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【mn side】
あの後、足枷を外して貰いデバイスも返してもらった。そして、七人のグループチャットには全員の分かったというスタンプや返信が各々上がってきたらしい。
今、あの廃工場に来ている。暫くすると、聞き慣れた五時のチャイムが町に響いた。心地好い聞き慣れたリズム。ちょっとの間聞いてなかっただけで、とても懐かしく感じる。ギィと錆びた扉がスライドした音が聞こえてきた。沈んでいく夕日が逆光となり真っ黒になっていても、シルエットで並び方も分かる。リト、ウェン、カゲツだ。俺の頭の中で赤く警報がなっている。会えて嬉しい、早く逃げなきゃと二つの派閥がせめぎ合っている。
🍱🦖〈ロウきゅ~ん!突然ココに集まれってなんッ…、〉
俺を見るや否や、三人はヒーローコスチュームに変身する。遅れを取らず、俺の周りにいる四人も変身した。皆の威圧感で無意識にも手が震える。足も震え出し、立っているのも限界になってきた。最終的にはその場にへたり込みカヒュ、ハヒュ、と喘ぐ俺の声が工場に響いた。
👻🔪〈…マナ、大丈夫だ。俺達がいる〉
🐙🌟〈貴方達にはマナに指一本も触らせません〉
俺を庇うように四人が前に出た。少し呼吸が楽になった気がする。カゲツがゆらりと俺に指を指した。
🥷🔫〈お前ら、知っとんのか?〉
🥷🔫〈ソイツは、街一つを崩壊させた。犯罪者や〉
💡〈…勿論、分かってるよ?
カゲツが知ってる事、俺らが知らない訳ないもん〉
🥷🔫〈…うざ〉
カゲツが紫と緑の目で下からね目つけるように俺を睨んだ。こっちも劣らず威嚇するように攻めの体制になる。四人のうち、二人は喉からグルグルと喉がなり、目の前に餌があるかのように爛々と目が輝いていた。
🤝〈何言われたって、俺達が信じた正義を貫くだけだよ〉
リトがキリンちゃんを撫でる。すると気持ち良さそうに目を細めた。
🌩️🦒〈じゃあ、俺達も正義を貫かないとな〉
俺を真っ先に狙って三人が襲いかかって来る。逃げようと思っても足がすくんで逃げられない。だけど予想していた痛みは来なかった。ウェンにはロウが、カゲツにはテツが、リトにはライが立ちはだかりガキンッと鉄と鉄がぶつかり合う音がした。るべは俺を守るように側に来て触手を出した。
🐙🌟〈…俺が必ず護ります〉
「…うんッ」
カゲツが音もなくイッテツの周りをうろちょろと走り回る。時々地面に砂埃が上がるだけで姿は見えない。テツは目を閉じて、ナイフを構えていた。すると再びガキンッと鳴りながらクナイとナイフがぶつかり火花が散った。
🤝 〈ッぐっ!〉
若干テツが押し負けているが、負けじと対抗していた。カゲツの足の速さは百も承知だ。だけどカゲツだけが強くなっている訳じゃない皆格段に強くなっている。テツはもう一つのカッターナイフでカゲツの頬を掠めた。
🥷🔫〈ほぉ…?やるやん、〉
ほっぺから垂れた血を舌なめずりをして舐めとる。隙を与えず、テツはナイフを振りかざした。
💡〈お゙らぁッッ!!〉
リトに重々しいハンマーを振り下ろす。たが力でリトに勝てる訳もなく下から振り下ろしたハンマーを止められた。そしてキリンちゃんが前に出てハンマーに電気を流す。バチバチという音じゃないビリビリだ。地鳴りのように地面が揺れ、一筋ピシッとひびが入った。でもライは恐れずに攻撃の姿勢を崩さなかった。
💡〈ちゃんと電気対策してるよっ!俺の技術を舐めんじゃねえ!〉
ニカッと笑いながら再度リトにハンマーを叩き込む。するとリトがうぐっと呻きながら後ろに下がる。ライは再び飛び上がりハンマーを振った。
👻🔪〈あっれ~、ウェン鈍ったんじゃねーの~?〉
ウェンが大剣を振り回し、それをロウが蝶のように避ける。避ける時にロウのヒーローコスチュームがひらひらと揺れて、まるで舞を踊っているのかと思うほど余裕という言葉が似合う。
👻🔪〈お前らしくねーじゃん〉
ウェンが大声を挙げた。皆の肩がビクッと震え、余韻で耳にキーンとした耳鳴りような音が聞こえてくる。
🍱🦖〈お前に何が分かるッ!!〉
👻🔪〈何にも分かんねーよ。でもお前は分かってるんだろ?違和感に〉
🍱🦖〈っ知らない、〉
👻🔪〈…ふーん〉
その後も俺達には聞こえないほど小さな声でロウはウェンに話しかけている。ウェンは大剣を振り回す手を止めない。だが、次第に手数が少なくなっていった。
👻🔪〈抜刀〉
やっとロウが刀を出し、剣先をウェン向けた。
🥷🔫〈胴ががら空きやぞっ!!〉
カゲツがテツのお腹を蹴り飛ばした。テツは後ろの錆びた何かの機械にぶつかり、地面にへたり込んだ。受け身は取れているようだが、かなり痛そうだ。
「ッテツっ!!」
テツを蹴り飛ばしたカゲツは下を向いていたが、俺が叫ぶとコッチを向いた。
🥷🔫〈…次はお前の番や〉
るべが構えると、カゲツもクナイを構え走る体制になる。
🐙🌟〈かかってこいよ〉
喉がヒリつき痛い。口の中には唾液が溜まっているのに、飲み込むまでに至らなくて溜まっていく一方だ。
??〈…俺さぁ、最近映画見たんだけど、人体で一番弱い所って知ってる?〉
テツがカゲツのこめかみの部分を押すとカゲツが膝から崩れ落ちた。
🌩️🦒〈雷が効かないなら!単純にパワーをぶつけるだけだろッッ!!〉
リトは一気に間合いを詰めてライのお腹にパンチを入れる。ライが宙に舞い地面にベシャリと倒れ込んだ。助けに行きたくて動こうとしたがるべに此処に居てくださいと制止された。
💡〈ッ俺は西のッ、メカニックだっ!〉
ゆっくり立ち上がり、ガラガラの声で叫びながら何処かに指を指す。指を指した方を見てみるとキリンちゃんが小さな鳥籠のような格子に入っていた。リトの変身が解けた。リトが格子を壊そうと手を伸ばすが。
💡〈チェックメイトっっ!〉
リトの背中を目掛けてハンマーを振り下ろした。
👻🔪〈お前、変わったな。…お前に付き合ってた俺が馬鹿だった。〉
唸り、突き放すようにそう言った。ロウの目は、あの時ウェンが俺に向けたような目で。ずっとウェンを睨みつけている。ロウが刀を少し突き出し、ウェンの喉から一筋の血が流れた。薄暗いせいでウェンの顔はよく見えない。でもきっとあの時の俺と同じ顔をしているはずだ。
どうしようもなく悲しくて、でもそれを何処にぶつければ良いのか分かんなくて自分の中で蝕んでいくあの感覚を、
「っ流石に…!」
ロウを止めようと足を一歩進めたが、るべに触手で止められた。何も言わず。
星導に教えて貰ったが、ロウは何も言ってなかったが結構ウェン達に腹を立てていたのだと。そして、でも何があっても、ウェン達を殺す事はないだろうし大丈夫だと。
「…でもッ、」
🐙🌟〈大丈夫、…流石に敵味方の区別はついています〉
るべに離せと訴える為に向けていた目を、再びウェンに戻す。口がはくはくと動いているのは見えるのだが、何か話しているのか俺達には聞こえない。手汗握る瞬間とはこの事。
🍱🦖〈……たく…無かったッ…。〉
👻🔪〈あ゙?〉
🍱🦖〈違和感に気がついたってッ、信じたく無かったんだよッッ!…自分のせいでッ仲間が_ッっ!!
どうしたらいいか…分かん無かったんだもんッ…、〉
工場の天窓から入ってきた月明かりがウェンの涙を照らした。キラキラと輝き地面に落ち数個の染みを作った。
確かにウェンの立場になって考えてみると、とても苦しくてどうしようもなくて、自分なら何も出来ずに周りに合わせて流されてしまうだけだと思う。
🍱🦖〈…もう、疲れたぁ〉
ウェンは大剣を手放しロウの刀に手を伸ばした。そしてロウの刀を素手で掴みんで、首に突き刺すように促した。
👻🔪〈ぉ゙いっ!やめっ、〉
ウェンは強く刀を掴むから、手から鮮血が流れた。ウェンのワイシャツのようなヒーローコスチュームの裾が赤く染まる。
後ろめたい気まずい気持ちなんて、どっかに吹っ飛んで行った。
それよりまず一発殴ってやりたかった。だからるべの触手から抜け出し、ウェンの元に全速力で向かう。そして渾身の一発をお見舞いしてやった。バキッと音を立てて軽く宙を舞った。派手な音を立てて数十センチ先に倒れ込んだ。ジンジンと手の甲が痛い。
🍱🦖〈…っマナ〉
「何でそんな事言うんだよ!…絶対俺の方が辛かったやろ!!」
胸倉を掴み再び拳を上げたが、ウェンの顔が俺より酷い顔になっていて上げた手が固まった。そのまま固まった手で、頬を撫でウェンの涙を掬い取る。
「ね、もう泣かんといてや」
生暖かくて、生命が感じられる。良かった。
生きてる。
🍱🦖〈マナは優しいね〉
ウェンも笑みを浮かべた。
直感で何にも証拠などないが、ウェンはもう大丈夫だ、と感じた。いつも優しい、あのウェンだと。
🐙🌟〈早く皆で帰りましょ?俺はお腹が空きましたぁ〉
空気を読まないるべの腹の虫がぎゅるりと叫び声を上げた。
皆、プっと笑い声を廃工場に響き渡らせた。確かに俺もお腹が空いた。
💡〈そうだね〉
🤝〈早く帰ろ!〉
ロウがこくりと頷く。
俺が殴って転ばせたウェンに手を差し伸べる。
「はよぅ、帰ろう?」
するとウェンは再び涙を流しながら、俺の手を取った。
ありがとう、と言いながら。
〈数日後〉
俺達めちゃつえーは、オリエンス以外出入りがほぼ無い所オリエンス合同拠点に集まっていた。そのうち二人は椅子に縛り付けられて。
👻🔪〈準備は良いか、ウェン〉
はるさんから解毒剤が出来たと連絡が入り。受け取りに行って三時間後、るべとロウが持って帰って来た。ロウがとてつもなく苦くなっていいからうんとよく効く薬を作ってくれとはるさんに頼んだそうだ。瓶の中に入った液体はどす黒い異彩を放っていて、紫色か緑色、茶色のようにも見える液体で見るからに苦そうだった。
🍱🦖〈うん〉
ウェンは多分解けてはいるがマナのために自分のために飲みたいとウェンが自らそう言った。ちなみにカゲツとリトはるべの触手でグルグルに巻いて、無理矢理椅子に座らせている。俺のことを睨んでくるがそれを俺は頑張って無視する。ウェンが小さい瓶に入っている解毒剤を飲み干した。するとピタッと動きが止まり、蒸せ始めた。額には汗が滲み、目は涙目になっていた。
💡〈あ、三十分は水飲んだり食べたりしちゃ駄目らしいよ〉
はるさんから貰った説明書を読んでいるライが、追い討ちをかけるようにそう言った。なんやフッ素みたいやな、と思っていると、ウェンの瞳孔がかっ開いた。それを先に言え!と言わんばかりに手をバタバタと動かす。暫く荒ぶっていたが、少し時間が経つと動きが止まりゴクリと嚥下した。
🍱🦖〈舌が痛い゙〉
👻🔪〈おーし、良くやった〉
ロウがウェンの頭をわしわしと撫でた。気持ち良いのか少し下を向き、もっと撫でてとロウの手に頭をぐりぐりと押し付けた。
するとテツが手を挙げた。
🤝〈えーと、リトくんとカゲツくんにはどうやって飲ませるの?〉
🐙🌟〈…一番難しい所ですよね〉
と、頭を悩ませているとウェンがロウに話掛けた。
🍱🦖〈ロウきゅん解毒剤ちょーだい〉
👻🔪〈?ほい〉
皆、頭の中にはてなが浮かんだだろう。ウェンのすることだ、誰も予測出来ない。
ウェンはカゲツの口に親指を突っ込み、無理矢理口を開かせた。片手で解毒剤の瓶の蓋を開けてカゲツの口の上らへんに持ってくる。
🍱🦖〈_命令。飲んで〉
ビクッとカゲツの肩が震えた。暫くしたら意を決したように、カゲツが自ら口を開いた。するとウェンは、容赦なく口に液体を流し込んだ。瓶の中の液体が無くなるとウェンの指を抜き、吐き出さないように顎を抑えた。
🍱🦖〈ん、飲めたね。いい子〉
カゲツの喉仏が上下したのを確認すると、ウェンはカゲツの唇をなぞる。唇についていた解毒剤を拭き取るためなのだろう。その掬い取った解毒剤をウェンはペロと味わうように舐める。そしてカゲツは俯いた。でも耳は真っ赤だったので多分顔も真っ赤だ。
なんか見てはイケナイものを見てしまった気分になった。そして二人はどういう関係なのか、知りたいような知りたくないような。複雑な気持ちになった。
🐙🌟〈…後はリトだけですかあ〉
るべはロウの手の中にあった解毒剤をかすめ取り、リトに近づいた。リトの威嚇は一行に止まない。だがるべはリトの目と鼻の先に立ち、無理矢理唇を押し当てた。
🌩️🦒〈…へ〉
リトの威嚇が緩んだ隙に、るべは解毒剤を口に含み、再び唇同士を触れされる。リトのんっ、ふっと荒い息遣いと舌が絡まる厭らしい音がこの広い部屋にただ二つ響き渡った。咄嗟にカゲツとテツの方を目を向けると、ウェンはカゲツの目を塞ぎライはイッテツの目を塞いていた、虚無顔で。ロウは石像に見違える程、フリーズしていた。耳を真っ赤に染めて。
解毒剤が移し終わったのか、るべは唇を離した。そして冷蔵庫からペットボトルを取り、すぐに500mlを飲み干した。
🐙🌟〈にっがぁ。…あ、リトは水飲んじゃ駄目ですよぉ〉
にへらと笑いながらリトに話しかける。するとリトが顔を真っ赤に染めてこくりと頷いた。この人誑し。
🍱🦖〈3、2、1、0!〉
30分経ち、ようやく水を飲めるようになると三人は貪るように水を飲む。ひたすら飲む。
🌩️🦒〈い、生き返ったあ〉
🥷🔫〈ほんま、それなあ〉
二人はだらりと溶けるように椅子にもたれ掛かる。この二人がこうなるとなると相当苦いのだろう。考えるだけで身震いをした。
💡〈生き返って直ぐに申し訳ないけど、マナに言うことは?〉
リトとカゲツの肩にポンっと手を置いた。滅多に見ない、笑顔だけど奥底ではぶちギレてる顔だ、あれは。相方の勘がそう言ってる。
🌩️🦒🥷🔫《ごめんなさい》
堅苦しく二人は俺に頭を下げた。床と平行になるぐらい深く。やめてや、と言っても二人は堅く頭を下げたままだった。
🌩️🦒〈別に赦さなくたっていい、赦して貰えると思ってない〉
🥷🔫〈緋八に酷い事を言ったのは分かっとる。嫌いなら嫌いって言ってくれ!〉
ずびずびと鼻水を啜り、床に涙を落としながらそう言った。
あぁ、
🌩️🦒〈もう、全部マナが悪いなんて思ってない〉
🥷🔫〈ごめんな、何も聞かずに緋八が悪いって突き放して。あの時の僕は馬鹿やった〉
止めて、止めてくれ。俺はそんなん望んでない。
🐙🌟〈マナは…もうめちゃつえーのこと、嫌いですか?〉
るべは俺の手を握った。とても震えていて手袋越しでも冷たさが伝わって来る。俺より身長が高いくせに、今だけはまるで右も左も分からないような少年に見えた。
俺以外の六人が俺から少し離れた所で俺を見る。あの時の光景が脳裏を過ぎったがあの時とは違う優しく暖かい眼差し。まるで春の柔らかい日差しのようで体がポカポカする。
「好きだよ」
手を握り返すと、るべは優しく微笑んだ。その目には涙の膜が張られていて今にも泣き出しそうだ。
「でもな、そんな堅苦しいのは好きやない」
一歩、二人の方を向く。
「謝るぐらいやったらご飯でも奢ってくれや、な?」
また一歩、二人の元へ進む。
「やから、早う顔あげて」
二人の背中をさする。あったかい。
次第に頭が上がってきた。二人の顔は鼻水や涙でぐしょぐしょで、こんなんになってるの初めて見た。俺のことを嫌いと言った二人が、今俺の為に泣いてくれて悔やんでくれている。とんと背中を叩いて二人の前に立つ。
「俺は今幸せなんやから、辛気臭い顔せんとって」
大嫌いだった大好きな皆
これからも、よろしゅうな
終わり
ココから下は、関係してるけどほとんど違う作品だと思って下さい。
(次に書く作品に関係があるかも…?)
スマホを起動させ、GPSと連携させたアプリを開く。
するとある居酒屋の住所に丸いマークが現れた。
ピコンピコンと乱れのない音が鳴っては、空気に溶けていった。
あのお気に入りの居酒屋に行って楽しく宴会か、ずるいなぁ。
久しぶりに友達に会えるという事にどくんと心臓が高鳴った。
油臭い勝手口のドアノブに手をかける。
油が付いているのか、ぬるりと滑って気持ち悪い。
それに、脂っこい臭いがどうも臭くてしょうがない。
換気扇から出る特定の弧を描いた煙が雲一つもない夕空に上る。
服にこの臭いを移らせたくない。
早くこの場から去りたくて終わらせたくて、ドアノブを回す。
鍵は空いていた。
ま、鍵が閉まっていても無理矢理こじ開けたけど。
耳が痛くなるような錆びた音を鳴らしながら、中に入る。
もわあとした湿度の高い熱気で、髪を肌に張り付いた。
ここは俺を不快にしかさせない。
鉄と鉄の塊の上で油の塊を掻き混ぜる音が煩い。
すると若い女の子が俺に「お客さんは入らないで」と外に出るように言った。
いつもなら笑って女の子の言うことを聞いていた。
でも今は時が悪かった、俺は苛立っていたから。
普段は使わない細い鉄のワイヤーを懐から取り出して、ピンと指先を動かせば女の子の首は絞まる。
ギリギリと音を立てて女の子は苦しそうに踠く。
そして思い切って引っ張ってみれば女の子の顔は汚い地面に落ちる。
そして頭が無くなった亡骸は、俺に向かって倒れた。
俺の胸に縋るように。お気に入りの着物に気持ち悪い色が付着した。
飛び散った色が彼岸花のような模様を作った。
あーあ高かったのに、と思いながらまた奥へ進む。
するとまた一人女の子が俺の前に立って同じ事を言った。
指先で操って、また首を絞める。
踠く。
殺す。
その繰り返し。
これで厨房は色の海と首のない亡骸だけになった。
一人を除いて。
残った着物の男は暖簾をくぐり、客が沢山集まっている方へ向かう。
面倒臭いからワイヤーを部屋の至る所に張り巡らせて、ゆっくり引っ張る。
すると油の塊を食べている客は何も分からないうちにブチブチと皮膚が裂ける。
泣き、喚き、暴れて、息を引き取る。
この瞬間だけは不快感もリセット出来る。
ぼてと知らない誰かの顔が足元に転がる。
そして頭のない死体は心臓から送り出された色が噴水のように上がる。
ワイヤーから伝って誰のか分からない生暖かい色が流れて来る。
手入れが大変だろうな、と悪態を付きながら一つの個室に向かう。
個室の畳や壁紙に赤い飛沫が広がっていた。
絵のように。
友達だけは身体が傷つかないように丁寧に糸を引っ張ってやったから、傷一つ付いていなかった。
優しく持ち上げてやり、個室を出る。
俺の手から溢れる友達の身体を、零さぬようにゆっくりと。
友達の目は虚ろで、ほっぺに飛び跳ねていた真紅を舐め取ってやると、やっぱり食えたもんじゃないない。
口に広がる鉄の味、それを唾液と一緒に嚥下する。
でも完全に味が消え無かった、口直しがしたい。
さぁ早く帰ろう。
友達となら俺はどこまでも着いて行く、どこでもいいよ、外国でも、宇宙でも、異星でも。
友達は俺を見て優しく微笑んでいた。
強い方が正義、俺は貫いたんだ。
どんな方法を使ってでも。
一人で高笑う。
俺から友達を奪ったアイツらを貶すように。
あぁ、やっぱり友達と遊ぶのは楽しいや。
さて友達は起きたらどんな反応するかな。
泣いちゃうかな、怒るかな、俺を罵るかな。
いっそ俺も殺してくれと縋るだろうか。
出来たら泣いて欲しいなあ。
まあそんな未来、来ないから知らないけど。
埋め込んだGPSを分厚い皮膚越しにキスをする。
保湿の為に付けていたリップクリームが彼の服に付いた。
月明かりに照らされそこだけキラキラと輝いている。
バキバキと音を立てて友達だったものを壊す。
ボルトやら回線が足元に散らばる。
ガシャンと煩い音を立てて頭が地面に転がった。
それを蹴飛ばすと電柱に当たった。
クリーンヒットしたことによる爽快感でヒュウと口を鳴らす。
出てきたGPSを踏み潰す。
良かった、友達に機械詳しい人がいて。
「ね、秘密結社幹部の____君?」
友達の前ではいつも黄緑色のはずのメッシュが真紅に染まっている。
俺がワイヤーで外した腕を肩に瞬時に取り付けて手をグーパーと繰り返している。
「は、突然殺してきた奴がなに言ってんの?」
「でも__は俺達のモノになったよ?」
「それはそうだけど。突然__のコピー作れって、めちゃくちゃ大変だったんだけど」
アッチでもデータの解析やら捏造を頑張ってて、それに__のコピーの作成か、大変そー。
「でも一日弱で作ってくれるなんて、さすが西のメカニック様だねぇ」
「それ辞めろ」
じと、と俺を睨みつける。
「じゃあ帰ろっか」
俺達のオヒメサマがいる所へ。
祝福するように、白い月が俺達を照らした。
コメント
4件
お疲れ様でした‼️めちゃくちゃ良かったです…😿
良きでした(^o^)👌