
「お、模擬戦かい。審判やってやるよ」
「ありがとうございます」
その場にいた男が審判役を買って出てくれた。
審判役の男が開始の合図を出す。
それと同時に、二人は動いた。
「せいっ!!」
シルヴィが素早く踏み込み、突きを放つ。
だが、それは簡単にかわされた。
「くっ…!」
シルヴィはすぐさま距離を取ろうとしたが、すぐに追いつかれた。
今度は横に薙ぎ払う。
だが、それも当たらない。
リオンは最小限の動きで攻撃をさばいていく。
「そこっ!!」
シルヴィが渾身の力を込めて切り上げるが、これもあっさり避けられた。
だが、これは囮だった。
本命は足払いである。
シルヴィの一撃をしゃがみこんで回避し、そのまま足を払った。
「わあっ!?」
見事に引っ掛かったシルヴィはそのまま地面に倒れ込んだ。
リオンは木刀をシルヴィの首元に当てる。
勝負あり、ということだ。
「そこまで!」
審判役の男によって勝敗が告げられた。
どうやら審判役は公平に判定してくれるようだ。
周囲で見ていた者達も拍手を送る。
すると、先ほどの男性が近づいてきた。
「やるじゃないか!まさかあの嬢ちゃんが負けるとはな!」
「いえ、運が良かっただけです」
「ハッハ!!謙遜するなよ!」
男性は豪快に笑いながらリオンの背中を強く叩いた。
そして、シルヴィの方へ歩み寄ると手を差し伸べた。
「ほれ、立てるか?」
「はい、ありがとうございます」
シルヴィは男性の手を掴み、立ち上がった。
そして、二人は握手を交わした。
「お前さんもなかなかの腕前だな」
「ありがとうございます」
「また俺も大会に出るんだ。機会があれば相手してくれよ」
「もちろんです」
「よし、それじゃあ俺は行くぜ。頑張ろうな」
「はい!!」
男はその場を後にした。
そして、リオンはシルヴィに話しかけた。
「シルヴィも強かったよ」
「えへへ、そうかな?」
照れたように笑うシルヴィ。
それから、二人は再び訓練を開始した。
二人はそれぞれ、その場にいた別の参加者に声をかけ、模擬戦を申し込んだ。
この場にいる者は皆、特訓のために来ている。
断る理由も無い。
「よし、兄ちゃん、俺とやろうぜ!」
そう言って、その場にいた男が名乗り出た。
身長は高く、筋骨隆々といった感じの男だ。
年齢は三十代前半くらいだろうか。
彼は木剣を構えると、すぐに攻撃を仕掛けてきた。
「うおおおっ!」
上段からの振り下ろし。
リオンはそれを難なく受け止める。
だが、男の力は予想以上に強く、少しだけ体勢を崩してしまった。
今度はこちらから仕掛ける。
一気に距離を詰め、攻撃を放った。
「むっ…」
だが、それは受け止められてしまった。
しかしそこから連続で攻撃を続けるリオン。
その全てを防がれてしまった。
「やるねぇ…」
「あんたこそ…」
互いに距離を取る二人。
だが、すぐに間合いを詰めた。
それから激しい攻防が続いた。
実力はほぼ互角化に思われたが、リオンの方が上回っていた。
やがて、その差は明確に現れ始めた。
リオンの攻撃が徐々に決まり始める。
「ぐっ…!!」
ついに、その一撃が相手の肩に入った。
さらに、続けて攻撃を入れるリオン。
「ぬう、やるな…」
だが、そこで終わりではなかった。
反撃の隙を与えず、次々と攻撃を繰り出すリオン。
気が付けば、勝負は決していた。
「そこまで!!」
審判役の男の声が響き渡る。
それと同時に、周囲から歓声が上がった。
どうやらかなり白熱した戦いだったらしい。
「いやー、いい試合だったぜ!!」
「ありがとうございました」
「こっちもいい勉強になったよ」
お互いに礼を言い合う。
すると、先ほど審判役をしてくれた男が声をかけてきた。
「お疲れ様。中々いい動きだったぞ」
「ありがとうございます」
「ところで、君はどこから来たんだい?見たところ冒険者みたいだけど」
「僕は最近王都に来たばかりなので」
「なるほどね」
納得するように腕を組む審判役の男。
それから、リオンたちは練習を続けた。
夕方になり、練習は終了となった。
すっかり日が暮れている。
「ふぅ、終わった…」
「お疲れ様」
疲労困ぱいといった様子のシルヴィにリオンはねぎらいの言葉をかけた。
そして、二人は宿へと戻った。
宿に戻るとアリスが出迎えてくれた。
どうやらロゼッタは既に帰宅していたらしく、今は夕食の準備をしているらしい。
「少し時間がかかるぞー」
そう言うロゼッタ。
それを聞き、アリスはリオンに尋ねた。
これからどうするのか、と。
リオンは少し考えたあとに答えた。
「食事ができるまで、少し休んでいてもいいかな?」
「お疲れ様です。では、お休みなさいええ、もちろん」
「ありがとう、少し休むよ…」
挨拶を交わすと、アリスは部屋を出て行った。
そして、一人になったリオンはすぐにベッドの上に横になった。
そう思いながら、リオンはすぐに眠りについてしまった。