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今日もリオンとシルヴィは特訓をしていた。
二人が修行を続けているその間。
ロゼッタとアリスは早朝から、王立図書館を訪れていた。
普段ならば、薬学や錬金術、その他それに応用できるであろう学門を調べるため。
しかし今日は違った。
「うーん…」
分厚い本を机の上に積み重ね、真剣な表情で読み進める彼女。
その横では、ロゼッタも本を読んでいる。
二人はそれぞれ、同じ分野を調べていた。
それは…
「むむむ…」
「どうだい?アリスくん」
「駄目ですねぇ、難しい内容です」
今日ばかりは、彼女も錬金術に関係の無い本を読んでいた。
ガ―レットの使う『魅了』について調べるためだ。
ロゼッタは知識として『魅了』を知ってはいる。
どのような技術なのか、発祥はどこか、そして使い方。
しかし、その詳細は知らない。
「そうかい。ま、焦らずじっくり読むといいさ」
「はい」
二人はさらに本を読み進めていった。
しかし、『魅了』について詳しい内容は見つからなかった。
この魔法の能力はなかなか存在しない貴重な物。
記録自体がほとんど残っていないのだ。
しかし、それでも調べる。
「あの子を助けてあげたいからね…」
小声で呟くロゼッタ。
不安の種は取り除かなければならない。
そうしなければ、リオンは試合にも力が入らないだろう。
彼の本来の力はかなり高い、しかし今はその真の力を発揮できてはいない。
ロゼッタはそのことを知っていた。
「変なところで負けられたら、こっちも困る」
そして数時間が経過した頃だろうか。
アリスが一冊の本を古い書庫から見つけた。
彼女が見つけたのは、ある一つの本だった。
そのタイトルは『賢者の石』というものだ。
「これは…興味深いね」
「はい!なんだか凄そうなことが書いてあります」
期待に満ちた眼差しを向けるアリス。
賢者の石は錬金術と深く関係のあるものだ。
恐らく、昔の錬金術師が書いたものだろう。
ロゼッタはそう考えながら、早速その内容を確認することにした。
そこには、こう書かれていた。
『賢者の石は、あらゆる病を癒し、死者すら蘇らせることができると言われる奇跡の薬である』
と。
それからさらに数時間後。
既に昼も過ぎていた。
二人は宿へと戻ってきてから、昼食を食べてまた読書を続けていた。
「はぁ~」
「お疲れ様。休憩するかい?」
「そうですね。そうします」
椅子から立ち上がり、背伸びをする彼女。
その顔は疲れの色が見え隠れしている。
それも当然のことだろう。
彼女は朝早くからずっと調べ物をしていたのだ。
しかも、内容は難解なものばかり。
疲れないはずがない。
「休憩のスペースがあるから、そこでゆっくりするといい」
「ロゼッタ師匠は?」
「ちょっと軽く散歩をしてくるよ。身体を動かしたいからね」
「わかりました。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」
笑顔を向ける彼女に見送られながら、その場を去る。
そして、ゆっくりとした足取りで図書館を出る。
いい天気だ、そんなことを思いながら歩くこと数分。
彼は広場に出た。
そこでは多くの人で賑わっているようだ。
屋台も出ており、食べ物を売っていたり、遊戯場があったりなど様々だ。
そんな中、ふと気になる店を見つけた。
そこは、占いの館。
特に興味を惹かれたわけではないのだが、なんとなく気になったのだ。
なので、入ってみることにした。
「ようこそ、我が館へ」
中に入ると、そこに居たのは一人の女だった。
黒いローブを着ており、顔はフードに隠れて見えない。
ただ、声からして若い女性だということが推測できた。
「ここでは何を占ってもらえるんだい?」
「なんでも。あんたが知りたいのは恋愛運かい?」
「いや、そういうのじゃなくて…」
「ほう、じゃあ何について知りたいと?」
「これから自分がどうなるのかとか、かな」
「なるほど、未来を知りたいというわけだね」
こくりと首を縦に振る。すると、老婆はその口元に笑みを浮かべた。
ロゼッタも興味津々だ。
こういう占いの類はあまり信じてはいないが、それでも興味を惹かれる物がある。
「では、まずはこの水晶玉を見てごらん」
言われた通りに、水晶玉を見つめる。
その瞬間だった。
突然、その水晶玉にぼんやりとした映像が映し出された。
どこかの森のような場所。
黒く、暗い森だ。
「これがあんたの心を現している」
「これが…?」
「何か隠し事があるみたいだねぇ」
「…まあね」
そうとだけ呟くロゼッタ。
しかし、その瞳の奥には不安の色が浮かんでいた。
それを見透かすように、老婆が告げる。
「安心おし、悪いことは起きないさ。ただ、『人』は選ぶべきだね」
「人?」
「間違った人についていくと、とんでもないことになるよ」
「それはどういう…」
「さて、もう時間だよ」
彼女の問いには答えず、話を終わらせようとする老婆。
ロゼッタは諦めるように息を吐き、立ち上がった。
「ありがとう、おもしろかったよ」
「どういたしまして。星の加護を…」
「ははは。じゃあこれ、お代」
よくわからないことを言う老婆に疑問を抱きつつも、その場を離れる。
食事にでも行こうか。
そう考え脚を進める。
しかし…
「ん、お前は確か…」
最悪のタイミングだった。
ロゼッタが出会った相手、それはガ―レットだった。
彼も、たまたまこの近くを散策していたのだ。
「リオンの連れか、奇遇だな」
「きみは昨日の…」
「ガ―レットだ。お前は…ロゼッタとかいったか」
「ああ、そうだね」
「へぇ、こんなところで会うとは思わなかった」
二人は互いに睨むような視線をぶつけ合う。
そして、沈黙が流れる。
その空気に耐えかねたのか、先に口を開いたのはロゼッタだった。
彼女は静かに言葉を紡ぐ。
まるで、感情を押し殺すかのように。
「…あんた、その魔法をどこで知った?」
「あ?」
「決まってるだろ、『魅了』のことさ」
ロゼッタは真っ直ぐと彼の目を見る。
そこには敵意がありありと込められていた。
しかし、それでもなお彼は平然な態度を崩さない。
それどころか、余裕すら感じさせる様子で語りだす。
己の持つ力の恐ろしさを。
その力がどれだけのものかを。
「俺は選ばれたんだ。神に選ばれたんだよ」
「神に…?馬鹿を言うんじゃない!」
「俺の力は『人を惹きつけるもの』らしい」
「チッ…!ガキには過ぎたる玩具だよ…!」
怒りを露わにするロゼッタ。
しかし、それに対しても彼は冷静さを欠かない。
むしろ、楽しんでいるように見える。
だが、それも無理はないのかもしれない。
何故ならば、彼にとってこれはチャンスなのだから。
自分の力を試すことのできる絶好の機会。
これを利用しない手は無い。
「その力は危険すぎると言ってるんだ!!」
「はっ、今さら何言ってやがる」
「お前みたいな奴が使うと、取り返しのつかないことになるぞ!」
「はぁ、うるせぇなぁ」
彼はため息を吐くと、ロゼッタの瞳をじっと見つめる。
ただ、じっと彼女を見つめるだけだ。
彼女の瞳を、『吸い込まれそうなほどに』じっと見つめる。
そして、そう言いながら彼女の腰に手を伸ばす。
「そんな細かいこと、気にする必要なんかない」
「なっ…」
ロゼッタも女、『魅了』の対象だ。だからこそ、抵抗することができない。
彼に触れられて、身体が熱くなるのを感じる。
心臓が高鳴り、鼓動が早くなる。
「いい加減、黙れよ。面倒臭い」
「あ、う…」
「わかったか?」
「く…ッ」
悔しげに唇を噛みしめるロゼッタ。
その顔からは強い意志のようなものを感じた。
だが、それでもなお彼女の心は揺れ動いている。
それが手に取るようにわかる。
「もうすぐだ…!」
彼は確信する。
あともう少しで、完全に自分の虜になるだろう。
彼女の心を支配できるだろうと。
「(ここまで話が…通じないとは…ッ)」
一方のロゼッタは、必死で抵抗を続ける。
精神力でなんとか『魅了』をはねのけようとする。だが、やはり限界があったようだ。
次第に、意識がぼんやりとしはじめる。
視界が霞み、頭が働かなくなる。
「さあ、来いよ…!」
「あ…ぅ…」
ガクっと膝が折れる。
そのまま倒れそうになる彼女を、ガ―レットが抱き留めた。
次はどこに行こうか、そう思っていたそのときだった。
その瞬間、彼の表情に歓喜の色が浮かぶ。
やっと、手に入れた。
自分だけのものになった。
その喜びを噛みしめるように、彼は彼女の耳元で囁いた。
甘く、優しく、蕩けるように甘い声で。
彼女の脳に直接刻み込むように。
「愛してやるよ、俺の女…」
「く…」
今ロゼッタの目の前にいる男。
それは魔法を悪用する悪人。
そんなことは分かっている。
しかし…
「(いけないことはわかっている。なのに…)」
ロゼッタは頭を振る。
自分はどうかしている。この男は最低な人間だ。
こんな男を愛してはいけない。
絶対に、この男のものになどなってはならない。
そう自分に言い聞かせる。
「はぁ…はぁ…」
「どうした?息が荒いな…」
ロゼッタは必死の思いで言葉を絞り出す。
そして、ガ―レットから距離を取ろうと試みた。
しかし、彼の腕を振り払うことができない。むしろ、その逆だった。
まるで、自ら彼を求めているかのように思えてしまう。
自分が自分ではなくなってしまったような感覚に襲われるロゼッタ…
「(目の前の男が…愛おしくてしょうがない…ッ!)」
「へへ…」
「(こんな…こんな…!)」