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2日後の早朝、戦いが始まった。
……いや、戦い自体はずっと続いているんだけど、最後の戦いが始まったのだ。
今回は私も街から出て、たくさんの兵士や冒険者たちに混じっていた。
王国軍がいわゆる軍隊なのに対して、こちらはいろいろな寄せ集め……といった感じだ。
「思ったより冒険者もいるんだねぇ……。ちょっと怖い人が多いけど」
周囲にいる強面を眺めながらそんなことを言うと、ルークは丁寧に教えてくれた。
「はい、『仕事』としては報酬が多いですから。
特に活躍した人には、かなりの額が支給されるそうですよ」
「ふーん? ……でもそれ、いざというときは大丈夫かなぁ。
敗戦が濃厚になったら、一気に崩れる……みたいな」
「要所はクレントスの騎士団が押さえていますし、今のところは上手くまわっていますね。
少なからず王政への不満を持っている人たちなので、そこまで薄情でも無いでしょう」
……まぁ、そんな心配をしても今さらか。
アイーシャさんはそこを含めて、戦いを起こしているのだから。
「ところで、いつもはどんな感じで戦っているの?
今は前線の一部が小競り合いをしているくらいだけど」
「いつもこんな感じですよ。ね、ルークさん」
私の言葉に、エミリアさんがぴょこんと反応してきた。
エミリアさんは何回も参加しているせいか、とても落ち着いているように見える。
「そうですね、今までは小競り合いをして終了……といった流れでした。
王国軍は増援待ちでしたし、こちらは戦力が少ないので、なかなか踏み込めない状態だったんです」
「ふむー。今日は魔星クリームヒルトが来るだろうし、総力戦になるのかなぁ……」
「いずれそうなるのであれば、早々に決着を付けてしまいたいところですが……。
どこでどうなるかは分かりませんので、お二人とも十分に気を付けてください」
「うん、みんなで元気に戻ろうね」
「はい! 祝勝会で、たくさんお料理を食べましょう!」
戦場にあっても、エミリアさんは平常運転だ。
実際、この明るさには何度助けられてきたことか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――改めて考えると、ここは戦場である。
戦場では命を賭して戦い合い、殺し合う。
従って、怪我人なんてものはたくさん、簡単に出てしまうわけだ。
「あぅ……。はぁ、はぁ……」
時間を経るにつれて、救護スペースには怪我人が多く運ばれるようになってきた。
小競り合いはとうに終わり、今は結構な人数同士でまともにぶつかり合っている。
想像以上に怪我人が多いようで、私とエミリアさんは救護班に参加することにしていた。
「大丈夫です、気を確かに!!」
私は怪我人に大声で話し掛けながら、どんどんポーションを作って振り掛けていく。
支給品のポーションはたくさんあるものの、いつ無くなってしまうかは分からない。
だから、自分で使う分についてはその場で作りながら使うことにしていた。
「あ、ありがとう……。
はぁ、マジで熱っちいわ……」
熱い――そういえばこの短時間で、火傷をする人が多くなってきたように感じる。
それまでは、剣や鈍器での外傷が多かったんだけど――
「もしかして、魔法でやられたんですか?」
「おう……。魔法使いの5人組がいてな、瞬殺だと思って襲い掛かったらこのザマだよ……。
はぁ、情けねぇ……」
「もしかして、魔星クリームヒルト……?」
「俺には分からねぇが、そこらの魔法使いの雰囲気ではなかったな……。
……ああ、すまん。ちょっとだけ眠らせてくれや――」
そう言うと、目の前の男性はすぐに眠ってしまった。
さすがに酷い火傷だったし、今は回復に専念してもらおう。
顔を上げて少し遠くを見てみると、エミリアさんが別の怪我人に魔法を掛けているところだった。
いつもはルークとペアで戦闘に参加をしていたそうだが、今日は救護の方にまわっている。
怪我人が多いというのが理由のひとつだが、もうひとつには、防護の魔法を使えるから……というのもあるらしい。
このスペースを攻められたとしても、少しの時間、少しの人数なら護ることができるためだ。
……確かにエミリアさんは、前線よりもこういった場所にいる方が似合っている。
ちなみにルークは、いつも通り他の部隊に混じって前線に立っている。
私を戦場に残して離れるのは不満そうだったが、私を前線に連れていきたくないという気持ちもあったのだろう。
案外素直に、今のような形になってしまっていた。
「……はぁ。この先、どうなるか分からないなぁ……」
前線の方を眺めてみれば、より一層、戦いは激化しているようだった。
エミリアさん曰く、いつもより戦いのペースが速いらしい。
王国軍としては、きっと戦いを早急に終わらせたいのだろう。
……ルークは無事だろうか。
そこら辺の兵士に負けるとは思わないけど、問題はやはり魔星クリームヒルトだ。
先ほどの怪我人の火傷を見るに、あれは正直痛そうだ。
これが元の世界であれば、元気に動けるようになるまでには相当の時間が掛かるだろう。
しかしこの世界にはポーションがあるから、すぐに回復することができる。
そのせいで、戦いも泥沼になりやすくなってしまう。
こちらの戦力が回復する分には何の問題も無いが、敵の戦力もすぐに回復してしまうわけだから――
「――うおぉおおおぉおおおぉ!! クリームヒルトぉおおおぉおぉ!!!!」
「え!?」
突然、空に大声が響いた。
驚いて見上げると、ポチに乗った獣星が空を駆け、王国軍に一直線に向かっているところだった。
「あぁっ!? 獣星さんっ!!」
エミリアさんも彼を見上げながら、私のところまで走って近付いてきた。
「獣星さん、魔星の名前を叫んでませんでした?
……一体、どういうこと?」
「あの……獣星さんの仲間たちは、魔星に殺されたそうで……。
多分、復讐に――」
獣星は、ここから離れた東門側を今日も護る予定だった。
しかし魔星クリームヒルトの話をどこかで聞いてしまったのだろう。
思わず逆上して、持ち場を離れてしまった……そんな感じだろうか。
「でも私たち、ここからじゃ何もできませんね……」
「はい……」
エミリアさんは心配そうに、そのまま両手を組んで祈り始めた。
せめて、命を落とさずに戻ってきてくれれば良いんだけど――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ちっくしょう……」
エミリアさんの祈りが届いたのか、1時間もすると、酷い火傷をした獣星が私たちの元に運ばれてきた。
運んできたのがポチというあたり、何とも獣星らしいというか……。ただ、ポチも火傷だらけだった。
「獣星さん、大丈夫ですか!? ポーションを掛けますよ!!」
「俺より……ポチを先に……」
「ああ、もう! 一緒に掛けてあげますから! ほら!!」
自分の方が重症なのに、仲間を優先させる獣星。
それは立派な心掛けかもしれないが、何だか無性に歯痒かった。
「うぅ……。アイナ殿には何回助けられたことか……」
「はいはい、こういうときはお互い様ですからね!
はーい、ポチ~♪ ポチにもポーションを掛けてあげますからね~♪」
「グリュ♪」
私の声に、ポチは嬉しそうな返事をしてくれた。
見た目はちょっと怖いけど、ポチって可愛いんだよね。
……飼い主が真っすぐな性格だから、ポチも良い子に育ったのかな。
「それで獣星さん、この火傷は一体どうしたんですか?」
私がポチにポーションを掛けている間、エミリアさんが獣星に念のため……といった感じでヒールを掛け始めた。
エミリアさんはエミリアさんで、獣星を結構気に入っている様子なんだよね。やっぱり、真っすぐなところが良いのかな。
「クリームヒルトに仇討ちをしようと思って突っ込んだんだが……まわりの連中にやられてな……」
「え? クリームヒルトにやられたんじゃないんですか?」
「いや、この火傷自体はクリームヒルトの魔法なんだが、まわりの連中に魔法の障壁を張られてしまったんだ。
こっちの攻撃が通じなくて、そのまま反撃を食らってしまって……」
「魔法の障壁ですか?
……そういえば獣星さんって、攻撃はどうやってやるんです?」
「うん? 基本的にはポチのブレスや直接攻撃だな。
あとは俺も、補助的に弓を使うぞ」
「え、えぇーっ!!?
そ、それを先に言ってくださいよーっ!!」
「お、おぅ!?」
「アイナさん? 何か策でもあるんですか?」
私が頑張って作った矢なら、その局面では絶対に役に立ったはずなのに!!
……でも、それも今だから言えることか。
例の矢は結局1本しか作らなかったから、誰にも渡すことができていなかったんだよね。
誰が魔星クリームヒルトの元に辿り着けるかは分からなかったし、強力な弓使いに心当たりがあるわけでも無かったし。
しかし、実力のありそうな弓使いは案外近くにいたのだ。
本職よりも腕は落ちるかもしれないけど、それでも獣星は七星に選ばれるほどの実力者。
きっと弓の実力も侮れないに違いない! ……多分。