「……どう思う?」
俺は隣に立つ白狼へ尋ねた。
俺達がいるのは『月読機関・本部』と呼ばれるビルの屋上だ。そこからだと『大霊峰富士』の全貌が見えるため、「富士の大噴火の原因究明調査のため現地に赴いたが、富士山の様子が変だったために原因解明の調査を開始したところ異界へと転移してしまったのだ!」という設定で行動することにしたのだ。ちなみに白衣を着ていて眼鏡をかけているため「謎の科学者」といった風貌だ。
(……そうだな。まず言えることは『あの女狐は嘘をつくのが得意な奴だということだろう』)
「確かに……まぁでも、まだ分からないことも多いけどね」
俺は苦笑しながらそう言った。なぜなら白狼の言っていることも事実であり否定出来ないからである。実際、今回の件に関してはまだ不明な部分が多いからだ。ただ分かることといえば、今回現れた魔人『ルミエル』は俺たちの世界では考えられない程の力を持っているということだけであろう。しかも『異世界転移魔法』なんていうとんでもない代物まで持っていたのだ。あの時のルミエルとの戦いはかなり厳しいものであったことは間違いないだろうと思う。もし、あの時ルミナスの力が発動していなかったならばどうなっていただろうかと考えるだけでも恐ろしいものだ。おそらく俺も他の皆もこの世にはいなかっただろう。それだけの実力差があったように思うのだ。
それにしても今回はよく頑張ってくれたものである。今までにも何度も助けられているというのに何度礼を述べても足りないくらいだ。もちろん感謝の言葉だけでは物足りないのだが、どうすれば恩返しができるのかわからないというのが歯痒くて仕方ない。
ともあれ、今回もこうして何とか生き延びることができた。後は無事に元の世界へ戻れることを祈るのみ――
そこまで考えて俺はハッとなった。そういえばこの『異世界漂流物語~帰還編~』では主人公が元の世界で生きているかどうかは明記されていなかったのだ! ということは、ここで死んだまま二度と帰れなかったという可能性も十分考えられるではないか!! はぁーっと深い溜息をつく。すると全身が痛みを訴える。改めて見回してみればここは戦場ではなく病室だった。
あの戦場での体験を思い出したところで俺はあることに思い当たった。私の記憶に残っている最後の戦い、すなわち敵本陣に突入してきた半妖との戦いの最中のこと――俺が倒した相手の中には、かつて人間だった者たちもいたはずだ。