テラーノベル
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夏祭り当日、大学構内の広場には、夏本番の強い日差しと熱気の中、朝から出店のテントがずらりと並んでいた。その一角、五人が仕上げた占いの店は、周囲の模擬店とは一線を画す、妖しさ満点の佇まいで完成していた。
とりあえず暗くしとけという乱暴な太智の指示のもと、遮光性抜群の布で一面を囲われていた。
ご丁寧に、なにかの伝手でどこからか調達されたスポットクーラーも大活躍である。むしろ少々寒いぐらいであった。紫がかった布で覆われたテーブルの上には、あの巨大な水晶玉が鎮座し、間接照明が部屋を幻想的に照らし出している。内装と言われるほど大したものは用意できていなかったが、いかんせん暗いからすべては見えない。
そして、金と黄の衣装を纏った仁人と、白と銀の衣装を纏った柔太朗が、それぞれのテーブルに着くとそれっぽい雰囲気にはなっている気がした。
「なにこの店、めっちゃ本格的」
「占い師の人たち、なんかもう説得力すごくない?」
「とりあえず涼しいところで座りたい」
周りの模擬店とは全く異なる商品とリートの仕方でできた黒山の人だかりを前に、太智はレジ代わりの小箱を握りしめ、にんまりと笑った。
「これは、いける!」
肝心の占いをどうやってするかは、この一ヶ月、太智と舜太が何度もテストを重ねてくみ上げた。
客の相談内容を、それぞれの机の下についた集音マイクが拾い、一台ずつ近くに隠したノートパソコンへと飛ばす。あとは、あらかじめAIエージェントで、文字起こし・要約・占いの実施・それらしい助言の生成を行い、音声に変換して二人の耳元の骨伝導イヤホンへと送り返す。人が裏でリアルタイムに操作する必要はない。いわば、全自動の占い補助AIエージェントが用意できていた。
「本当にAIさまさまや――現代に生まれてよかったな!」
太智ができあがったものの精度にしみじみと言えば、舜太も得意げに頷いた。
「そうやろ?これであとは二人の雰囲気勝負で勝てる」
最も大切なのは、耳元の骨伝導イヤホンがばれないことである。
柔太朗は、骨伝導イヤホンに直接いろいろな装飾品を取り付けてアクセサリーとして仕立てあげることにした。いざ出来上がれば、それっぽいイヤーカフに見える気もする。
「これなら、たぶん機材って気づかれないと思う」
出来上がったイヤーカフを見せながら、柔太朗は満足げに微笑んでいた。
いざという場合に備えて、イヤホンが見えないように柔太朗も仁人も、いつもよりふわふわした髪型にセットして、髪のボリュームでごまかせるようにもした。
開店から数時間、店は予想を超える盛況ぶりを見せていた。
「――なるほど。あなたの恋愛運は、今月末に大きく動きます。ただし、焦って動くと、逆に縁を遠ざける形になりそうですね」
仁人は、耳元から流れる言葉を、自分の言葉であるかのように、涼しい顔で紡いでいく。もともとの端正な顔立ちと、抑えた声のトーンも相まって、客たちは一様に、深く頷きながら聞き入っていた。
隣のテーブルでは、柔太朗も同じ仕組みを使いながら、こちらは柔らかい物腰で、客の緊張をほぐすように話している。
だが、順調に思えた最中、事件は起きた。
「わあ、そのイヤリング、すごく綺麗ですね。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
占いの最中、髪の間からちらっと見えた装飾のきらめきを見逃さなかった一人の女子学生が、無邪気に手を伸ばしてきたのだ。仁人の耳元にその指先が、あと数センチというところまで迫る。
「――っ」
一瞬、空気が固まった。
けれど、仁人は表情ひとつ変えず、すっと耳を庇うように髪を落としながら、涼しい顔で答えた。
「これは、大切な人からもらったものなんです。だからご遠慮いただけますか。」
「あ、そうなんですね! すみません」
素直に納得した客が、名残惜しそうに手を引っ込める。その一部始終が隣で聞こえていた柔太朗は気が気でなかったが、そっと胸を撫で下ろした。
「今の、心臓に悪すぎる」
客が去った後、柔太朗が小声で漏らすと、様子を見に来ていた太智も青い顔で頷いた。
「さすがにひやっとしたわ、今の」
「仁ちゃんが機転がきいてよかったね…」
一方、占いを終えた客をさばいていたのは、舜太と勇斗だった。二人が担当していたのは、「運気向上ドリンク」の販売である。
「恋愛運上がったって言われた方ー! こっちにおすすめのドリンクありますよ!」
呼び込みの声も軽やかに、舜太がメニューを掲げる。手作りの札には、こんな言葉が並んでいた。
「恋愛運アップには『桃色シンデレラ』――桃とクランベリーのノンアルコールカクテルで、グレナデンシロップの層が綺麗な一杯」
「金運アップなら『爆裂な黄金』――オレンジとマンゴーをベースに、食用ゴールドパウダーをきらきら散らしてあります」
「学業運・仕事運には『賢者のミント』――ミントとレモネードで、頭がすっきりする一杯」
「健康運には『エナジーサンライズ』――オレンジジュースとグレナデンシロップを層にした、日の出みたいな見た目であなたに元気を」
「総合運には、これ」
勇斗が最後に掲げたのは、白ぶどうジュースとソーダで作った、澄んだ白色の一杯だった。
「名付けて『白蛇のしずく』。なんか、縁起よさそうだろ?」
「勇ちゃんって、ネーミングセンスがいいのか悪いのかわかんないよね」
「――一杯どうですか? 占い結果に合わせて選ぶと、なんか、御利益ありそうな気がしません?」
にこやかに勧める二人の口車に乗せられ、客は次々と追加でドリンクを注文していく。単純に暑かったからかもしれない。ドリンクの出来が良かったからだったかもしれない。理由は何であれ、太智の狙い通り単価はじわじわと、けれど確実に上がっていった。
その後は大きなトラブルもなく、閉店の時間を迎えた。
「で、結局、いくら稼いだんだ?」
疲労困憊の仁人が尋ねると、太智が電卓を掲げながら、満面の笑みで答えた。
「目標額、余裕で突破や! これでみんなで、豪遊旅行、行けるで!」
「やったー!」
真っ先に声を上げたのは勇斗だった。舜太と柔太朗も、疲れも忘れたように顔を見合わせて笑う。
「――にしても、鬼のように働いたな、今日は」
仁人が肩を回しながら呟くと、太智がその肩をぽんと叩いた。
「お疲れさん。ほんまに、みんなようやったわ」
夕暮れの広場に、片付けを終えた五人の笑い声が、いつまでも響いていた。
水虹ひにゃ@リムらないでほしい
コメント
1件
読み終えた〜!占いのシステム、AI使って生で生成してるのがもう現代の魔法みたいでワクワクしたわ。仁人がイヤリング見せてって言われたときの機転、めっちゃ痺れた。あれだけのピンチを涼しい顔でかわすのカッコよすぎるやろ。ドリンクのネーミングセンスも絶妙で、「白蛇のしずく」が一番刺さった。チームワーク良すぎて読んでてこっちまで楽しかったわ!