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父と母の再婚で、突然「6人兄弟」になった。
父側は、中学1年生の三つ子――いるま、みこと、こさめ。
母側は、高校2年生の三つ子――らん、すち、ひまなつ。
最初の顔合わせの日、リビングに6人が並んだ時の空気は、思ったよりも静かだった。
「今日から家族になるんだ。仲良くな」
父の言葉に、母が「よろしくね」と柔らかく笑う。
高校生組のらんは腕を組んで真面目な顔をしていたし、すちは柔和な笑みを浮かべていて、ひまなつはソファにもたれてあくびをしていた。
一方、中学生組のいるまは落ち着かない様子で辺りを睨むように見ており、こさめは元気いっぱいに「よろしく!」と声を張り上げる。
ただ――みことだけは、ずっと無表情で、誰とも目を合わせようとしなかった。
___
その日の夜。すちは窓辺に立ち、外の夜空を見上げながら口を開く。
「……あの無表情の子、みことくんだっけ」
「そうだな。3人共雰囲気が全然違うな」
ひまなつがぼそりと返す。
すちの脳裏には、ほんの一瞬だけ目が合った時の、みことの虚ろな瞳が焼き付いていた。
温度がなく、どこか痛々しいほどの冷たさ。
「……放っておけないな」
すちは小さくそう呟いた。
___
数日後。
家に帰ると、みことが一人、台所に立っていた。
無表情のまま包丁を握り、野菜を刻んでいる。
すちは思わず声をかけた。
「みことくん、料理するんだね」
「……父さんが帰ってくる前に作らなきゃ、って思っただけ」
淡々とした声。感情の起伏がまるでない。
けれど、その指先はほんの少し震えていた。
「手、震えてる。大丈夫?」
包丁を握るみことの震える手を、思わず取ってしまったすち。
その瞬間、みことの体が強張った。
「……っ」
刹那、包丁がシンクに落ちて高い音を立てる。
みことはその場に崩れ落ち、膝を抱えて蹲った。
「みことくん……?」
すちが慌てて呼びかけるが、返事はない。
虚ろな瞳が宙を彷徨い、焦点を結ばない。
小刻みに肩を震わせながら、口の端がわずかに動く。
「……さわらないで、やめて……」
すちの胸が締め付けられる。
だが次の瞬間――
「なにしてんだ!!」
玄関のドアが乱暴に開く音。
そこに立っていたのはいるまだ。
目の前の光景を見た瞬間、彼の顔が怒りに歪む。
「……みことに何してんだよ!!」
怒鳴り声と同時に、すちは肩を押され、強引にみことから引き離された。
みことはそのまま、いるまの胸にしがみつく。
「俺は……!」
「黙れ!」
いるまの瞳が獣のように光る。
「俺らに近づくな……っ!次は本気でぶっ飛ばすぞ」
低い声が鋭く突き刺さり、すちは言葉を失った。
何かを言おうと口を開くが、いるまはそれを遮るように強く睨みつける。
そして――
「……大丈夫だ、俺がいるから」
そう優しく囁きながら、みことを抱き上げるようにして部屋へと連れていった。
残されたすちは、胸の奥に深いざわめきを覚える。
みことを怖がらせたのは、自分だ。
それでも――あの震えた表情を、忘れることはできなかった。