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強行突入の案も結構根強かったのだが、
「ここまでくれば敵は袋のネズミ。焦る必要もなかろう?」
このひと言で作戦は俺が勧めた兵糧攻めと決まった。
さすがはアラン卿である。
時間こそかかるが味方に損害が出ないし確実だからね。
町中でドンパチやれば、少なからず周りの住民にも迷惑がかかるだろう。
それになにか罠を張って待ち受けているともしれないのだ。
そう考えると、ここでは兵糧攻めが理想的な作戦といえるな。
それでもって やり方も簡単!
代官屋敷の前に騎士団が交代で陣取り監視して、白旗を上げて降伏してくる者を連行する。
たったそれだけの簡単なお仕事なのだ。
この作戦の準備としては、
カイル (ダンジョン) に指示をだし、屋敷の井戸と水瓶の水を枯らす。
次に食料庫に入っている肉や野菜を没収。
さらに、食糧倉庫に納めてある小麦粉なども全てボッシュート。
水が無いのだから小麦粉などは引き上げなくてもよかったのだが、これは精神的に追い込むためのものだな。
あとは板で作った看板に、【降伏する際は武器を捨て白旗を振って一人ずつ出てくる事】と書いて屋敷の周りに立てていった。
ちなみに代官屋敷の周りは結界が張ってあり、どこからも出入りすることはできない。
唯一、正面の門からだけ外に出れるようにしているが、武器を携帯せず一人一人間隔をおいて出てくる必要がある。
こちらの準備が整ったようなので作戦開始だ。
さてさて、何日持ちますことやら。
人は水が無ければ3日程しか生きられないのだ。
これで敵の士気はガタ落ちし、明日にでもぼろぼろと投降してくるだろう。
見せてもらおうか、ミヤーテ・ベス軍の往生際の悪さを!
俺たちは監視班の15名を残し、ダンジョンの秘密基地へと引き上げた。
アラン卿と簡単に打ち合わせを済まし、夕食をとったあとは一緒に大浴場に浸かった。
かぁ――――っ、温泉は最高! 極楽 極楽。
「ふうぅ、これはたまらん! 冷えた身体に染み渡るのう。外で頑張ってくれている部下には申し訳ないが、何もかも忘れてしまいそうになるのう」
この温泉大浴場にはアラン卿もご満悦の様子だ。
やはり掘る場所によって泉質も変わるようで、こちらは硫黄の匂いがほのかに香る ”硫黄泉” だな。
今度、ダンジョン・サラでも温泉を掘ってみるとするか。
(それぞれのダンジョンにそれぞれの温泉かぁ)
いい。すんごくいい。楽しみが一つ増えたな。
それから2日が過ぎた。
この日、初めて投降者がでた。
朝早くに白旗を掲げて7人が投降してきた。
それを皮切りにぽつぽつと増えていき、この日29人が白旗を上げた。
そして4日目。
夜明けと同時に12人、昼までに14人が投降。
夕刻までにはかなりの人間が投降してきた。
この中には非戦闘員である代官邸の執事やメイドなども含まれていたが、この者たちも関係者であるため取り調べは行っていく。
そのうち牢屋が足りなくなりそうだ。急きょ30室増やしこれに対応していく。
また、部屋が臭くなるのも嫌なので牢屋に入れる際はまとめて浄化をかけていった。
囚人に出している食事はスープに黒パン1つなのだが、
よっぽどお腹が空いていたのだろう、みんな涙を流して食べていた。
そして5日目。
とうとう騎士までもが白旗を掲げて投降してきた。
朝の時点で18人。その内の12名がプレートアーマーを着けた騎士であった。
これで代官屋敷に残っている者は8人となった。(ダンジョン調べによる)
そろそろ限界だろう。
置き水があっても腐ってくるだろうし、例え水魔法の使い手が居たとしても腹は減るだろうしな。
今日明日には決着がつきそうである。
しかし、こちらはこちらで大忙し。
100人近く取り調べを行うのだ。まだ1/3も終っていない。
衛兵隊も協力してくれているのだがてんてこ舞いである。
まあ、時間はゆっくり有るので関係者には頑張ってもらいたいところだな。
そして6日目。
まだまだねばっているようだ。
そして迎えた7日目。
とうとう、ミヤーテ・ベス自らが白旗を掲げて投降してきた。
その後には女人と子供、執事、そして騎士と続いていた。
屋敷に誰も居ないことを確認して結界を解くと、さっそく待機していたアラン卿をはじめ10名の騎士達が代官屋敷に入っていった。
いわゆる家宅捜索である。
俺もシロを連れて後を追った。
シロに頼んで、隠し通路や隠し部屋がないかも調べていった。
――やはりあったか。
執務室の壁に作り込んである大きな本棚だ。
本の後ろに隠してあったレバーを引くと本棚が横にスライドする仕組みだ。
(なにか ”マルサ” みたいでワクワクするな)
3坪程の小さな部屋だが。見事な隠し部屋である。
中に入ると金塊が入ったマジックバッグや不正取引の証拠となるような書類などが山のように出てきた。
それを引っ張り出しながら、アラン卿が持ってきたマジックバッグへと詰め替えていく。
この量の書類を秘密基地に戻ってから精査していくのかな?
――ご苦労様です。
その後もシロを連れて各部屋を見回ってみたが隠し部屋などは発見できず、へそくりだろうか? お金を数ヶ所で見つけただけであった。
………………
一方、取り調べの方は順調で、流石のミヤーテ・ベスも ”もはや逃げられない” と観念したのか取り調べには素直に応じているようだ。
このミヤーテ・ベス の証言によりナルーツ領において流通貿易に携わっていた文官 ルデン・カブチーイ がこれまでの不正に大きく関わっている事が明らかになった。
この法衣子爵であるルデン・カブチーイとミヤーテ・ベスは王都の貴族学校からの旧知の間柄であったことは以前からの調査で明らかになっている。
共に結託してダンジョンからしか取れないミスリルの他、さまざまな迷宮物資をナルーツ領からの貿易路線に乗せて隣国のエスプリ帝国へと横流しをしていたようだ。
これは押収資料からも分かるのだが、かなり派手にやって私腹を肥やしていたようだな。
こちらの ルデン・カブチーイ も早々に捕縛命令が下り、じきに捕まるだろう。
あとは迷宮都市においてマーカーが付いてる者がまだ7人いるようなので、そのまま牢屋の方に送っておいた。
白か黒かは今後の取り調べでハッキリするだろう。
まあ、マーカーが付いてる時点で白は有り得ないと思うんだけどね。
更に20日が過ぎた。
外では雪がチラついていたりする。
容疑者に対する事情聴取や尋問はようやく一段落ついた。
長きに渡る不正により、かなり多くの人間が関わっていたのだから仕方がない。
しかし、これにて迷宮都市カイルで起きた一連の不正事件に対しての捜査は大方が終了したことになる。
アランさんはそのままカイルに残って残務整理と迷宮都市の運営の舵取りをやっていくそうだ。
後任が決まって、業務を引き継ぐまでは帰れないということだった。
俺は一足早く王都に戻ることにした。
別れの挨拶の折、
「今回も、いろいろと世話になった。こちらの事件の解決は私の悲願でもあったのだ。本当にありがとう。向こうに戻ったらメアリーにもよろしく言っておいてくれ。そしてその……、あまり甘やかさないでくれよ」
俺の肩をポンポンと叩くアランさんはどこか晴れやかな顔で笑っていた。
「はい、王国の臣下として当然の事をしたまでです。幾日かしたら、またお伺いします。その時はアストレアさんとメアリーも呼んで食事でも致しましょう」
そう言い残し俺とシロは転送陣に乗った。
また、置き土産として、秘密基地と王宮間で手紙のやり取りが行えるよう例の転送ワッペンを渡しておいた。
俺たちは王都アラン邸の玄関前に戻ってきた。
玄関から中に入るとすぐにメアリーが飛びついてきた。
(おおっとっと、今4~5mはあったぞ!)
胸に抱きついてきて元気に尻尾が振られている。
おおーよしよし! わかったわかった!
仕事帰りに玄関先で待っていた犬のようだ。
ようやくメアリーを落ち着かせて腕抱きにする。
「お帰りなさい。ゲンパパ」
――チュッ!
メアリーからキスされてしまった。頬にだけど。
はぁ、誰だ! 誰がおしえた?
……マリアベルだなぁ~。あのやろ~。
マリアベルはメアリーが一人で寂しい思いをしているだろうと、チャトを連れて度々こちらに遊びに来ていたそうだ。
いやいや有難いことだよな。
これじゃあ怒れないだろーが!
………………
アラン邸にて迷宮都市での近況をアストレアさんへ報告したのち、俺たちはツーハイム邸に帰ってきた。
玄関から中に入ると、
「「「「お帰りなさいませ。ご主人様!」」」」
みんなが出迎えてくれる。
俺は右手を上げてそれに答えてから、
「シオン、今戻ったぞ。なにか変わった事はなかったか?」
「はい、取り急ぎ一件だけ。 戻り次第、王宮へ参内するようにとの事です」
ふむ……。
まだしばらくは、のんびりさせてはもらえないようだ。