テラーノベル
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影の勇者ヴァルターの身代金交渉と裏資金の差押えをハンスに丸投げしてから、数日。激動の東西国家の侵攻も、勇者陣営の暗殺未遂騒動も一段落し、魔王城には久しぶりに「退屈」と言っていいほどの平和な日常が戻ってきていた。
俺は自室のソファに深々と身を沈め、愛用の消音拳銃(サイレンサー)の最終メンテナンスを行っていた。隣ではシエルが、俺好みに淹れてくれた三杯目の苦いコーヒーの香りを漂わせながら、静かに風の結界で部屋の温度を快適に保ってくれている。
「……ふぅ。静かなのはいいことだ」
冷えたコーヒーを喉に流し込み、俺は本日何度目かわからない盛大な欠伸を噛み殺した。
だが——俺の望む「静寂」という奴は、この城ではいつも命が短い。
**バァァァンッ!!**
重厚なオーク材のドアが、本日も遠慮というものを全く感じさせない勢いで派手に蹴破られた。
「クロードッ! いつまでそうやってシエルと二人でしっぽりくつろいでるのよッ!!」
一番手に怒鳴り込んできたのはセリスだ。手に持ちきれないほどの書類の山を抱え、眉間にしわを寄せながら俺のデスクへドサリとそれを押し付けた。
「東西の賠償金請求の事務処理と、新しく接収した境界線の交易ルートの承認書類! 減税だ何だと民草に格好いいこと言ったんだから、魔王らしく少しはペンを握りなさいよ!」
「……セリス。書類の二割は、もうシエルとクロードで昨日のうちに片付けた。……セリスの計算ミスも修正しておいた」
シエルが表情一つ変えずにボソッと追撃を放つ。
「な……ッ!? ア、アタシの計算ミス……!? 嘘でしょ、どこよ……あ、本当だ、桁が一つズレてる……うぐぐ……っ」
顔を真っ赤にして絶句するセリスの後ろから、今度はエレナがトレーニングウェアのような露出度の高い服で入ってきた。
「ちょっとクロード! 事務仕事ばっかりしてると体が鈍るわよ! ほら、庭の訓練場でアタシと一本勝負しなさい! 負けた方は相手の言うことを一つ聞くこと!」
「断る。体力を無駄に使う趣味はない。やるならハンスから買い叩いた新型の自動射撃ドールとでもやってろ」
「なによそれ! アタシはクロードと肌を合わせたいの! 電気の刺激で目を覚ましてあげようか!?」
バチバチと紫電を撒き散らすエレナを、俺は冷ややかにスルーした。
そこへ、両手に焼き立てのエプロン姿のシャーロットが、甘い香りを漂わせながら滑り込んできた。
「クロードーっ! 私特製の『爆発的に美味しい手作りチェリーパイ』が焼き上がったわよーっ! 隠し味にちょっとだけ可燃性の魔導香辛料を入れてみたの! 一緒に食べましょう!」
「絶対嫌だ。食った瞬間に胃袋が爆縮するだろ」
「大丈夫よ! 私の愛で爆発は相殺されるから!」
「物理法則を無視するな」
室内は一瞬にして、いつもの大騒動へと変貌を遂げた。
書類の山に頭を抱えるセリス、腕組みをして勝負を迫るエレナ、爆縮パイを押し付けようとするシャーロット。そして、俺の隣で「……クロードのコーヒー、冷めちゃう」とマイペースに新しいカップを準備するシエル。
(……はぁ。東西の軍勢八千を地雷原に誘い込む方が、この部屋の温度感を制御するより100倍楽だな)
俺は心の中で不快な溜息を吐きながらも、どこか呆れ混じりの笑みを浮かべた。
決死の闘技会、180倍の払戻金、泥を啜るような裏工作、そして押し付けられた魔王の座。
かつて屋敷の地下で「ハーフの出来損ない」と蔑まれていた頃には、想像すらしていなかった賑やかで煩わしい日常。
「……おい、お前ら」
俺は消音拳銃をホルスターに収めると、ソファからゆっくりと立ち上がった。
「パイは爆発物を抜きにして切り分けろ。エレナの訓練は15分だけ、光学迷彩の追跡ドリルにつきあう。セリスの書類は残りを1時間で片付ける。……それで文句はないな?」
俺の言葉に、一瞬で三人の顔が明るくなった。
「ふ、フン! 始めからそう言えばいいのよバカクロード!」
「やったわ! 15分で引き分け以上に持ち込んで見せるんだから!」
「爆発物は魔法で綺麗に分解してお皿に盛るわねーっ!」
騒がしく準備を始めるヒロインどもを横目に、俺はシエルから受け取った淹れたての苦いコーヒーを一口すする。
「……クロード。……やっぱり、少し楽しそう」
シエルが隣で、ほんの微かに満足そうに目を細めた。
「……気のせいだ。俺はただ、無駄な騒音を最小限に抑えたいだけだ」
俺はいつもの冷徹な表情を取り戻し、本日最後になるであろう欠伸を噛み殺しながら、賑やかな我が家(魔王城)の日常へと踏み出していった。
ルル
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コメント
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キュルノさん、第43話読みました! 戦いの後に戻ってきた平和な魔王城の日常、すごくほっこりしました☺️ クロードが「退屈」って言いながらも、結局みんなのわがままだいたい聞いてあげてるところ、ツンデレすぎて笑っちゃいました。 シエルの「…少し楽しそう」も優しくてじーんと来た…。 賑やかなヒロインたちの掛け合いと、クロードの冷めたツッコミのバランスが絶妙で、読んでて自然と顔がゆるみました。次も楽しみにしてます!