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千鶴の話を聞いた蒼央もまた、思うことは沢山あった。
自身も家庭環境には恵まれておらず、千鶴とは逆で過干渉な両親の元で育った蒼央。
カメラマンになりたいと両親に話をした時は頭ごなしに反対され、高校卒業後は家出同然に地元を飛び出して身一つで上京した。
蒼央がカメラマンを目指すきっかけとなったフリーカメラマンの久保田 大翔の元へ弟子入りさせてもらい、アルバイトをしながら大翔のアシスタントとしてカメラ技術を学び、元から才能があったことも相俟って、二十歳の時には少しずつ仕事として写真を撮る機会に恵まれ今に至る。
家を出て以降、両親とは疎遠になり、今も顔を見せに帰ることは無い。
実家に居た頃は過干渉だった両親も、今では連絡一つすることは無かった。
けれど蒼央はそれでいいと思っている。
元より一人が合っていた蒼央にとって、実家を出てからは生きていると実感出来る毎日を過ごせていたから。
だからこそ、状況は少し違えど両親と疎遠になりたい千鶴の気持ちは痛い程よく分かるのだ。
「――千鶴」
「はい?」
「今日撮影した写真はこの前よりもかなり出来が良い。それがお前のモデルとしての第一歩の誌面を飾る訳で、世間の人々は初めてモデル・遊佐 千鶴を見ることになる」
「………」
「雑誌が発売したら、一番に両親に報告してやるといい。これから先、モデルとしてもっと有名になるから、静かに見守って欲しいと」
「……そんなことをしても、雑誌なんて、きっと読んでもらえないと思いますし……仮に読んだとしても、良さなんて分からないと思います」
「そんなことは無い。俺が撮ったんだ。今のお前の魅力は最大限引き出せている。だから、見れば必ずお前の良さが分かるはずだ」
そうまで断言出来る蒼央は凄いと千鶴は思った。
それと同時に、蒼央が言うならそうなのかもしれないと前向きに考えられるようにもなった。
「……蒼央さんは、凄いですね」
「凄い?」
「だって、そんな風に堂々と断言してしまうんですから」
「当たり前だろ? 俺は自分の腕に自信がある。けど、それは俺一人じゃ意味が無い。被写体があって初めて成り立つんだ。今回は他でもないお前がモデルなんだから最高の出来になっている。ただ、それだけだ」
「蒼央さん……」
「千鶴、お前はもっと自信を持つべきだ。人間の価値は成績で決まる訳じゃない。お前にはお前の良さがある。そこを伸ばしていけばいいんだ。俺を信じろ――千鶴」
「…………っ」
千鶴の瞳から、ぽたりと涙が零れていく。
千鶴はずっと、誰かに認めて貰いたかった。
佐伯にスカウトされた時、自分にも輝ける場所があるのかもしれないという希望の光が見えた気がしたけれど、芸能界で成功出来る人なんてほんのひと握りだろうと思っていたから、楽しみな反面不安も大きかった。
それでも、兄や姉とは違う方法で両親に認めてもらえるチャンスだと、モデルの道を選んだ千鶴。
まさか、それが人生最大の転機になるとは思いもしなかっただろう。
「私……、蒼央さんに会えて……良かったです」
全てはあの日、蒼央と出逢えたことから始まった。
蒼央に写真を撮ってもらえていなかったら、きっと今の自分は無い。
千鶴はそう思っていた。
「……っ、蒼央さん」
「何だ?」
「私、これからも頑張ります。もっと、もっと……沢山自分を磨いて、自信も持ちます……そして、これからも……私の全てを……蒼央さんに曝け出します。だから、蒼央さん……そんな私を、受け止めて……くれますか?」
蒼央を真っ直ぐに見つめた千鶴は、これからの自分の全てを蒼央に曝け出すこと、そんな自分を受け止めてくれるかと問い掛ける。
そんな千鶴に蒼央は、
「愚問だな。頼まれなくても俺はお前の全てを受け止めるつもりだ。俺には遠慮なんてしなくていい。言いたいことがあるならはっきりと言え。して欲しいことがあれば何でも言ってくれ。お前のことは俺が責任を持つ。そして、俺が必ず、お前を誰よりも輝かせてやるから――」
自身の決意を言葉にしながら涙を拭う千鶴を静かに優しく抱き締めた。